Updated on 2019年12月28日. Posted on 2019年12月26日

    「水曜どうでしょう」6年ぶりの新作、ディレクターが語った正直すぎる自己評価

    インタビューから垣間見えたのは、番組を愛し続けるファンへの信頼、正直すぎる自己評価。そして、旧態依然としたテレビ業界への危機感だった。

    HTB提供

    6年ぶりとなる「水曜どうでしょう」の新作のうち第1話、2話が12月23日深夜、北海道内で放送された。放送に合わせて、インターネット(北海道onデマンド)でも配信がはじまった。

    新作公開を受けて、BuzzFeed Newsは藤村忠寿ディレクターと嬉野雅道ディレクターに今の心境を聞いた。

    2人にとって「水曜どうでしょう」とは何か。どんな思想で作られてきたのか。ローカル局が生み出した奇跡の番組は、なぜ人々を夢中にさせるのか。他のテレビ番組とは何が違うのか。

    稀代のスター・大泉洋を育てた伝説の番組は、いまなお「藩士」と呼ばれる熱烈なファンたちに愛されている。

    インタビューから垣間見えたのは、番組を愛し続けるファンへの信頼、正直すぎる自己評価。そして、旧態依然としたテレビ業界への危機感だった。

    【インタビュー前編はこちら

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    *注意:この記事には「水曜どうでしょう」新作(第1話、2話)に関するネタバレが一部含まれます。未視聴の方はご注意ください。

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    お客さんも共犯者、それが「どうでしょう」

    Kei Yoshikawa / BuzzFeed Japan

    嬉野雅道ディレクター(左)と藤村忠寿ディレクター

    ――第1話、2話を先行公開で拝見しました。前作から6年が経っても4人は健在。大泉さんは相変わらずボヤくし、文句も言う。「優しい圧力団体」など軽妙洒脱な言葉のチョイスにも唸らされました。

    藤村:ああいうのが、ずっと続くからね(笑)大泉さんのひとつひとつのコメントがいいんだよねぇ。

    前のめりに「もっともっとだ!」「more moreだ!」「こうしなければいけないんだ!」っていう意志が、ことごとく崩れていくんだもの(笑)

    あいつ、言ってたもんね。「僕が言ったことが君たちの足かせになってるんなら、もう忘れてもいいんだよ!」「いくら乱暴なことがあってもいいんだよ!いきなり殴りつけても構わないよ!」って。

    結局、彼の方が諦めちゃったもの(笑)

    ――主演を諦めさせる番組。すごい。

    藤村:そうでしょぉ?主演に対して最初から悪意が見えている。

    「僕が主演だ!」って言った瞬間に、エンディングにわざわざでっかく「主演」って書くのは、悪意のかたまりだからね(笑)

    彼の「主演」が、これからどんなことになるのか、大泉さん自身もびっくりするんじゃないかな(笑)

    どんどんどんどん、ポジションが悪くなるぞ。「え!タレントの名前がそんなところに出ちゃうの!?」みたいなの。普通はいじれないもの。

    嬉野:長いことやっているから、文脈をみんなが了解してるからこそできることだよね。

    藤村:お客さんも共犯者だからね。

    大事なのは「企画における時間の経過」

    Kei Yoshikawa / BuzzFeed Japan

    ――実際、新企画の収録中はどんなことを考えていたんですか。

    嬉野:俺はなんにも考えてないよ。ただ、撮りにくいテーマだなと思ってはいた(笑)。

    藤村:こっちとしては「ある程度の時間を過ごす」ということ自体が大事かなと思っていた。

    それこそ、23年前に「水曜どうでしょう」を始めた頃の思いっていうのは、深夜バスに10時間揺られて、揺られる前と揺られる後を撮りたかっただけ。10時間の中身は別にどうでもいいと思ってたもの(笑)

    今回の企画も「時間を使う」ということさえできれば、その前と後を撮れば十分じゃないのかなと思ってた。基本の考えはそれだよね。

    企画の中で、時間の経過さえあればいい。中身で面白くしようなんて無理だと思っていたし、我々は「ある行為に時間をかける」っていうことが非常に大事だと思っているんだよ。

    ――「時間の経過」ですか。

    藤村:結局さ、本編なんて1話20分ぐらいなわけでしょ。それでもって、深夜バスの中で半日過ごしても、撮るのは乗る前と降りた後だけでしょ。

    でもさ、乗っている最中のことがムダであればあるほど、バスから降りた後には10分じゃ収まりきれないぐらい大泉さんも鈴井さんもしゃべる。欲しいのはココなんだよな。

    もしくは、バスに乗る前のちょっとした盛り上がりの部分。「こんなことやってどうなるんだ」っていうボヤきとかね。

    バスに乗っている最中はあまり気にしない。実際、バスの中で撮った部分の撮れ高って短いもの。

    ――その思想は、割と初期からありましたよね。「寝れないんだよ」でおなじみの「壇ノ浦レポート」も、そうでした。

    藤村:そうそう。5周年企画の「深夜バスだけの旅」とかもそうだよね。四国八十八ヶ所だってそう。基本は行った寺の前で名前言うだけだもの(笑)。

    ――それこそ、時間の経過がわかる編集の妙。

    藤村:それでいいんだよ。使用前、使用後があればいいんだね(笑)

