原発再稼働「どんどん進めるべき」経団連会長の発言 なぜ?

    日立の原発ビジネス行き詰まりが背景か。

    時事通信

    経団連の中西宏明会長。

    経団連の中西宏明会長が、原発再稼働や国内の原発新設に向けて「公開討論」を提案するなど、踏み込んだ発言を続けている。

    1月15日、中西氏は記者会見で原発再稼働について、このように発言した

    「私はどんどん進めるべきだと思っている。原子力というエネルギーを人類のために使うべきだ」

    「安全性の議論を尽くした原発も多いが、自治体が同意しないので動かせない。次のステップにどうやって進めるのか。電力会社だけの責任では済まされない」

    さらに、新たな原発増設についても「私の世代はいいが、次の世代では原発がなくなってしまう。そのとき日本の電力事情がどうなるのか。大変危ない橋を渡っている」と、期待に含みをもたせた。

    これに先立って中西氏は、年初の報道各社とのインタビューでこんな発言をしている。

    「東日本大震災からこの3月11日で8年がたとうとしているが、東日本の原発は再稼働していない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理やりつくるということは、民主国家ではない。国民が反対するものをつくるにはどうしたらいいのか。真剣に一般公開の討論をするべきだと思う」
    (1月5日・中日新聞)

    「国内のエネルギーの8割は依然、化石燃料で危機的状況にある。再生エネルギーも、日本には適地が少なく極めて不安定。太陽光も風力も季節性があり、次世代送電網のスマートグリッドも、新しい投資が行われていない」

    「一方で、稼働しない原発に巨額の安全対策費が注ぎ込まれているが、8年も製品を造っていない工場に存続のための追加対策を取るという、経営者として考えられないことを電力会社はやっている」

    「適切な安全対策を最初から折り込んだ原発は、発電コストも高くないが、国民が反対するものをつくるには、原発建設の受け入れを前提に、公開討論すべきだ」

    (1月1日・日刊工業新聞)

    こうした発言の背景に、何があったのか。

    「財界総理」経団連会長とは

    時事通信

    土光敏夫・経団連会長(右)と大平正芳首相(1979年)

    まずは「経団連」がどんな団体か、簡単におさえておこう。

    終戦後の日本経済の再建を目的に1946年に発足した「経済団体連合会(旧経団連)」が母体。2001年に「日本経営者団体連盟(日経連)」と統合し、現在に至る。

    1600以上の日本を代表する企業・団体などが加盟。「経済同友会」「日本商工会議所」をあわせた財界3団体のリーダー格として知られる。

    歴代会長は加盟企業のトップから選出され、「財界総理」の異名をとる。

    過去には「メザシの土光」と呼ばれた土光敏夫氏など、時の政権にも物怖じせずに意見する人もいた。

    ところが近年、政権との距離感の近さや影響力の低下が指摘されている。

    前会長の榊原定征氏は、政治と経済は「車の両輪」として、安倍晋三首相との関係改善を進めた。その一方で「政権の言いなりになっている」との批判もでていた。

    中西氏は日立出身

    時事通信

    現会長の中西氏は2018年5月に就任。日立製作所の技術畑出身で、2014年に同社会長に就任。業績回復の立役者となった。

    日立は国内原発プラントメーカーの一角。福島第1原発と同じ「沸騰水型軽水炉」の機器や設備を手掛ける。東京電力HDの川村隆会長も日立出身。電力業界とのつながりは深い。

    中西氏自身も、日立会長時代から「安倍政権になり、エネルギー政策に真正面から取り組める雰囲気になった」「このまま原発を止めておくのはあり得ない」(2013年5月)と、原発再稼働には立場だ。

    そのため、経団連会長に就任に際しては「日立への利益誘導との批判を招く恐れがある」という声があった。

    中西氏も就任時、原発再稼働について「再稼働や新増設の議論を今やるかというとそれはまた違う気がします」と述べていた。

    「好きだ嫌いだの世界ではない。化石燃料は遠くない将来、枯渇します。そのときに再生可能エネルギーだけでまかなえるのか。それは無理です」

    「原子力技術は人類に大切なモノで私は技術に信頼を持っています。ただ再稼働や新増設の議論を今やるかというとそれはまた違う気がします」

    (2018年5月31日・朝日新聞)

    では、なぜ今年に入ってから原発政策について踏み込んだ発言を繰り返しているのか。

    「官民一体」の原発輸出は黄信号

    時事通信

    東京電力福島第1原子力発電所

    東日本大震災以降、原発プラント各社はビジネスの岐路に立たされている。福島第一原発の事故後、全国で8基あった新増設計画は中止となった。

    国内での増設が見込めない中、各社は海外への輸出をビジネスの軸に据えようとした。政府・経産省も原発輸出を「アベノミクス」の柱としてバックアップした。

    ところがリトアニア、ベトナムをはじめ一部の国では原発の新設計画を見直す動きが出た。

    ライバルの東芝は、アメリカの原発会社ウエスチングハウス(WH)を買収したが、1兆円を超える大損失で経営危機の引き金に。その結果、ドル箱だった半導体事業の売却へと追い込まれた。

    イギリスでの新設計画は暗礁 「もう限界だ」

    時事通信

    日立製作所が英国で計画している原子力発電所建設の予定地。[日立製作所提供] 

    唯一実現の可能性が残る輸出案が、日立がイギリスで進めてきた新設計画だった。しかし、これも暗礁に乗り上げている。

    原発の安全基準が世界的に厳格化されていることを受けて、総事業費は当初の2兆円から最大3兆円規模に膨らんだ。

    出資金が集まる目処は立たず、採算性も悪化。融資保証や電気の買取価格の引き上げで“頼みの綱”となっていたイギリス政府も、ブレグジット(EU離脱)をめぐる混乱で身動きがとれない。

    中西氏は2018年12月17日、イギリスでの計画について「難しい状況。もう限界だと思う」と発言。毎日新聞は、事実上凍結する方針だと伝えている。

    UPDATE

    日立製作所は17日、イギリスにおける原発建設計画を凍結すると発表した。2019年3月期連結決算で、減損損失約3000億円を計上する見通しだという。

    Contact Kei Yoshikawa at kei.yoshikawa@buzzfeed.com.

    Got a confidential tip? Submit it here