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小池都知事は「少人数」なのに間違えた?批判された言葉、日本語学者に聞いた

東京都の小池百合子知事が発表した「5つの小」。その中に含まれていたのは、「少人数」ではない言葉だった。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京都の小池百合子知事が会食時の留意点として打ち出したのが、「5つの小」だった。

その一つに「小人数(こにんずう)」があり、「『小人数』は『少人数』の間違いでは?」「正しくは『少人数』だろ。日本語を捻じ曲げるな」などと批判する声が、Twitter上であがった。

ところが、小人数は、辞書にも載っている「正しい日本語」だ。とりわけ影響力の強いインフルエンサーが、言葉の存在を調べずに発信した事実に、日本語学者の飯間浩明さんは「日常的に使う人に対し、批判をする人が生まれてしまう」と懸念を示す。

「5つの小」は、小池知事が11月19日の会見で発表したものだ。

会食は「小人数」で「小一時間程度」にとどめ、「小声」で楽しんで。料理は「小皿」に分け、「小まめ」に換気や消毒、マスクを、と対策の徹底を呼びかけた。

「医療従事者の皆さまへの『こころづかい』も忘れてはなりません」

会食によって感染者が増えたという事例が相次いだことが、対策発表の理由だった。

「小人数」。辞書での解説は

東京都と小池知事は「少人数」ではなく、「小人数」を用いた。しかし、これは「5つの小」に当てはめるために造語したわけではない。

この事実をTwitterで指摘したのが、『三省堂国語辞典』編集委員で日本語学者の飯間さんだ。

ネットを使えば、その言葉が存在するかどうかはすぐに調べられる。

しかし、影響力の大きいユーザーも断定口調で「少人数の間違いだ」などと発信している様子を見て、「辞書編纂者として無力感を覚えます」とツイートした。

あることばが使われているかどうかを調べるのは簡単なこと。辞書を引けばいいのですから。ネットでも「大辞泉」がすぐ引けます。影響力の大きい論者がことばについて辞書も引かずに論じる世の中にあって、辞書の作り手にできることは何なのか、ちょっと考えてみたいです。

事実、『三省堂国語辞典 第七版』には、「小人数」がこう記される。

すこしの人数。少人数。こにんず。(↔︎大人数)

『広辞苑 第七版』では以下だ。

(コニンズとも)人数の少ないこと。少ない人数。「ーの会合」

飯間さんは『辞書を編む』(光文社新書、2013年)で、「小人数」をルビ付きで使用したこともある。

本書で「私たち」と言う場合、多くは以上のメンバーのことを指します。「そんな小人数{こにんずう}で作っているのですか」と驚かれることがありますが、実際、この体制でやっています。 ※{}はルビ

「立派な現代語の一部」なのに

辞書にも載っている。日常的に文章や口語で使っている人もいる。それなのにどうして。飯間さんは指摘する。

「私の観察では、21世紀に入り、小人数という言葉が、少人数と比べて相対的に使われる機会が少なくなっています。しかし、いろんな世代や地域の人と話をしていれば、『私は自営業なんで、小人数でやっていますよ』などと使っている人は今でも多くいます」

「辞書に載り、使われる方もいらっしゃるわけです。立派な現代語の一部であることは間違いありません。ネット検索で、信頼できる辞書である『デジタル大辞泉』と『精選版 日本国語大辞典』の解説がすぐにヒットし、用例や少なくともいつの時点で使われていたかもわかります」

「有識者」と呼ばれる人であっても、ときに誤った情報を発信をしてしまう。ただ、誤りを認識して訂正をしなければ、他人に悪影響を及ぼす恐れがあると危惧する。

「その言葉を日常的に使ってる人に対し、『インフルエンサーの方が、間違った日本語だって言っていましたよ。日本語を壊さないでください』といった批判が生まれてしまうんですよ」

飯間さんは、誤った発信の撤回について、「全く恥ずかしくない」と話す。学問の世界では基本的には、誤りを訂正すれば批判を受けない。むしろ、誤りを訂正しないと多くの批判が届く、と考えている。

訂正するほど「得をする」

「偉そうに言っている私自身も、いろいろ間違えるんです。一応、調べたけれど、どこかに盲点があって勘違いが生じ、誤るケースがあります。それがわかると、訂正をしています」

「訂正をすると、フォロワーの方々が『ちゃんと訂正して偉い』『訂正するから信頼できる』と褒めてくださる。訂正をしないと、信頼を落とす。『この人は間違う時もあるけれど、間違ったらすぐに直す人だ』と思われた方が、よっぽど得をするんだな、と気づいてからは、少しでもおかしいと気づいたら、訂正するようにしているんです」

だから、有識者やインフルエンサーの人たちには、まずは調べる。そして、間違えたら訂正するという見本を示してほしい、と訴える。

「言葉は、日常生活に欠かせないものです。ネット検索だけでなく、スマホの辞書アプリや紙の辞書を使った言葉の調べ方の理解が、より広がればと思っています」