田代まさし容疑者の出演動画、NHKが非公開に。薬物依存の苦しみを語っていた

    田代容疑者は今年7月にNHK「バリバラ」の企画「教えて★マーシー先生」に出演し、薬物依存症に苦しんだ実体験を語っていた。

    元タレントの田代まさし容疑者が覚せい剤を所持していたとして、宮城県警は11月6日、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いなどで現行犯逮捕した。

    田代容疑者は今年7月にNHK「バリバラ」の企画「教えて★マーシー先生」に出演し、薬物依存症に苦しんだ実体験を語っていた。

    この番組の模様はNHKの公式サイトやYouTubeでも公開されていた。ところが、報道各社が田代容疑者の逮捕を一斉に報道した6日午後5時過ぎ、BuzzFeed Newsが確認すると動画は非公開になった。

    NHK大阪広報局の広報担当者はBuzzFeed Newsに対し、動画を非公開としたことは事実と認めたが、経緯や理由については「確認中です」として、詳細な内容は現時点では答えられないと話した。

    「教えて★マーシー先生」の内容は

    番組の内容は、田代容疑者が薬物依存の実態を語ったり、専門家が当事者が回復できるための仕組み、適切な治療の必要性を訴えるものだった。

    田代容疑者は、刑務所での日常などをコミカルに話しつつ、服役してもなお薬物を求め続けていた心境など薬物依存の実態について語っていた。

    「断(た)ってる」んじゃないんだよ、「やめさせられてる」だけなんだよ。コントロールできないのが依存症なんです。

    捕まる度にファンをがっかりさせた、家族に心配をかけた、もう二度とやってはいけないって強い意志を持つんだよ。それでもね、目の前に(クスリを)出されたり辛いことが起きると、大切なものよりも(クスリの)魔力が勝っちゃうんだ。

    「国立精神・神経医療研究センター」の松本俊彦さん(精神科医)は、番組内で「刑務所にいても依存症は回復しない」「『気を引き締めて』『強い意志を持って』というのは無理な話」と説明。薬物依存症への適切な治療が必要であると話していた。

    薬物使用の報道で過去にも放送・公開の自粛

    タレントや俳優が薬物の所持・使用などの容疑で逮捕されると、テレビ局では過去の出演番組や出演予定番組の放送を自粛する例がある。

    記憶に新しいのは、今年3月にミュージシャン・俳優のピエール瀧さんが麻薬取締法違反の疑いで逮捕された時のことだ。

    当時、NHKはBSプレミアムで放送予定だった「ALWAYS 続・三丁目の夕日」と「ALWAYS 三丁目の夕日’64」を、別の映画に差し替えた。

    ただ、放映されることになったのは、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」と「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」。

    このうち「最後の聖戦」には、コカインやモルヒネを過剰摂取して死亡した俳優リバー・フェニックスが出演。当時のSNS上では、「筋が通らない」「フェニックス氏は良いのか」「判断基準がわからない」などの意見が見られた。

    差し替えの理由について、当時NHKはBuzzFeed Newsの取材に「どの番組をどのように編成していくかは個別に判断しています」と答え、薬物使用問題などについては言及しなかった。

    また、NHKはピエール瀧さんの逮捕翌日、NHKオンデマンドで配信されていた出演ドラマ「あまちゃん」「64(ロクヨン)」「とと姉ちゃん」「龍馬伝」などの配信停止を発表。

    さらに足袋屋の店主役で出演していた大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」は、ピエール瀧さんの出演シーンをカット。代役に三宅弘城さんを立てた。

    こうした判断について、NHKは当時の会見で「公共放送として、反社会的な行為を容認する立場を取ることはできない」「犯罪行為を是認するような取り扱いはしないなどと定めた国内番組基準に沿って、容疑の内容や視聴者に与える影響などを総合的に判断した」と説明している

    2017年、当事者や専門家が中心となって「薬物報道ガイドライン」が作られた。

    背景には、タレントや元スポーツ選手など著名人が逮捕される都度相次いだ偏見や誤解を前提とした報道があった。

    策定に参加したのは、NHKのEテレ「バリバラ」にも出演していた松本さん、依存症患者の支援に関わる「日本ダルク」代表の近藤恒夫さん、「ダルク女性ハウス」代表の上岡陽江さん、評論家の荻上チキさんらだ。

    きっかけは、荻上さんがパーソナリティーを務めるTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」だ。2017年1月17日、松本さんは番組の中で、薬物報道の問題を指摘した。

    「どうしても、糾弾する、あるいは晒し者にする、というイメージが非常に強い気がします。薬物依存症というのはれっきとした精神疾患というか、医学的な疾患なんですが、報道のたびに白い粉とか注射器とかのイメージ映像が出る。実は依存症の人はそれを目にすると、すごく欲求を思い出してしまうんですね」

    「著名人が逮捕されてそのような報道が激化するたびに、自分が見ている患者さんたちが、再び薬物を使用してしまうなんてことが続発していて。回復しようと思って頑張っている人の足を、報道が引っ張ってるんじゃないか?そんな印象をずっと持っています」

    松本さんは、過去にBuzzFeedの取材にこう語っている。

    「僕らが注意しなければいけないのは、著名人が捕まる度に、ついつい我々にしてもメディアにしても憶測でものを語りがちになってしまうことです。一般論としては語れるけれども、憶測でものを言うのは慎重になった方がいいです」

    「もしも彼がある程度常用していたとしたら、年々、芸能人の薬物使用に対しての世間の風当たりは強くなってきていますから、捕まった時に失うものの大きさはいやというほど知っているはずです」

    「薬物報道ガイドライン」の内容は

    以下に、依存症の治療・回復にあたる関係団体と松本さんら専門家で作った「薬物報道ガイドライン」を紹介する。

    【望ましいこと】

    • 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
    • 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
    • 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
    • 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
    • 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
    • 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
    • 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
    • 依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

    【避けるべきこと】

    • 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
    • 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
    • 「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
    • 薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
    • 逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
    • 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
    • ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
    • 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
    • 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

    ガイドラインでは「相談窓口を紹介し、警察や病院以外の『出口』が複数あることを伝えること」を、望ましい報道のあり方の一つとして提案している。

    薬物依存には、人間関係や環境など、当事者が抱える様々な背景や課題がある。そうした点に目を向けず、一面的なバッシングや“見せしめ”のような報道を続けることに、果たして有益な意味があるのだろうか問われている。

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    「全国精神保健福祉センター」の一覧

    薬物依存症リハビリ施設「日本ダルク」

    NPO法人「全国薬物依存症者家族会連合会」