    藤村D、嬉野Dが語る「水曜どうでしょう」の番組観

    HTB / Via hod.htb.co.jp

    最新作はHTBの「北海道onデマンド」でも有料配信される。

    ――6年ぶりの新作は大きな話題になっています。お二人が考える「水曜どうでしょう」の番組観は、どんなものですか。

    藤村:今回みたいに「水曜どうでしょう」が新作をやるとなれば、それを伝えようといろいろな媒体さんが報じてくれるし、ファンも「おぉ、6年ぶりか!」と期待する。コンテンツとして盛り上がる現象があるよね。

    結局さ、テレビのカルチャーから世の中で盛り上がるものが少なくなってきてしまった気がするんだよ。定期的に話題にあがるものって、今は大河ドラマや朝ドラぐらいかもしれない。

    ドラマだって、話題になるのは「次の主演は〇〇」とか、役者に関する話がメイン。文化的に盛り上がるというか、変なカルチャーとして、熱を帯びて盛り上がるみたいなことが、テレビにもうあまりないっていうことなんだろうなあ。

    だから俺は「水曜どうでしょう」っていうものを、ギリギリまで関心の的にしたい。書かれ方はどうであれ、盛り上がってくれれば、それが一番いいなと思う。

    ――ファンの中には、「老い」を見せて、ありのままを見せていくことに対して、肯定する人もいれば、ちょっと物足りないなって思う人もいたりするかもしれません。

    藤村:批判は全然あってもいいんだよね。

    嬉野:23年間も同じ番組をやってきたけど、好きな人たちにとっては「こんなに楽しみなことはない」といまだに言ってもらえる。

    変化してきたテレビの世界で、「どうでしょう」がそういう存在になれた。

    それは、他人に何を言われようと「俺は好きで観ているんだ」「わかった上で観ているんだ」っていう人が少なからずいてくれるからだと思う。

    我々も、そう言ってくれる人たちのことを大切に思っている。

    でもさ、そういう人たちがもっと増えて欲しいとか、もっと視聴率を取りたいとか、そういうことは一切思っていないんだよね。

    数字を追求するテレビの世界では、これは非常に新しい文化じゃない?これからは、こういう考え方が大事になるんじゃないかなと思うんだ。

    世の中的にも、みんなに好まれるもの、みんなが好きなものを好きになるという文化から「私はこれが好きなんだ」と言いやすい時代に段々とシフトしてきた。

    普通のテレビと「どうでしょう」の違い、それは…

    Kei Yoshikawa / BuzzFeed Japan

    ――「好き」と言ってくれる人に向けてコンテンツを作り続けていく姿勢は、YouTubeの動画クリエイターやNetflix、Amazonプライムのような、狙ったファン層に刺さるコンテンツの作り方にも通じるような気がします。

    藤村:コンテンツが、より顧客的なもの、コミュニティになっているなって思うな。

    ――新作は、インターネットでも配信されています。テレビとは違い、自分の好きなタイミングで見ることができる。時代の経過とともに、コンテンツの楽しみ方も多様になってきました。

    藤村:これからも、流れとしてはそういう時代になるだろうなとは思う。

    基本的に「水曜どうでしょう」も、テレビ放送だけで全貌がわかるスタイルではないんだ。もともとは深夜放送だったから、録画で見ていた人が多かったからね。

    夜中にやっているのをチラッと見かけて「この番組はなんだろう?」と気になって、録画したビデオを友達に貸してもらったり。そういうきっかけから、好きになってくれる人がいた。

    普通、テレビは1回放送したらそれで終わり。だけど、「水曜どうでしょう」はそうじゃない。テレビ放送がきっかけになって、好きになって、DVDを買って過去の企画を全部見てくれたりする。

