全身赤色で統一したふんどし姿で、沖縄の海に向かって社会派のネタについて思うことを叫ぶ「せやろがいおじさん」。
インパクトのある動画は、YouTubeやTwitterで人気を集める。そんな中、彼が慣れないものがある。
視聴者からの批判やバッシングだ。「毎回傷つきます」と素直に言う。
ネット上で、意見を述べれば、誰しもが批判の対象となり得る。彼はどうやって受け止めているのか。話を聞いた。

せやろがいおじさんは、お笑いコンビ「リップサービス」の榎森耕助さん(31)。
本業を続けながら、新しい笑いを追求したいと、動画の配信をはじめた。
過去には、教員の労働環境や、ピエール瀧さんの薬物報道についてなどの社会問題だけでなく、「トイレで長時間スマホいじってる人に一言」と身近な話題も取り上げた。
問題に真っ正面からつっこむ動画は、Twitterで1万リツイート超えも珍しくない。
自分の心が持たないと思った

2018年9月の沖縄県知事選をきっかけに、政治的なネタを扱うようになった。
普天間基地の名護市辺野古への移設についてや、沖縄県民投票も動画にした。
政治的な話は、意見が分かれがちだ。それだけに、賛同するコメントがある一方で、批判コメントも増えることになった。覚悟はしていた。でも、傷つく。
せやろがいおじさんは言う。
「動画をアップする以上、仕方ないと思っていました。今も腹を据えていますが、やっぱり傷つきます。全部を受け止めていたら、自分の心が持たないと思ったんです」
批判コメントの分析してわかったこと

始めたのは、批判コメントの分析だった。中には、真っ当な指摘が含まれる。それすら無視していても、学びがないと考えたからだ。
すると、3つに分類できるとわかったという。
一つ目が、「顔が生理的に無理、キモい」などの「ただ悪口を言いたいだけの人」。
二つ目が、「あなたはそう言うけれど、こういう情報もありますよ。どう思いますか?」と「間違いに対し、真っ当な指摘をくれる人」。
三つ目は、「汚い言葉で指摘する人」だ。
どう受け止めているのか

一つ目については、完全に「無視している」といい、笑う。
「『私は顔を変えてから発信すべきだろうか』なんて思っていても、きりがないじゃないですか」
一番悩むのが、三つ目の人だと考えている。たしかに、自分が受け入れるべき指摘もある。

しかし、「考え方が同じでも、違くても、口汚い人は基本的に間違っていると思うんです」。うつむきながら言う。
「はなから異なる意見を受け入れる気がない人がいるんです。意見を持っているのになかなか語れない人がいるのは、ああいう怖い人に絡まれて、攻撃されちゃうからではないかと」
「僕は覚悟しているけれど、多くの人がそうではない。そりゃ『黙っとこ』ってなりますよ」

せやろがいおじさんですら、ネガティブな感情を掻き立てられる。だから、意見の表明の仕方を変えてほしい、と願う。
「僕はそういう人だと思ったら、基本的に反応しないようにしています。反応したら『うっひっひ、効いてる効いてる』って相手の思うツボにはまりそうだから」
「そうやって多様な意見が交流するのを、邪魔してしまうことになりますよね。だから、汚い言葉を使って、対立を生むのはもうやめようよと。語り方は注意してほしいと思うんです」
一番の才能は「自信がないこと」

汚い言葉を使われても、指摘に対してまったく相手にしないわけではない。
発信した動画に誤りや違った視点があれば、同じネタで改めて動画を作り、投稿することもある。
また、たとえば白血病を扱った動画では、視聴者からの指摘を受け、後日、「反響のお返事」と題した文章をTwitterに投稿。「改めて気をつけます」などと書いた。
そのように、多様な意見や指摘、批判を、せやろがいおじさん流にしっかりと受け入れている。感謝もする。
「自信がないことが、僕の一番の才能かなって思うんです。正直、自信がないんです。自信を持つだけのバックボーンがないし、若い頃にいろいろ勉強してきたわけじゃない」
「自信がないから指摘も受け入れられるし、自信がないから納得いくまで調べて考えるんです」

どんなに批判を浴びて傷ついたとしても、せやろがいおじさんをやめるつもりはない。
今は、「俺が思ったことやから」と自信を持って、自らの意見を視聴者に伝えたいとの思いをより強くする。
「僕の動画で、いろんなことを知るきっかけになってほしいんです。それが、いまの僕の役割だと思っています」

「批判や指摘から学び、うまいこと発信につなげられればと考えています」
題材にする問題を丹念に調べ、考え抜いたうえでセリフに落とし込む。ときには笑える要素も交えながら。
動画1本あたり、セリフを考えるのに3〜4時間を費やし、動画の編集にも2〜3時間かけている。
自らのため、そして視聴者のため。せやろがいおじさんは沖縄の海だけでなく、批判や指摘にも向き合っていく。