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「彼はどんな風に考えてきたんだろう」。彼女が法廷で見かけたのは父親の姿だった。

ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏に対して起こした民事裁判。父親が傍聴していたと、伊藤さんが報告集会で明かした。

意識を失った状態で性行為を強要され、重大な肉体的・精神的苦痛を被ったとして、元TBS記者の山口敬之氏に対して慰謝料など損害賠償を求めている民事裁判を起こしたジャーナリストの伊藤詩織さん。

東京地裁(鈴木昭洋裁判長)で10月7日、結審。期日を終えると、参議院議員会館での裁判報告集会に出席した。

マイクを握ったのは、まず伊藤さんの代理人を務める弁護士だった。裁判の進捗状況などを語ると、彼女を褒めた。

「詩織さんは、本人尋問において一貫していた。彼女の主張は最初から最後までずっと変わっていない。もし嘘であるなら、非常に難しいと思う。そのこと自体が、真実であると証明できるのではないかと感じている」

法廷で見た父の姿

その後、伊藤さんは、マイクを持って壇上に上がり、こう明かした。

「今日、傍聴席の一番後ろの席に父の姿を見つけました」

少し時間をあけて涙ぐむと、思いを口にした。

「どういう気持ちで座ってるのかな。本当に全て自分の意思で、この件については話してきたんですけれど、彼はいったいどんな風に考えてきたんだろうと思いました」

「今回は5分間の陳述を与えられたんですけれど、そこでも少し触れたように、性暴力は一緒にいる家族だったり、周りにいる友人にものすごい影響を及ぼします」

裁判は「正直、どのような結果になるかわかりません」と言い、裁判を起こした意義を振り返った。

「今回の民事ではできるだけオープンに、どういった事実、証拠、やりとりがあるのか、今の日本の司法で何が難しいのか、何が機能していて、機能していないのかを見ていただくためにも民事をやることにしました」

法廷で読み上げた言葉

そして、法廷で意見陳述で読み上げた文章に目を落とすと、改めて読んだ。


"この度は長い時間、審議をしていただきありがとうございました。民事裁判を通し、これまで刑事事件ではオープンにならなかった部分を文章や証言を通じ、論議できたことが大変意義のあることだったと思います。

痛みで目がさめるまで記憶をなくしていたという体験は、4年経っても、性暴力という被害に加え、私を苦しめました。なぜ怒っていないのか、なぜホテルに行ったのか、なぜ目がさめるまで抵抗できなかったのか。これまで何度も繰り返されてきた質問です。

しかし、これらに私は答えることができません。めまいを感じてから、記憶が一切ないのですから。突然記憶がなくなる。起きたら知らない場所にいる。裸で性行為を受けている。自分の知らないところで何が起きたのか。

知らないという混乱は、私の中で点と点を結び合わせるまで時間がかかったうえ、自分以外の誰かに体をコントロールされたという恐怖。自分自身を守れなかったという事実は、回復の大きな妨げになりました。

私たちは普段、生活していく上で何を食べるのか、どこへ行くのか。自分の行動は全て自分自身でコントロールしています。

それが突然、操り人形になってしまったように、自分の意思に反して犯される。私が受けたのはそんな経験でした。

人間を家に例えたのなら、性は家の土台部分です。性暴力はその土台を揺るがしてしまうのです。

意識のないまま受けたこの行為は、知らないうちに自分の家に誰かが侵入し、家の中をめちゃくちゃにされてしまうような感覚でした。今まで生活していた空間があったのに、どこに何があるのかわからなくなり、これまで当たり前のようにしていた料理やコーヒーを淹れることでさえ、日常生活ができなくなってしまいました。

家の土台を揺るがされるので、家族や周りの友人にも被害は長期間、及ぶのです。

前回の尋問で「準強姦は意識のない間に受ける被害だから、強姦より被害が軽いのでは?」との質問が被告代理人よりありました。

被害の重さは体験した者にしかわからず、それぞれを比較するのは到底できないことだと思います。私は被害直後に被告に言われた「今までできる女は、女みたいだったのに、困った子どもみたいでかわいいね」と言われた言葉が忘れられません。

自分が何をしたのか、何が起こったのか理解できず、誰に助けを求めていいのかわからない。私は文字通り、困った子どものようだったのです。

普段だったらできるような行動ができなくなったのも確かです。なぜすぐに助けを求めなかったのか。自分の家、安全な場所に行くというのが、そのときの私にとっては最優先でした。

被告が連泊していた高級ホテルは、私にとっては安全な場所に思えませんでした。性暴力はこのように、誰かを一瞬にして支配し、右も左もわからない子どものようにしてしまう行為です。

性被害者を取り巻く法的・社会的システムが、少しでもよくなるようにと願い、2017年のこの体験を公にしました。自分の家族や将来を考えたら、できれば公にしたくなかったことでした。

今日まで誹謗中傷、脅迫的な言葉も受けてきました。その結果、日本で生活していくことが困難になり、現在はロンドンに住んでいます。

今日ここに伺うために数日前に日本に帰国しました。前日にパニックアタックに襲われました。

4年経っても、PTSDの症状に襲われます。これまでの命の危険を感じるような体験がありました。しかし、性被害は一度のことでした。

それでもいまだにパニックアタックに襲われ、睡眠障害に悩まされます。

私は被害後、勤務していた先が被告の会社の隣であったため、戻れなくなりましたが、海外で少しずつ仕事を再開させてきました。南米のコロンビアのゲリラが支配する危険な地域やアフリカのシエラレオネでの性暴力に関する取材など、精神的にも体力的にも負担の大きい取材を繰り返してきました。

ジャーナリストとして自然な行動だと考えていましたが、今年ロンドンでセラピーを受け始めてから初めて、危険な取材を行う自体が、身を危険にさらし、困難を乗り越えることでトラウマと向き合おうとする行為であるかもしれないと知りました。

あの日から私は自分の尊厳を取り戻すため、できる限りのことを尽くしてまいりました。この民事裁判はその一つです。真実を少しでも明るみにし、今後同じようなことが起きないために少しでもこれまでの歩み、そして、この裁判が、同じように苦しんでいる性暴力被害を受けた方の役に立てれば嬉しい限りです。"

5分以上に渡るメッセージを読み終えた伊藤さんは、「確かにこの件は、私たち個人の間で起きたことを争っていると思います」と前置きした上で、「しかし」と続けた。

「しかしながら、アメリカのある性暴力のキャンペーンで「1 is 2 Many」とあったように、一つでも起きれば、これからどんなに起こるかわかりません」

「なので、この一つのケースをじっくり観察していただき、今後のことに生かしていただければ嬉しいなと思います。ありがとうございました」


伊藤さんはこの裁判で、慰謝料など1100万円の損害賠償を求めている。

一方の山口氏は2019年2月、慰謝料1億3000万円や、謝罪広告の掲載を求めて反訴。そのため、裁判では山口氏による訴訟も併合して審理している。

裁判の判決は12月18日の予定だ。