将棋ファンの聖地「みろく庵」3月末で閉店へ

    「建物の建て替えなどをめぐり、もともと立ち退くことになっていた」

    これまで長年にわたり将棋棋士たちの胃袋を満たしてきた東京・千駄ヶ谷の料理店「みろく庵」が3月末で閉店することがわかった。

    女将の桧垣えり子さんはBuzzFeed Newsの取材に対し、「建物の建て替えなどをめぐり、もともと立ち退くことになっていた」と語る。

    みろく庵は1982年3月にオープン、創業36年で、近くの将棋会館に出前をすることでも知られる。羽生善治九段、渡辺明二冠、加藤一二三九段など数々のトップ棋士たちに愛されてきた。

    桧垣さんによると「去年の10月、東京オリンピックの開催を契機に建物を建て替える話があり、3月末までに立ち退くことになっていた」という。

    「社長も70歳を超え、体調も悪かった。どこかで撤退できたらな…という思いもあった。でも、従業員もいるし、将棋会館さんにも良くしていただいているし、将棋ファンを始め、馴染みのお客様もたくさんいるのでどうしようかなぁと…考えていましたが、立ち退きを機に閉店を決めました」

    ただ桧垣さんによると、今年2月に入ると、建て替えの話が撤回されたという。

    営業を続けることも考えたが、従業員たちはすでに次の転職先が決まっていたり、遠方に引っ越すことが決まっていた。

    「従業員を新しく雇って頭数を揃えたら…と思われるかもしれませんが、うちの従業員はみんなプロ。藤井(聡太)七段のフィーバーをきっかけに忙しくなっても、長年培ったコンビーネーションで乗り切ってきた。うちはチェーン店じゃないし、別の従業員を…というのは考えられない。一人欠けても、多分無理なんです」

    「みろく庵は創業36年、今日から37年目なんです。36年、“みろく”でキリがいいじゃない。だからいい機会だから、ここで撤退しようと決めました」


    将棋ライター松本博文さん「新店開拓が求められる」

    藤井聡太 天才はいかに生まれたか』『藤井聡太はAIに勝てるか?』など藤井七段に関する著書がある将棋ライターの松本博文さんは、BuzzFeed Newsの取材に対し、「羽生善治九段が無冠になったことも衝撃でしたが、今回のみろく庵閉店も驚きました」と語る。

    今後の将棋会館の出前事情については、「そばやごはんもの系などのオーダーは、近隣のほそ島やを使うことになるかと思います。しかし、そうなると、ほそ島やへの負担が大変なことになるのではという危惧がある。やはり、新しい出前店を見つけるしかないのでは」と指摘した。


    名勝負のウラに「みろく庵」あり

    最近では藤井聡太七段の活躍に端を発する将棋ブームを受けて、みろく庵にも注目が集まっている。

    2017年6月26日、藤井聡太七段は公式戦29連勝を決めた対局で「豚キムチうどん」を注文。

    同年7月2日には、佐々木勇気七段が「肉豆腐定食(餅追加)」を食べて藤井七段の連勝記録を止めている。

    さらに丸山忠久九段は、「唐揚げ定食」の唐揚げ3個追加をオーダーすることも。通称「丸山定食」として、将棋ファンにも愛されている一品だ。

    「みろく庵」は、名勝負の立役者として将棋史の1ページに名を残すだろう。