宮崎駿が1枚の画用紙に記した「楽しくないといけない」の意味

    2001年に開館した「三鷹の森ジブリ美術館」。設立の発案から今日に至るまで、この20年の歳月でスタジオジブリの足跡、アニメーション現場の息吹きを伝えてきた。発案した宮崎駿監督は、この美術館で何を伝えようとしてきたのか。

    2001年に開館した「三鷹の森ジブリ美術館」は、これまでにいくつもの企画展示を通じて、スタジオジブリの足跡、アニメーション現場の息吹きを伝えてきた。

    設立の発案から今日までに20年超の歳月が経ったが、そもそも発案した宮崎駿監督は、この美術館で何を伝えようとしてきたのか。

    宮崎監督が携わった過去の企画展で展示された原画や企画書から、その思索をひも解く「手書き、ひらめき、思いつき」展が11月16日、同館ではじまった。

    Kei Yoshikawa/BuzzFeed/©Museo d'Arte Ghibli/©Studio Ghibli

    「手書き、ひらめき、思いつき」展

    三鷹の森ジブリ美術館では、過去のジブリ作品やアニメーション文化に焦点を当てた企画展示を折に触れて実施してきた。

    今回の「手書き、ひらめき、思いつき」展は、通算19本目の企画だ。

    これまでの展示や美術館の建設のために、宮崎監督がスタッフたちが残した原画や企画書など、約640点にものぼる膨大な資料が公開される。

    「ラピュタ展」で1枚の紙に記した、ある言葉

    Kei Yoshikawa/BuzzFeed/©Museo d'Arte Ghibli/©Studio Ghibli/©2002スタジオジブリ

    『天空の城ラピュタと空想科学の機械達展』のパネル

    宮崎監督は、この美術館に一貫した「ある思い」を込めてきた。

    その一端が伺えるのが、開館2年目にはじまった『天空の城ラピュタと空想科学の機械達展』(2002年10月〜04年5月)だ。

    なぜ「ラピュタ」という作品を作ったのか。作品を通して何を語ったのか、何を語れなかったのか。

    自らコクヨの400字詰め原稿用紙で8枚半の企画書をつくったほど。宮崎監督がどうしてもやりたかった肝入りの企画展だった。

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    『天空の城ラピュタと空想科学の機械達展』の企画書

    そして、宮崎監督が1枚の紙にエンピツで記した構想メモには、こんな言葉が記されている。

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    左上の資料。2行目に「楽しくなければいけない」の文字。

    「◎楽しくなければいけない

    作り手たる自らのみならず、大人から子どもまで、展示に触れる全ての観客に楽しんでほしい。宮崎監督が一番大事にしている思いが、端的に表された言葉だ。

    以来、この言葉はジブリ美術館の全ての展示の合言葉となった。

    全ては「子どもたちへ」

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    三鷹の森ジブリ美術館の模型

    「楽しくなければいけない」という言葉ともに、宮崎監督とジブリ美術館が大事にしてきたポリシーがある。それは、「子どもたちへ」という方向性だ。

    スタジオジブリの礎を築いた宮崎監督と高畑勲監督(2018年死去)もそうだった。

    二人は1950年代、「東洋のディズニー」を目指した東映動画で出会い、アニメーションに青春を捧げた。

    時事通信

    宮崎駿監督(左)と高畑勲監督

    「おもしろいものは、この世界にいっぱいある」と、アニメーションで伝えようと奮闘してきた宮崎監督。

    対して、緻密な構成と人間描写を武器に、「子供向け」と蔑まれがちだったアニメーションでも思想が語れることを信じ続けた高畑監督。

    宮崎監督は高畑監督を「大ナマケモノの子孫」と、高畑監督は宮崎監督を「勤勉すぎる」と評する間柄でもあった。

    盟友かつライバルだった二人の監督は対照的ではあるが、アニメーションで子どもたちの想像力を刺激したいという思いは共通していた。

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    トトロの原画

    「子どもたちのために」という思いは、ジブリ美術館のつくりにも反映されている。

    たとえば、来場者を迎えるトトロ。当初の原画では正面を向いていたが、宮崎監督はこの原画にトトロの首を前に傾けるように指示を入れた。

    子どもとトトロの目線が合わさることを狙ったものだった。

    成功も、失敗も、葛藤も、全てが創作活動だ

    Kei Yoshikawa/BuzzFeed/©Museo d'Arte Ghibli/©Studio Ghibli/©2002スタジオジブリ

    『天空の城ラピュタと空想科学の機械達展』のパネル

    展示された過去の企画メモには、宮崎監督とスタッフたちが葛藤した後も見て取れる。

    例えば「アルプスの少女ハイジ展」(2005年5月~06年5月)では、全54話の説明が準備されたが、宮崎監督はスタッフが書いた初稿を徹底的に赤ペンで直した。

    Kei Yoshikawa/BuzzFeed/©Museo d'Arte Ghibli/©Studio Ghibli/『アルプスの少女ハイジ』©ZUIYO「アルプスの少女ハイジ」公式ホームページheidi.ne.jp

    「アルプスの少女ハイジ展」のパネル。

    失敗や苦悩の全過程を隠すことなく見せる構成には、どんな意図があるのか。

    安西香月館長は「個人的には、今回の隠れテーマだと思っている」と前置きした上で、こう語った。

    「『一生懸命なのはおかしくないんだ』ということを、子どもたちに少しでも分かってもらえたらいいなって」

    「大人たちも、悩みながら、楽しそうでもあり、つらそうでもあり、すごいダメ出しをくらっているものも展示しています」

    「成功品(完成品)じゃないといけない、人に見せるのが100%じゃないといけないというのは、ちょっとつらいですよね」

    「ここに来て、ちょっと解放されて、楽しく帰ってほしい。明日の為に、楽しくやっていく力をもらってくれたらいいなと思っています」

    成功も、失敗も、葛藤も、全てが創作活動だ。宮崎監督もこんな言葉を残している。

    「創りたい作品へ、創る人達が、可能な限りの到達点へとにじりよっていく。その全過程が、作品を創るということなのだ」

    (ドキュメンタリー「『もののけ姫』はこうして生まれた」)

    ジブリ美術館には、大人たちの「一生懸命」が詰まっていた。


    ※三鷹の森ジブリ美術館は日時指定の事前予約制。毎月10日の午前10時から、翌月入場分のチケットを販売している。詳細は特設サイトで。


    Contact Kei Yoshikawa at kei.yoshikawa@buzzfeed.com.

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