    うちは1回放送したら終わりではない。一瞬で終わるものではない。そういう思想があるから「ふり返り」も必要ないなっていうことになる。

    ――お客さんが追っかけてくることを信じている。

    藤村:番組の作り方自体がそうなんだよね。お客さんが追いついてくれる。そういうスタイルになれたから。

    でも、俺らがやっていることの思想にお客さんが追いついてくれるけど、テレビの世界が追いついてくるのかはわからない。

    どこの局でも、毎回の視聴率で勝負する…っていう、昔からの発想が残っていてさ。

    「30分の番組をどう埋めようか」「どう宣伝したものか」「やっぱり数字が気になりますよね」って、従来の思考にとらわれている人が意外といる気がする。

    番組が放送されること、全国で放送されることは確かに大事かもしれない。でも、それは何のためなのか。視聴率のために「この放送を見せる」だけではない。「この番組が心に引っかかるきっかけ」を作るためなんだと思う。

    嬉野:どんなお客さんを大切にしようと考えているのか、その姿勢は番組にも現れると思う。

    例えば、テレビは番組の途中でCMが入るけどさ。番組によっては、CM前の内容をCM明けに「ふり返り」として入れる場合があるよね。

    それはCMのタイミングで見始めた人のためにやっているんだけど、はじめから見ているお客さんにしてみれば「もう見たよ」ってなるでしょ。

    たしかに新規のお客さんがくるから、視聴率自体は上がる。でも、ずっと見てくれているお客さんとしては苦痛だよね。

    「カシミールカレー」で考えるテレビ論

    Kei Yoshikawa / BuzzFeed Japan

    ――リアルタイムで応援してくれるお客さんは、「こっちは好きで見ているんだから、たとえCMが入っても離脱しないよ」という層かも。

    嬉野:作り手はファンを信じて欲しいよね。

    俺はさ、あるファミレスが夏だけ出している「カシミールカレー」が大好きなんだよね。夏に行くとそればっかり食ってるんだ。

    毎年やっているから、人気メニューなんだと思う。でもさ、人気メニューゆえなのかな。毎シーズン中身を変えてくるんだよ。手を替え、品を替え、具材が変わったり、味が変わったりする。

    だから、好きになった「あの味」が消えてしまうんだよね。

    20年、30年も付き合って食べてきたお客さんをどうして信じられないのかなと。「俺らを置いていってしまうのか…」って、寂しく思うんだよ。

    もちろん、新規のお客さんを開拓をしたり、アレンジするのはいいのよ。でもさ、ずっとあのカシミールカレーを愛している俺たちはどうなるのかと(笑)

    藤村:俺自身も、昔と比べると作り方が変わった。

    昔はさ、前回の振り返りとか、あらすじをやって……って型通りに作っていたけど、いまは「そこらへんはもういいや」って思っちゃってるもの。

    嬉野:そう。メジャーにさせようという、上から横からの「雑音」がいっぱい聞こえてくる中で、それをどういうふうに乗り切って、お客さんを信じて番組を作り続けていくか問われる。

    藤村:最近の作り手は「雑音」が入ってくるのがわかっているから、最初から忖度しちゃう。お客さんを信用するのを諦めちゃってるのかもしれない。

    ――「どうでしょう」は、なぜその雑音に抗えたのでしょうか。

    藤村:これはローカル局だから良かったのよ。誰もメジャーなことをやった人がいないから。一般論として「ああやれ」「こうやれ」って言われても、それは単なる一般論だし、そんなのこっちははねつけるだけだから。

    ただ、これが東京だと、そういうメジャー圧力がやっぱり大きいからね。でも、ローカルだとそういう力は少ない。だから良かった。

    テレビの生態系は限界。でも、可能性はある

    HTB提供

    ――あぁ、そうか。「なぜ、ローカル局が『水曜どうでしょう」を生み出せたのか」ではなく、「ローカル局だからこそ『水曜どうでしょう』は生まれた」と。

    藤村:そう。メジャーにいく必要がないから。だからこそ、次の新作は視聴率は全然気にしないわけね。

    うちなんて30分番組なのにCMが2分以上あるのよ。CMの分数が長い。でも「この先を見たい」と思ってもらえるかは作品の質自体の話。CMのせいで見る、見ないを決めるわけではないからさ。

    そもそも「水曜どうでしょう」って、何回も繰り返し見るものだから録画している人も多い。眠かったら寝ちゃったでもいいんじゃない。

    もちろん、こういうことを言うと「視聴率をもとに、スポンサーからお金を頂いているから困るんです」という話になるわけだよね。

    でもさ、視聴率で番組やCMの価値を測るというシステム自体がもう限界じゃないのかな。

    ――テレビにおけるコンテンツや広告価値の評価方法が、もはや時代遅れになっている。

    藤村:「水曜どうでしょう」の新作をやるっていった時に、スポンサーになってくださった「よつ葉乳業」さんという北海道の企業があるんだけどさ。

    よつ葉乳業さんは「これからちょっとずつだけど、全国にも売っていこう」って思っているそうで。「我々も、どうでしょうさんを見習って応援したいんだ」っておっしゃってくれたんだよね。

