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活気なき7年間 原発事故をうけ「漁師のまち」と知らないで育った子どもたち

福島県いわき市の久之浜地区。漁業が盛んだったまちは、危機感を募らせている。

東日本大震災からまもなく7年。福島県いわき市の久之浜地区では漁業が盛んだったと知らずに育った子どもたちが目立つようになった。

「漁師さんってどこにいるの?見たことない」。地元の小学生に漁業の話をすると、逆に問われる。

この状況に若い漁師と、文化の視点で復興支援するNPOは、後継者の問題だけでなく、漁業技術という文化が継承されなくなる、と懸念した。危機感を募らせ、打開策を模索している。

「誰でも家庭持ってたらそうでしょうよ。安定した収入があるほうに行く」

漁師の遠藤洋介さん(36)。原発事故の影響で漁の回数や魚種などを限る「試験操業」を終えて港に戻ると、そう語った。

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震災前、ここで水揚げされた海産物は築地で「常磐もの」と呼ばれ、高値がついた。

2010年の漁獲量は2200トンで、漁獲金額は約7億円。いわき市漁協でトップで、港には活気があった。

しかし、今はその面影はない。試験操業で海の上にいる時間は少なくなった。

津波の被害にあった漁業施設は、市場としての機能を停止。現在はとれた海産物を15キロほど離れた沼之内港まで陸送しなければならない。

子どもたちが漁師と交流し、魚を見る機会は余計に少なくなってしまった。

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遠藤さんは「活気はゼロだ」と話す。安定した収入を得ようと、船の乗組員をやめ、原発作業員や大型バスの運転手になる若者がいる。

そもそも少子高齢化で若者が少ないし、親の仕事を継ぐのは当たり前ではない時代。時間をかけて後継者候補を指導してきた船頭は途方に暮れる。

遠藤さんは試験操業がない日に、原発作業員として働いている。週4日、車を50分ほど走らせ、福島第一原発で防護服を着る。汚染水タンクの基礎をつくっているという。

「試験操業は週1日しかない。だからってずっと家にいると、妻に怒られんだよ。体もなまっちまったから働き始めたよ」

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現場では、風評をいまだ払拭できていないと、わかるときがある。

「一緒に働いてる原発作業員が『魚食べて平気なの?』って今も聞いてくんだよ。精神的に疲れるよ」

日当の額は高い。家族と不自由なく暮らすために、漁師をやめる人がいても仕方ない。そう思う。

ただ、地域の未来を考えれば、主産業だった漁業がこのまま廃れてはいけない。復興特需は延々とつづかない。

いわき市内の特定NPO法人「Wunder ground」の職員、榊裕美さんは動いた。

漁師の魅力や漁法を小学生に伝えるイベントを開催し、未来の世代に「つなぐ」プロジェクトがはじまった。

「漁師に弟子入りしよう」と題したイベントでは、タコ漁の仕掛けをつくり、船に乗ってタコ漁とサケ漁を体験。サケをさばいてイクラづくりにも挑んだ。

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参加者には「漁師になりたい」と元気に話す子や、このような感想を書いた子もいたという。

絶対ならないと思っていたけど、船に乗ってみて少し考えてみようかなと思った。

当時、船を出して協力した遠藤さんは「小さすぎて先見すぎだよ。即戦力の大人がほしいよね。成長するのを待っていたらくたばっちまうよ」と笑う。

それでも震災前は漁業で活気にあふれていた、と小学生に知ってもらえることは「うれしい」。

「やってることは良いことだよ。漁師やりたいっていう高校生なんかきたらすげえよね。みっちり教えるよ」

そんな榊さんは、青森県出身ということで「りんご」とあだ名で地域の人に呼ばれ、親しまれている。「榊」という名前を知る人は少ない。

漁協の組合長の紹介で、遠藤さんと2017年5月に出会った。

いまでは毎週、遠藤さんが操縦する漁船に乗り込み、試験操業に同行する。

船酔いをしなければ、弱音を吐くこともない。遠藤さんの父・健一さん(63)は「度胸がある。驚かされるよ」と舌を巻く。

遠藤さんも「知らないとこにきて、良いことやってんだよ。熱心だし、変わりもん」と話す。

どんな地域になってほしいのだろうか。

「漁業で成り立って、久之浜といったら漁業のまちと知ってもらいたい。名前が売れなかったら継いでくれる人も来ねえ。子どもが憧れて、就職率ナンバーワンの職業になってほしい」

ただ、無理強いはできない。福島の漁業は苦しいままだから。

小学生らは2018年1月、久之浜の漁業や、とれる魚についてわかる図鑑を協力して作った。「漁師に弟子入りしよう」のイベントを継続したいという榊さんは、即戦力となる人材が集まるよう、漁師のインターンを募る計画がある。

現在26歳。埼玉大大学院を休学して支援にあたっている。震災前のように声が飛び交う港の姿を取り戻し、誇りを持てるまちにしたい。

「いま漁業の雇用の話に取り組まなければ、本当にだめになってしまうかもしれません。ここに骨を埋める覚悟で専念しなくては、と考えています」


BuzzFeed Japanは、Yahoo! JAPANの3.11企画「データで見る震災復興のいま」で、被災地の現状をグラフで紹介しています。

BuzzFeed JapanNews


バズフィード・ジャパン ニュース記者

Kensuke Seyaに連絡する メールアドレス:kensuke.seya@buzzfeed.com.

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