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Updated on 2020年7月20日. Posted on 2020年7月12日

アルコールの"代わり"を調べてきた政府と専門家 「大切なのは何が有効かではない...」

政府の依頼で新型コロナに有効な消毒法を検証した医師や専門家は、注目された次亜塩素酸水よりも、家庭用洗剤を使うことを勧めている。

経済産業省の呼びかけで発足した有識者による検討委員会が、家庭や職場での新型コロナウイルス対策でどんなものが消毒に使えるかを検証し、結果を発表した。

その過程で注目されたのが、コロナ禍を機に各地で見かけるようになった次亜塩素酸水だ。有効だが、使い方に一定の条件があり、噴霧することは勧められない、と結論づけた。

一方で見落とされがちな検証結果もあった。家庭用洗剤の多くに消毒効果があるということだ。有効成分を含む製品のリストも公表された。

こうした結論を受け、消費者はどうすべきか。BuzzFeed Newsは、検討委員会の委員長ら二人の中心人物に聞いた。

【要点のまとめ】

・家庭で物品を消毒するには、有効成分を含む家庭用洗剤が安価で便利

・次亜塩素酸水は有効だが、使い方に条件がある

・洗剤も次亜塩素酸水も、正しい使い方を知ることが重要

・次亜塩素酸水の噴霧は勧めない。安全性は公的に未確認

・手指の消毒は石けんなどで丁寧に洗うことを勧める

※インタビューは7月3日に行い、その時点での情報に基づいている。

NITE

検討委員会が立ち上がったのは、2020年4月のことだ。

経産省が「製品評価技術基盤機構(NITE)」に要請したことでつくられた。正式名称は「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会」で、消毒用のアルコールが各地で不足するなか、代わりとなる物品の消毒法の有効性を検討するのが任務だ。

「顔」となる委員長を引き受けたのが、国際医療福祉大学医学部の松本哲哉・主任教授。感染症学のスペシャリストであると同時に日本環境感染学会副理事長でもあり、テレビでも頻繁にコメントを求められる専門家だ。

NITEの高見牧人理事は言う。

「松本先生は、感染症が専門で深い見識をお持ちであり、院内感染を防ぐためにはどうすればいいかも考えておられる方です。この分野を広く、深く見られる方だったので、大変にありがたかったです」

乱立していた"情報"

BuzzFeed

国際医療福祉大学医学部の松本哲哉・主任教授

松本委員長は、「消毒方法を巡る情報が乱立していた」と当時の状況をBuzzFeed Newsに振り返った。

「『これが新型コロナに効く』という情報が、たくさん流れていました。そのほとんどを商品を販売する企業が出していて、本当に効くか実際に検証したデータは、皆無でした」

「企業の方は利害関係があるので、どうしても『効果があります。どうぞ、とにかく使ってください』と先走ってしまいがちになります」

「でも客観的に見たら、『本当に効くの?』というものが、やはりあるんですよ。それを消費者が使い、ウイルスがいるのに消毒ができたと思い込む。そうなると、むしろ感染リスクが生じてしまうので危機感を持っていましたし、きちんと検証するべきだと思いました」

Kensuke Seya / BuzzFeed

次亜塩素酸水のミスト

「新型コロナウイルスに効くという情報が多かった」というのは、とりわけ「次亜塩素酸水」だった。

政府から物品の消毒に関して有効だと先に発表されていた「次亜塩素酸ナトリウム」と名前は似ているが、異なる性質を持つ物質だ。

次亜塩素酸水は、店頭での市販や自治体での無料配布などを通じて身近なものとなったが、「(有効性の検証よりも)使うことが先行してしまい、なぜか自治体の方々も、すごく信じ込んでしまった」と松本委員長は指摘する。

「次亜塩素酸水は物質として不安定なため、大事にちびちび使えば、残ったものはそのうち、ただの水になってくるわけです。科学的根拠なしに使うと、間違った使い方をしてしまう恐れがあります。使ってもウイルスが全然死んでいないとすれば、非常に問題ですよね」

「つまり、新型コロナウイルスに有効かどうかは大事ですが、きちんと正しく使うということも、あわせて大事なんです。配ること自体が悪かったとは思いませんが、配った自治体の側にも、知識がなかったと思います」

「ありえないくらいの速さ」で示された条件

Sopa Images / SOPA Images/LightRocket via Gett

こうした問題意識を持ちつつ、約3カ月かけて検証を進めてきたという。

委員会での審議を経て導かれた最終報告の内容は

1)9種類の界面活性剤が有効

2)限られた条件下では、次亜塩素酸水が有効

というものだった。検証実験には、国立感染症研究所、北里研究所、帯広畜産大学、鳥取大学、日本繊維製品品質技術センターが協力した。

松本委員長は「今回は『これでもか』というくらい、多くの施設が検証試験をしました。ある意味、慎重すぎるくらいの検証と審議をありえないくらいの速さで終えた。NITEをはじめ、みんなが必死になった結果です」という。

次亜塩素酸水が有効となる条件

経産省、厚労省、消費者庁 / Via meti.go.jp

次亜塩素酸水が有効となる条件は、以下の通りだ。

一定濃度以上であり、少量ではなく、モノの表面を十分な量で「ヒタヒタに濡らせば」有効

経産省、厚生労働省、消費者庁の3省庁が示した有効塩素濃度は、物品に次亜塩素酸水を20秒以上かけ流す場合は「35ppm以上」だった。

拭き掃除には、さらに濃い「有効塩素濃度80ppm以上」のものを用いたうえで、

・皮脂汚れなど目に見える汚れをしっかり取り除いて、使うこと

・十分な量の次亜塩素酸水で物品の表面をヒタヒタに濡らすこと(アルコールのように少量をかけるだけでは効かない)

