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性暴力被害を告白した伊藤詩織さんの裁判が明日判決。いま彼女は何を思うのか。

ジャーナリストの伊藤詩織さんに、BuzzFeed Newsがインタビューした。判決日を前に、現在の心境を聞いた。

【UPDATE(2019/12/18 11:38)】

ジャーナリストの伊藤詩織さんが、意識を失った状態で性行為を強要され、重大な肉体的・精神的苦痛を被ったとして、元TBS記者の山口敬之氏に対して起こした民事裁判の判決が12月18日、東京地裁であった。

鈴木昭洋裁判長は、山口氏に330万円の損害賠償の支払いを命じた。一方で、名誉毀損だとして反訴していた山口氏側の請求は棄却した。詳細はこちら

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ジャーナリストの伊藤詩織さんが、意識を失った状態で性行為を強要され、重大な肉体的・精神的苦痛を被ったとして、元TBS記者の山口敬之氏に対して起こした民事裁判の判決が12月18日、東京地方裁判所である。

判決日を控えた16日、BuzzFeed Newsは伊藤さんにインタビューした。現在の心境を聞くと、「実感がない」との言葉が返ってきた。

伊藤さんは2015年4月、当時のTBS・ワシントン支局長だった山口氏と就職相談のために会った。東京都内で食事をすると、2軒目の寿司屋で記憶を失い、痛みで目覚めた。そして、山口氏が宿泊していたホテルのベッドで、レイプされていることに気づいたと主張している。

2017年9月、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めて提訴した。一方、山口氏は2019年2月、記者会見などで伊藤さんに名誉を毀損され、社会的信用を失ったとして、慰謝料1億3000万円や、謝罪広告の掲載を求めて反訴した。

そのため、この裁判では合わせて審理されている。山口氏は「合意があった」「伊藤さんから積極的に誘ってきた」「虚言癖がある」などと法廷で反論している。

「ブラックボックス」に"なぜ"の連続

「もともと勝つ、負けるという判決結果を求めてやっていたわけではありませんでした」

伊藤さんは、民事訴訟に至った理由を語り始めた。

彼女が準強姦容疑(当時)で警視庁に被害届を提出したのは、被害に遭ったという2015年の同じ月のことだ。その後、いったんは逮捕状が出たが、逮捕の直前で取りやめとなり、2016年7月に嫌疑不十分で不起訴となった。

不起訴を受け、伊藤さんが検察審査会に不服申し立てをしたが、検察審査会も「不起訴相当」と判断した。

なぜ直前で逮捕が取りやめとなり、不起訴となったのか。なぜ検察審査会でも不起訴相当としたのか。その明確な理由は、今もわからないままだ。

「捜査や司法にはたくさんのブラックボックスがありました。その中で、民事裁判では、どういった事実や証拠があるのか示され、オープンに話し合える。今の日本の司法では何が機能していて、何が機能していないのかを考えていただくきっかけにもなる。その点でも意味のあることだと思いました」

被害者の「代表」ではない

2017年5月、伊藤さんが「被害者のAさん」ではなく、名字を伏せて名前と顔を公表した記者会見から、性暴力への国内の注目度は一気に加速した。山口氏への不起訴を受け、検察審査会に不服を申し立てたことを報告したものだった。

不起訴までの間にも、複数のメディアに山口氏との件について話を何度も持ち込んだというが、なかなか報じられなかった。しかし、その会見以降、メディアからのインタビュー依頼が殺到した。

その後、アメリカ・ハリウッドで、性暴力被害の経験がある人たちが声をあげ、連帯する「#MeToo」の動きが起きると、日本にもそのキャンペーンの認知を広げた当事者の一人でもある。

ところが、伊藤さんは「自分を当事者の代表だと思ったことはない」ときっぱりと言う。

「手記の『Black Box』を読み返すのは嫌なんですけれど、あの日、どう思っていたんだろうと思って、一応カバンには入れてきたんです」

「この表紙に顔を出すのは、絶対に嫌だったんです。でも、カメラマンさんに『君のことを撮るわけじゃない。君を通して、今は顔が見えない、声が聞けない多くの人たちを写したい』って言ってもらえて」

