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「もう黙るのをやめる」現代アーティストが向きあうハラスメント被害、突き動かした後悔

アートユニット・キュンチョメのホンマエリさんは「もう黙っているのをやめようと思った」と思いを語る。

表現活動の分野において過去10年以内に起きたハラスメントの実態を調査して改善につなげたいと、アーティストなどアートの現場で活動する人たちが動いている。

「#MeToo運動」が世界で広がり、少しずつ現場は変わり始めているとはいえ、依然として被害を訴えられず、沈黙を余儀なくされている人々が多くいる。

そのため、美術や映画、演劇、編集者など表現に携わるすべての人を対象としたアンケートを始めた。ハラスメント被害や加害、目撃経験の有無に関わらず、回答を募っている。

主催する「表現の現場調査団」のメンバーであるアートユニット・キュンチョメのホンマエリさんは「もう黙っているのをやめようと思った」とBuzzFeed Newsに語る。

提供写真

アートユニット・キュンチョメのホンマエリさん(右上)とナブチさん

ホンマさんを突き動かしたのは、自身の後悔だった。

「舐められたくないから、私がハラスメントを受けた時には笑って受け流していたんです。気にしないことで防御していた。でも、友人がハラスメントの被害を公に訴えた時に、このままの態度ではいけない、もう黙っていてはいけないのだと後悔したんです」

「ハラスメントは昨日も起きていたし、明日も起きる。そして、声をあげたくてもあげられない人が、今、この瞬間にもたくさんいる。私たちは一人の人間として、健康で文化的に生きる権利があります。それが芸術をなす場において叶わぬ夢であるならば、芸術とは一体なんなのでしょうか。私は、誰かが泣かなければいけない現状を許すことができないし、どうにもならないことだと諦めてはいけないと思うのです」

黙っているのは、これでおしまいにしよう――。

問題を正確に把握し、ハラスメントが起きる可能性を少しでも減らすため、調査に乗り出した。

提供写真

アート業界だからこそ

業界に限らずハラスメントはあるが、アートの世界ならではの特殊性が問題を深刻なものしている。

「とりわけアートの世界にはわかりやすい実力の物差しがありません。例えば、『100mを10秒で走れるなら1等賞です』といった客観的な基準がないんです」

「それゆえに権力構造が生まれやすいと考えています。採択者が良いと思ったものが選ばれ、展示会や演奏会に呼ばれることになる。そうなると、特に若手は権力を持っている人には逆らえないのです」

こうした構造があるために、当事者は権力を持つ人に逆らえず、ハラスメント被害にも遭いやすくなる。逆らってしまえば、仕事がなくなり、夢も破れてしまいかねない。だから声を上げづらい状態になる、とホンマさんは考えている。

BuzzFeed / Via docs.google.com

表現に関わる人々を対象としたハラスメント実態調査

実態調査は今後5年間、年に1度実施する。アンケートによる「実態の把握」、分析による「問題の可視化」、知識の共有による「再発防止・環境改善」を行う。さらに、調査の結果や分析レポートを議会に届け、フリーランスを守るための法改正を目指す。

第1回目となるアンケートは、評論家の荻上チキさんらリサーチ設計に詳しい専門家の監修のもとに制作。回答は、1月17日に締め切る。

その結果は、社会学者など専門家による分析後、レポートとして公開。翻訳版を作って海外にも発信する予定だ。

また、ウェブサイトを開設し、ハラスメントについての知識や相談窓口を伝える場にすることを計画している。

松岡一哲

アート・トランスレーターの田村かのこさん

調査団の田村かのこさんにも話を聞いた。

田村さんは、現代アートや舞台芸術のプログラムを中心に、日英の通訳・翻訳をしているアート・トランスレーターだ。

この活動でも間に立つメディエーター(媒介者)としての役割を果たしたいと意気込む。

「私は、アーティストでもない、当事者でもない立場として参加しています。この活動で示したいのは、当事者じゃなくても、経験がなくてもハラスメントを止めるために活動しても良いということです」

「私のような『関係ない』と言いやすい立場の人が行動しないと決して変わらないと思っています。もう被害や不利益を被る立場の人だけが、死にものぐるいで声をあげているのを見たくないんです」

田村さんは、調査を淡々と行うのみで、特定の人物を糾弾するでも、高らかな目標を掲げるでもない今回の活動を「クリエイティブ」だと思っている。

「これは誰かに変化を要請したり、価値観を押しつけるものではありません。あくまでも実態を皆で知るために、データと経験を集計して分析し、発表するんです」

「だからこそ、当事者でない人も関わりやすく、回答もしやすい。誰も攻撃しないものですが、様々な立場からのチェックが継続することで、優位な立場にある者からの自主的な変化を促せるのではないかと考えています。だから、実はかなり画期的だし効果があると思うんです」

「ハラスメントは、誰もが被害者にもなり得るし、加害者にもなり得る。皆で知識をアップデートし、現状を確認しあうことで、過去の過ちを省みるだけでなく未来の加害を防止することができればと考えています」

実態調査に込める別の願い

谷川ヒロシ

アメリカで生まれた「#MeToo」運動は、日本にも影響を与えた。アートの世界でも徐々に変化は広がりつつあるが、キュンチョメのナブチさんは「ほとんど変わっていないに等しい」と声を落とす。

「今日変えようと言っても、明日に変わるものではない。だから、このような活動を、まず5年間は続けたいんです。そもそも現代と向き合うのが、現代アート。ハラスメントが横行する現状と向き合うことは、僕たちの使命だと考えています」

残り2日となったアンケートは、1200件を超える回答が集まっているという。

これ以上、被害が生まれてほしくない。ハラスメントが起きづらい現場になれば、きっと表現は豊かになり、もっと素晴らしいアーティストや作品が生まれる。メンバーたちはそう信じている。

ホンマさんは言う。

「私はこれからも、いち表現者として、そしていち人間としてどうにもならないことをどうにかするために動き続けます。力を貸してください」


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バズフィード・ジャパン ニュース記者

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