    テレビの提供って「この番組を応援したい」と思ってもらえて、それを「提供」という形でお金を頂いていた。そういう形に戻ればいいのかなって思うんだよ。

    嬉野:でもさ、今の時代はどんどん違う方に進んでいるよね。

    藤村:「水曜どうでしょう」が他の番組と最も違うところは、そこだと思うんだ。視聴率とか旧来のシステムからは解き放たれてしまっている。

    「CMを飛ばされるとテレビのビジネスが成り立たない」としがみついてる時点で、もう終わりなんだよね。

    「CMは飛ばされる」という事実を、いつまで見ないふりをするのか。単純にCMを入れて、それでお金を儲けようなんていう生態系はこの先長く続かないと思う。

    余計なことはせず、ブレないことが大切

    Kei Yoshikawa / BuzzFeed Japan

    ――コンテンツの楽しみ方、伝え方は多様になった。でも、テレビの生態系も変わらないといけない。

    藤村:いまだに同じ餌で生きようとしているからね。でも、餌は減ってきている。それをテレビの人たちもわかっているんだけど、いまだにその餌を食い合っている。

    だから、俺らは余計なことはしないの。嬉野さんが言ったように「カシミールカレー」を作り続けているわけよ(笑)

    嬉野:お客さんに媚(こび)を売っているわけではないんだよね。自分たちが本当にうまいと思っているから、お客さんもついてきてくれるだろうなと信じている。だから、味を変える必要がないと思えば変えない。

    視聴者代表の目線の俺から見れば、「俺はこんなに信じてカシミールカレーを食べているのに、なんで作り手はブレブレなんだ」ってと思っちゃうと、そこで孤独を感じるんだよ。

    お客さんは、作り手が自分を信用してくれていないと悟った時、孤独を感じるんだ。

    藤村:うちはずっと同じ人がカシミールカレーを作ってるからね。味がブレないんだよ(笑)

    Kei Yoshikawa / BuzzFeed Japan

    ――同じことを長く続けることの大切さがあると。

    嬉野:我々は、同じ人たちで番組が続けられるようにしている。自分たちの気持ちに正直にやっているからね。

    ――そこが担保されているから、ファンも「どうでしょう軍団」について行くんですよね。

    嬉野:自分たちに正直だから。迷走したら「迷走してる」って言うし、主演俳優は「手応えがない」って言っちゃうもの(笑)

    これだけ放送前に言っておけば、お客さんも「やっぱり手応えなかったね」って安心できるんじゃない?

    藤村:それで番組を見ないかというと、好きな人は見てくれるわけで。

    ――「手応えがない」と言い切れるところが、「どうでしょう」の強さですね。

    嬉野:「6年ぶりの新作」という緊張感の中で、大勢に面と向かって「手応えがありません」って言ったら、その瞬間にみんな緊張がほぐれるでしょう(笑)

    笑っちゃって、受け入れちゃう。ここが人生の妙、社会の妙、人間の妙だよ。「水曜どうでしょう」は、そこにつけこめるからね。

    いいか、ここが大事なんだよぉ?そういう作戦なんだから。

    藤村:よく「そんなこと言う勇気が、よくありますね」って言われるけど、ちょっと見当違いなんだよな(笑)。

    嬉野:そう。こっちは策なんだよ。勇気とかじゃない。勇気って何も裏付けがなく突っ込んでいくことでしょう?いいか、こっちは作戦なんだからな(笑)

    藤村:頭を柔らかくして、ものの見方を変えることが大事だぞ。

    嬉野:そういうわけで、おわかりのように…。

    藤村:もう、はっきり言ってるからね。番組では「2年後に完成する」って言っているから、みなさんもその時間経過に付き合わなきゃいけない。

    放送自体は2年もかからないけど。「2年分」の我々をみなさんに見てもらいますよぉ。

    嬉野:割と安心して見てられるんじゃない?劇的なことはないしな(笑)

    藤村:最後まで見ていただければ、「損はしなかったな」と感じてもらえると思う。「あぁ、見てよかったな」って思ってもらえるから(笑)

    嬉野:そうそう。「神はいるな」って思うよ(笑)

    藤村・嬉野Dによる新作1話2話の副音声実況はこちら。

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com / Via 水曜どうでそうTV

    「水曜どうでしょう」最新作の放送は、12月25日(水)深夜0時35分から。初回のみ第1話・第2話が合わせて放送される。

    1月8日(水)以降は午後11時15分〜午後11時45分で放送予定。オンデマンド配信は、各回の放送開始後(初回は放送開始から約5分後)に「HTB北海道onデマンド」で有料配信される。

    Contact Kei Yoshikawa at kei.yoshikawa@buzzfeed.com.

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