「その言葉があって、最終的に自分で書いた『Black Box』の文字で顔を隠す形で、顔写真が表紙になったんです。ただ、あくまでこれは私1人の体験にすぎないんです」

癒えない傷と背負うプレッシャー

被害届の提出から4年以上、記者会見で顔と名前を公表してから約2年半という月日が経った。精神的な負担もあったのではないか。

「心の傷は、時間が解決するって言うけれど、やっぱりそうではなかった。4年経っても、急にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に襲われます」

「それって、多くの被害者が経験していると思う。被害に遭った後、とにかくすぐに自分のこれまでの日常に戻ろう、痛みを感じないようにしようとしているけれど、それが数年、人によっては数十年経ってから痛みを感じ出す人もいます」

伊藤さんは裁判で、つい立を設けず、直接、山口氏と顔を合わせる形を選んだ。

その結果、7月の口頭弁論で伊藤さんと山口氏の本人尋問が行われた際、2人は約4年ぶりに再会した。

「私にはたくさんサポートしてくれる人がいるのに、本人尋問の前になって、すごく孤独に感じていたんです。このまま普通に生活できないかもしれないって、恐怖やプレッシャーへの絶望があったのかもしれません」

被害を公表してから、誹謗中傷や脅迫を受けることにもなった。そのショックは想像を超えていたという。また、今回の裁判が進むうちに、応援してくれる人からの期待を受け、「プレッシャーを感じた」のもあったという。

「私は強くなんかない」

「そのときに思ったの。『ほら、被害に遭って公にしたら、いろんな批判をされて結局潰れてしまうんだって』って思われるかもしれない。だから、たとえ、起き上がれなくなっても、前に出る時は大丈夫にしていなきゃって」

「『詩織さんは強いから』『詩織さんだからできるんだよ』ってよく言っていただくんですけれど、私はそうじゃないんです。弱いところがたくさんあります」。そう語りながら、目からは涙がこぼれた。

伊藤さんは、日本での性暴力被害者への支援体制がまだまだ充実していないと考えている。自身がこういった経験をし、改めてその必要性を痛感したという。

「#MeTooに関しても、被害を公にしなくてはいけないという強制はなくて。何が一番その人を守れるか、その人が生活を続けれられるかってことが、一番重視されなくちゃいけないと思う。それがなくては、人は助けを求められないから」

大切にする言葉

伊藤さんは『Believe in your truth(あなたの真実を信じて)』という言葉を大切にしている。

「やっぱり真実は、その人自身にしかわかりません。それに、人はそれだけじゃ生きていけないんです」

「私は『そうだよね、あなたは悪くないよ』『応援しています』って言葉をかけてくれる人がいたから、ここまで歩んでこれました」

「そういった一人一人がいてくれなかったら、つまづいた時、どうにもできなかったかもしれない。もともと周りで支えてくれた人たちを含め、被害を公にすることで仲間がたくさん増えました。しかも、世界中に。これは、会見の日には想像していなかった嬉しいことですね」

民事裁判を起こして「良かった」

判決結果を求めていたわけではない。それでも、声を落とすと、「どうなるんだろうね」とポツリと言った。どんな結果であれ、控訴審に進む可能性は高いと見られる。

「想像ができていないんです。結果が出た後に世論がどう変わっていくのか、自分の身の回りにどんな影響があるのか。それを考えないようにしているから、判決日を前に実感がないのかもしれません」

「文章や証言を通じていろいろクリアになった部分があったので、裁判を起こして良かったと思っています」

本人尋問で、山口氏と対面できたのも「良かった」と感じている。

「どういう風に体が反応するのかはわからなかったんですけれど、彼の表情やどういう気持ちで話をされるのか知りたかったので」

伊藤さんが目指すのは、性被害者を取り巻く法的・社会的システムをより良くし、誰もが声をあげたくなったら、声をあげられる社会にすることだ。

「この裁判は自分のケースの一つのピリオドになるし、重要なもの。ですが、一方で、一つのプロセスなんです」

「ジャーナリストとして、これからも一人一人の経験や人生についてフォーカスした映像を発信していきたい。判決が出ることで、その立場からも問題をさらに考えていくことができるんじゃないかなと思います」

民事裁判の判決は12月18日午前10時半から。伊藤さんはその日の午後、山口氏は翌日に記者会見を開く予定だ。


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