・20秒間以上置いてから、きれいな布やペーパーで拭き取ること

松本委員長は説明する。

「アルコールは少量を薄く塗り広げられれば、有効です。しかし、次亜塩素酸水は残念ながら、それでは効かない。だから、十分な量を使い、ヒタヒタに塗らした状態で、最低20秒置く。それが一つの目安になります」

経産省、厚労省、消費者庁 / Via meti.go.jp

身近な家庭用洗剤が消毒に有効

一方で、9種類の界面活性剤が、新型コロナウイルスに有効だとわかった。そのため、NITEは有効な界面活性剤を含む製品リストを随時更新しながら公開している。

松本委員長が注目してもらいたいと考えているのは、この界面活性剤の方だ。家庭用洗剤の多くが、有効と判断された界面活性剤を含んでいる。

「ガラスマジックリン」「スクラビングバブル」「おふろのルック」「ママレモン」—。7月10日版のリストを見ると、どこの家庭にもありそうな製品名が並んでいる。

NITE / Via nite.go.jp

NITEが公開している有効な界面活性剤を含む製品リストの一部

「今回、みなさんの注目は次亜塩素酸水に行きましたけれど、私たちが驚いたのは、界面活性剤の有効性の高さなんです。ここまで効くとは正直、思わなかった」

「身近な界面活性剤が効くわけだから、わざわざ次亜塩素酸水を使う必要はないのではないかなというのが、私の印象です」

家庭用洗剤に比べれば、次亜塩素酸水の市販価格は高い。次亜塩素酸水の製造装置や既製品を購入するお金で、相当な量の消毒用アルコールや洗剤を買える。

「工場やレストラン、大型のホテルなど、大量に消毒しなければいけない施設では、製造装置を購入する意味があると思います。しかし、家庭で固執する必要はないと思うんです」

「次亜塩素酸水は不安定なので、効果が出せない場合がある。いつ作られたかわからず、どこまで有効かわからない商品を買ってきて、『高いから』とちびちびと少量ずつ使うのであれば、本末転倒なわけです。だから、残念ながらオススメしない。界面活性剤で、本当に十分ですから」

NITEの高見理事も語る。「私も『界面活性剤が有効だ』と伝えたい。実は知らない人がいると思うので、『いわゆる洗剤が、新型コロナウイルスに強力に効くんだ』と知ってほしいです」

次亜塩素酸水の噴霧には「NO」

Kensuke Seya / BuzzFeed

次亜塩素酸水のミスト

今回、評価の対象となったのは、アルコール消毒液などの代わりに身の回りの物品にかけたり拭いたりして消毒する手段だ。

手指の消毒に使ったり、空中に噴霧したりした場合の有効性、安全性は対象外だった。

それでも松本委員長は、次亜塩素酸水の噴霧について「間違ったやり方だ」と語る。そもそも噴霧の安全性が、公的に確認されていないためだ。

「噴霧器に次亜塩素酸水を入れて噴霧するよう推奨する情報があり、『これはまずいな』と思っていました」

「消毒液全般として、噴霧での消毒は推奨されていないんです。吸入していい消毒液は、世の中にありません。それをわかっていただきたいと思います」

「安全性を証明するのは、すごく難しいんですよ。場合によっては、1年以上かけてやる必要があり、最終的には人体に対する検証も必要になる。人に全く害がなく、ウイルスを殺せるのであれば良いと思います。しかし、そうしたものは存在しない」

政府は、人がいる空間での次亜塩素酸水の噴霧について注意を呼びかけ、「人が吸入しないように注意してください」「対策には消毒剤の空間噴霧ではなく、換気が有効」と、指針を示している。

「正しい使い方」こそが大切

経産省、厚労省、消費者庁 / Via meti.go.jp

「正しい使い方を」。松本委員長はインタビュー中、繰り返した。NITEの高見理事も「濃度と使い方を見てほしい」と言う。

界面活性剤や次亜塩素酸水は、確かに新型コロナに有効だ。

ただし、それぞれに必要な濃度や正しい使い方があるので、政府が示す方法を知って実践してほしい、と2人は願う。

松本委員長は「有効な濃度の成分が入っていて、政府が出している正しい使い方を実践すれば、有効性は保証できますし、感染防止対策として十分」と話す。

「今回の委員会は、手指への消毒は検証の対象外です。ただ、石けんを使った手洗いは『お墨付きがついた』と考えてもらっても大丈夫です」

提供写真

NITEの高見牧人理事

NITEの高見理事は「エビデンスをもとに正確なこと、もしくは科学的にきちんと整理されたことを国民になるべく正しく、できればわかりやすく伝えるのが、私たちの使命です。効く効かないではなくて、正しい使い方とセットで。これからもお伝えしていきます」と言う。

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com / Via youtube.com

NITEは界面活性剤を含む家庭用洗剤を使った消毒法の動画を公開している。



バズフィード・ジャパン ニュース記者

Contact Kensuke Seya at kensuke.seya@buzzfeed.com.

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