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東豊書店が6月末で閉店。大量の在庫はどうなる?

入居する「代々木会館」は激しく老朽化し、「東京の九龍城砦」「魔窟」との呼び声も。

東京・代々木にある中国書の専門書店「東豊書店」が、6月末で閉店する。入居する「代々木会館」は激しく老朽化し、「東京の九龍城砦」「魔窟」との呼び声もある。

「東京の九龍城砦」「魔窟」との呼び声も

代々木駅西口を出て右に曲がると、程なくレトロなビルが目に飛び込んでくる。

これが東豊書店が入居する「代々木会館」。建てられたのは東京五輪の5年後、1969年だった。

1974年放送のTVドラマ「傷だらけの天使」では、「エンジェルビル」として登場。萩原健一が演じる主人公・木暮修と水谷豊が演じる乾亨が、屋上のペントハウスを根城にしているという設定だった。

築50年を経て、ビルの外観はまるで廃墟のようだ。ところどころ窓ガラスが割れているが、かつて入居していた店舗の看板が、往時の面影を伝えている。

色あせた外壁には、テレビのアンテナや室外機が設置されている。ネット上では「東京の九龍城砦」「代々木の魔窟」などと呼ぶ人もいる。

このビルの3階に東豊書店は店舗を構えている。

中国研究者に愛された「東豊書店」

店主・簡木桂さんが経営する東豊書店では、台湾や中国から輸入した幅広いジャンルの中国書を取り扱っており、長きにわたって中国研究者に愛されてきた。

一歩はいると、ひんやりとした空気と紙とインクの匂いが、訪問者を迎える。店内はまるで迷路。棚と棚の間は、人一人がやっと通れるスペースしかない。

張り巡らされた本棚には、諸子百家の解説書や昭明太子の「文選」、魯迅の詩集、小説「紅楼夢」「金瓶梅」などが所狭しと並ぶ。

さらには「資治通鑑」などの歴史書、近現代中国の政治・経済の専門書、「説文解字」などの字典類、医学書、薬学書、占いの本なども揃っている。

私も学生時代に何度か訪問したことがある。無数に積み上げられた本の中から、自分だけの掘り出し物を探すのが楽しかった。

ご覧の通り、本は棚の中にぎゅうぎゅう詰め。一度取り出すと、元に戻すのが難しい。

大量の書籍、今後の行き先は「未定」

すでにインターネット上では閉店の報が広がっており、研究者など店の常連たちが名残を惜しむために訪れている。

店の主は「閉店の理由はビルの取り壊し」と話す。ただ、これまでも代々木会館をめぐっては、解体の話が持ち上がっては立ち消えになってきたという。所有権、抵当権が複雑に入り組んできたことが背景にあるようだ。

店内・店外にうず高く積まれた大量の書籍は閉店後にどうなるのか。簡さんによると「まだ決まっていない。大学には引き取ってもらえなさそうだ…」とこぼす。閉店日まで、店内の書籍は全て半額で販売する。

清朝史の専門家で日本大学非常勤講師の綿貫哲郎さんが、東豊書店での思い出をBuzzFeed Newsに語ってくれた。

「学生時代に本を買いに行くと、私の師匠筋やお世話になっている方々の若い頃の話をよくしてくれました」

「店内は狭く、よく本が平積みになっていました。お店に入るときは本を崩さないように、店の入口に荷物を置いてから入店しました」

「学生時代、探している本の種類を言うと、本も見ずに“こういう本がある”と、いつも2~3冊、棚の奥から取り出して見せてくれました。どれも懐かしい思い出です」

店じまいまで、残り1カ月あまり。それでも、日々の営みは変わらない。

この日も店では、数人の客が本のページをめくる音と、店主の簡さんが弾く算盤の音が響いていた。

UPDATE

一部、誤って「東方書店」となっていた箇所を「東豊書店」に修正しました。