「アメリカで結婚したので、日本でも婚姻届を出したいと思って来ました」
渋谷区役所で10月4日、戸籍担当の職員にそう伝えた男性の同性カップルがいる。
結婚したときからずっと話し合い、決めていた。BuzzFeed Newsは、渋谷区役所に向かう二人に同行した。
この2人は、林康紀さん(27)とアメリカ生まれのマシュー・クスリクさん(34)。2016年にアメリカ・コロラド州で結婚した。
マシューさんの家族と一緒に役所に行くと、米国の制度である結婚許可証にサインをして、結婚証明書をもらった。
結婚指輪をその場で交換し、今後の人生を共に歩むことを誓い合った。
2人は現在、渋谷区内に暮らし、愛し合う。ただし、マシューさんはこう言う。
「僕らにとって、結婚はパートナーシップ。『I love you so much!』だけのロマンチックなものではないんだ」
結婚した2人が幸せに暮らすために必要としたのは、シングル同士では得られない「権利」だった。
康紀さんはアメリカの永住権が手に入るが、マシューさんは同性婚を認めていない日本の永住権を得られない。
就労ビザを取得するために入国管理局に何度も通わなければならず、配偶者控除など税金の優遇もない。
同性婚を認めない日本の制度の壁に悩まされた。渋谷区が2015年に「パートナーシップ制度」を始めたが、法的拘束力はなく、解決できない。
渋谷区役所でのやり取り
だから、行動に出ようと渋谷区役所に向かった。
婚姻届の「妻」との記載を「夫」に書き換えた。そして、康紀さんの母と姉が証人になった。
康紀さんの兄を含めた家族3人と友人とともに窓口に行くと、2人は「婚姻届を提出しに来ました」と告げた。
婚姻届を見た担当者は言った。
「婚姻届の提出ですね。お二人とも男性でいらっしゃいますか?法律で、同性同士の婚姻を想定していないので、こちらは受理させていただけません」
同性婚は「法律の想定外」
康紀さんが「どうしてですか」と聞くと、「想定していないとしかお話できません」と返ってきた。
「お預かりしても、不受理という形でお返ししなければならない。取りにきていただくか、配達証明でお返しする形です。その上で、家庭裁判所に不服申し立てをできるんですが...」
担当が職員の上長に代わっても変わらなかった。
「戸籍は国の制度のもとで動いています。そのため、私ども一自治体の立場では本当に申し訳ないですが、どうにもできないんです」
「法律上、そういうものを想定していないのが正直なところ。時代が変われば、今後そういうこともありえるかもしれないとしか申し上げられないんです」
個人の立場なら...
どう対応され、どんな返答があるのか。この日を2人ともナーバスな気持ちで迎えた。職員らの対応は、予想の範囲内だった。
同性カップルの結婚は「法律の想定外のこと」。
そう言われ、LGBTの当事者らに理解のある渋谷区だからこそ「サポートしてほしい」「すぐ不受理にするのではなく、渋谷区内で考えてもらえないか」と訴えるも、どうにもならない。
ただ、マシューさんが「僕たちと同じ立場だったら、あなたはどうしますか?」と質問すると、「お気持ちはすごくわかります」と理解を示した。
「同じ立場であれば、どうしてなんだろうと思い悩むと思います。同じようになんとかしてもらいたいな、どうしてダメなんですかと訴えていると思う」
「個人としては、とても気持ちがわかります。ただ、区の職員の立場ではこういった回答になってしまうんです」
東京23区内で他に3組、そして母の言葉
最終的に、婚姻届は預かられた。長谷部健区長や法務省などに、2人の思いを伝えるという。ただし、婚姻届は不受理となって戻ってくることになる。
この担当者によると、2人のように同性カップルが婚姻届を提出した事例は、東京23区内で他に3組、把握しているという。
窓口でのやり取りを終え、康紀さんは「僕らは家族や周りのサポートがあったから、こうやって行動できた。だけど、同じように提出したいけれど、できないカップルもたくさんいるはずです」と答えた。
2人のアメリカでの結婚に「心から嬉しかった」と語る、康紀さんの姉は、「残念だったけれど、勇気がある行動だと思って感動した」と話した。
「言い出したくても言い出せない人たちがいます。ただ、やっぱり言ってかないと変わらない。そういった気持ちが、職員の方にも伝わったと思う。今後も主張してほしいし、応援します」
一方、康紀さんの母は、カミングアウトを受けた当時、「あなたが生きてるってことが一番大事だから。いろんなことがあってもお母さんの息子だから」と言葉をかけたと振り返る。
「マシューは人が良いし、優しい。わがままな甘えん坊で、すぐに行動に出るタイプの康紀をしっかりサポートし、フォローしてくれる。素敵な夫同士だと思っています」
「世の中は、生きることが一番大事です。2人が生きて行くのに、一番幸せな生き方をしてもらいたい。だから応援しようって、康紀がカミングアウトしたときからずっと思っているんです」
提訴も検討
申請して良かったですか。そう尋ねると、康紀さんとマシューさんは「もちろん」と即答した。
現行の制度ではどうにもできない。だから、助けてあげられない。そういった気持ちが職員から伝わった。そして、何より行動したことに意味がある。マシューさんは言う。
「日本は戦後、急成長して経済大国になった。戦争が終わった時、こんな国になれるとは誰も思わなかったと思う」
「でも、みんな一生懸命にチャレンジした。だから、経済大国になれた。これは同性婚についても同じだと思う。何もしないよりは、未来のためにアクションを起こさないと」
2人はいつか家庭裁判所に提訴しようと検討している。『I love you so much!』だけの幸せではない生活を願って。