放火事件から3カ月、京アニ社長が語った思い。

    36人が犠牲になった京都アニメーション(京アニ)放火事件から3カ月となった10月18日、同社の八田英明社長が記者会見を開いた。

    36人が犠牲になった京都アニメーション(京アニ)放火事件から3カ月を迎えた10月18日、同社の八田英明社長が記者会見を開いた。

    八田社長は、これまでに寄せられたお見舞いや支援への感謝と、京アニ再建への決意を語った。また、公開延期が決まっていた劇場版「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」について、来年4月以降に公開する予定だと明かした。

    殺人容疑などで逮捕状が出ており、現在入院中の青葉真司容疑者(41)については、「あなたの行動でどれだけ多くの人が悲しみ、悩み、人生をなくしてしまったのかということに思いを致してほしい」と語った。

    遺族のことを思うと、心が痛い

    7月18日に発生したこの事件では、京都市伏見区にあった京都アニメーション第1スタジオが放火され36人が死亡、33人が重軽傷を負った。

    会見の冒頭、八田社長は「今朝も第1スタジオを目にしましたが、ご遺族のことを思うと本当に心が痛いです。3カ月経ったが、居ても立ってもいられない」と胸中を語った。

    7月18日まであった日常が無い

    八田社長は会見の中で、事件が起こった「7月18日」という日付を強調した。「7月18日まであった日常が無いんです」と、苦しい胸中を吐露する場面もあった。

    「7月18日という日を忘れたことはないです。気持ちは、何も変わっていないんです」

    「この3カ月間、会社の中にいても、皆さん顔が昔と違うんです。7月18日まであった日常がないんです」

    「会社に行くと、あそこにAさんが、Bさんが、Cさんがいたよね。ここにいて笑って返してくれたよねと。こういう思いはみな同じなんです。その人たちが突然いなくなってしまった。これは精神的に相当つらいことです」

    殺人容疑などで逮捕状が出ている青葉真司容疑者(41)は全身にやけどを負い、現在入院中。動機の解明にはさらに時間がかかる見通しだ。

    会見で青葉容疑者への思いを質問された八田社長は、個人の考え方と前置きした上で、このように語った。

    「私個人の考え方ですが、一言で言えば、何を考えてこういう行動を起こされたのか。あなたの行動でどれだけ多くの人が悲しみ、悩み、人生をなくしてしまったのかということに思いを致してほしい。言葉がないです。凄惨な事件だと思っています」

    世界から寄せられたメッセージに感謝

    事件後、京都アニメーションには世界中のファン「Pray For Kyoani(京アニに祈りを)」と題したお見舞いのメッセージが寄せられ、これまでに29億円あまりの義援金が寄せられた。

    八田社長は「私たちは3カ月間、一生懸命ご遺族の気持ちに寄り添って取り組んでまいりました。この間、世界中から“Pray For Kyoani” “頑張れ京アニ” “いつまでも待ってるぞ” と温かいメッセージを頂きました。相当額の義援金もいただきました」として感謝を表明した。

    ものづくりに必要なのは、人づくり

    八田社長は、京アニがこれまで作品をつくる上で大切にしてきた信念についても語った。

    京アニ作品に通底するのが、京アニの企業理念「人を大切にし、人づくりが作品作り」という言葉だ。

    「私たちは、ものづくりの会社なんですね。ものづくりの会社は、言葉で語るもんじゃないと思うんです。作品を通してメッセージを発していく。そのことを常に会社の中で言ってきたんですね」

    「38年間積み上げてきたものの根底は、ものづくりはみんなで寄ってたかって作ろういうことです。一人だけが作るんじゃない。俺がこれやるから、みんな手伝ってと、みんなが集まって作る。そういうことを大事にしてやってきました」

    「そのために何が必要なのかというと、人づくりなんですね。思っていることを伝えて、思っていることを掬う。そしてコミュニケーションを図って、こういう作品にしていこうよと、みんなで作っていく」

    「これからもそのことを大事にしながら、世界中の人たちに、子どもたちに一生懸命発信していきたい。3カ月の月命日に改めて、そのことを肝に命じた。決意している次第です」

    作品は止まりません。作ります

    9月には、事件後初の劇場公開作品となった「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」が公開された。3週間の限定上映の予定だったが、反響の大きさから公開期間が延長され、いまなお多くのファンが劇場に足を運んでいる。

    エンドロールには、制作に関わった全スタッフの名前が記された。藤田春香監督たっての希望だった。

    通常なら入社1年目の社員の名前はエンドロールには記されないが、このエンドロールによって、制作に参加した全員の「生きた証」が刻まれた。

    記者が公開初日の封切りを鑑賞した都内の映画館では、上映終了後に拍手を送る人の姿もあった。それはまるで、悲劇に見舞われた京アニの復活を願い、ファンの祈りを込めていたようだった。

    遺族への思い、そしてファンの祈りに応えるかのように、八田社長も会見の中で、京アニの作品づくりを絶やさない意思を明確に示した。

    「作品は止まりません。つくります。来年1月10日に予定していたヴァイオレット・エヴァーガーデンの本編は、来年4月以降に必ず映画化していきたいなと思います」

    会社再建は、形ではなく心を取り戻すこと

    また、会社の再建について八田社長は「形ではなく心を取り戻すことが大事」と思いを語った。

    「会社の再建というのは形じゃないと思っているんですね。心を取り戻すということが、クリエイターにとって一番大事なことだろうと思うんですね」

    「心を取り戻すということは、亡くなられた皆様、ケガを負われた方たちが、これからしっかり歩めると言ったらおかしいですが、そういう形にもっていくのが再建の一番大きなところだと思うんです」

    「そこがしっかりできれば、心が安心して、みんなの気持ちをつないでいこうと、心構えに向かっていくだろうと思うんですね。そのことをまず第一にしていこうと思っています」

    11月に追悼式を開催

    京都アニメーションは11月3日〜4日にかけて、京都市内でファンに向けた「お別れ、そして志をつなぐ式」を開くことを明らかにした。

    式典では、「亡くなられた故人の冥福を祈る場」として、世界中から寄せられたメッセージを一部抜粋して展示する予定。作品史料の展示や上映会などは行わない。

    当日は混雑が予想されるため公共交通機関の利用、午前中は混雑が予想されるため、正午以降に来場するなどの協力を呼びかけている。