聴覚障がい者の案内で、”音のない世界”に入り、対話できる場がある。頼りとなるのは、表情と身振り手振りだけだ。
イベントは「ダイアログ・イン・サイレンス」。
昨年、日本で初開催され、7月29日から東京で再び開かれる。
ダイアログ・イン・サイレンスは、1998年にドイツで生まれて以降、世界各国に広がった。これまで100万人以上が、音のない世界を経験したという。
会場では、ヘッドホンを装着することで音を遮断。聴覚障がい者のスタッフに導かれ、会場を進んでいく。
キャッチコピーは「おしゃべりしよう。」
約束はひとつ。言葉を発しないこと。
グループを組んだ参加者同士でコミュニケーションを取る機会があるが、声で呼びかけることはできない。
そのため、何を伝えようとしているのか注意深く観察しようとする。
「伝えたいことが伝わらない」と歯がゆくなることもある。一方、表情やジェスチャーによって、こんなにも通じ合えるのか、と気づける仕掛けが用意されている。
そうやって、みんなで対等な立場となり、言葉を使わない「おしゃべり」を楽しみながら、いろんな発見ができるのがこのイベントの狙いだ。
「光のない世界」「加齢の世界」も
ダイアログ・イン・サイレンスを日本で展開しているダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、ほかに「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」、「ダイアログ・ウィズ・タイム」を開いてきた。
前者は、光が完全に遮断された暗闇の中が舞台となる。視覚障がい者に導かれ、言葉だけでなく、視覚以外の感覚の大切さを学べる。
後者は、70歳以上の高齢者にアテンドしてもらい、老いや命について考え、新たな可能性を感じてもらう。
ポジティブに捉えてほしい
「聞こえない」「見えない」「加齢」。どれもがネガティブに捉えられがちなものだが、体験を通して、そんなイメージや偏見をなくしたいという。
バースセラピストとして、4万人以上にカウンセリングをしてきた、団体の代表理事・志村季世恵さんは7月27日に記者会見を開き、次のように魅力を語った。
「たったの90分で、人って良いな、言葉を交わすことはなんて素敵なんだろうと思えるんです。多くの人に体験してもらえれば、日本が豊かな国に戻れるのではないかなと思って続けています」
2020年には東京オリンピック・パラリンピックを控え、来日する外国人がさらに増える。
ただ、使う言語が違えば、コミュニケーションをとるのが億劫になりがちだ。
そこで、今年のダイアログ・イン・サイレンスでは、母国語の異なる参加者たちのグループを設け、意思疎通ができるんだ、と知ってもらう計画もある。
3つの体験ができる施設の開設へ
また、2020年に合わせ、期間限定でなく、いつでも「音のない世界」「光のない世界」「加齢の世界」の3つのエンターテイメント空間を体験できる施設「対話のミュージアム」の開設を予定する。
それに向け、聴覚障がい者と視覚障がい者、高齢者のアテンドスタッフを増やす。
スタッフを希望する人を募集し、養成講座を開き、雇用と活躍の場を提供する。それ以外にも、自身のスキルに気づき、自己肯定感を高めてもらう狙いがあるという。
ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドスタッフで、視覚障がい者の檜山晃さんは会見場で「2つの夢があるんです」と語りかけた。
「この仕事が憧れの職業になること。そして、障がい者が税金を継続して納められる社会の実現です」
「あわよくば『もっと納税してもいいぞ』と言えるよう、収入や評価を受けられ、アテンドとなる人が増えてほしいと思っています」
ダイアログ・イン・サイレンスは7月29日から8月26日まで。東京都のLUMINE 0 NEWoMan新宿5Fである。
初日の午後10時からは、J-WAVEが「ラジオの見える化」をコンセプトに、イベントの様子を手話付きで伝える番組をYouTubeで放送する。
一般4500円、大学生3千円、小・中・高2千円。詳細や予約はこちらから。