6年ぶり「水曜どうでしょう」放送直前、藤村D・嬉野Dが心境語る 「視聴率は気にしない」

    「いいか。ワクワクもドキドキもないぞ(笑)」

    「いいか。ワクワクもドキドキもないぞ(笑)」

    6年ぶりとなる「水曜どうでしょう」の新作が12月25日深夜、満を持して北海道ローカルで放送される。放送にあわせて、オンデマンド(北海道onデマンド)でも配信される。

    10月の先行公開後、大泉洋は「前作よりもつまらない」と断言。ディレクター陣も「今回はなるべくがっかりさせたい」「視聴率は気にしていない」と、あえて自虐的とも思える宣伝文句を並べている。

    放送直前の12月23日、BuzzFeed Newsでは藤村忠寿ディレクターと嬉野雅道ディレクターに新作放送前の心境を聞いた。

    【インタビュー後編はこちら

    ――新作の先行公開後、大泉さんが「前作よりつまらない」と言い切った。それがYahoo!トピックスに載っていました。

    藤村:まぁ、狙い通りだよな(笑) でも、俺は普通に面白いと思うよ?

    ただ、みなさんが今まで求めていたような「次、どこに行くんだろう?」とか、そういう「驚き」みたいな面白さではないよね。

    嬉野:「驚き」はないよ。驚くぐらい「驚き」はない(笑)

    でも、収録した記憶がなくても、収録後の編集で拾っていく過程で面白いところが見つかる。そういう要素があるんだよね。

    これまでは「この後、一体どういう展開になるんだろう?」みたいな、ワクワクやドキドキだったかもしれない。だけど、今回のやつは…。

    藤村:ワクワクもドキドキもないぞ(笑)

    「藤やんの字幕スーパーが的確」

    ――大泉さんによると、どうでしょう軍団は「旅をすると自然と面白くなると思われがちだけど、そんなことはない」「面白くしようとしているから面白くなっているわけであって、そこをいよいよ放棄し始めたのが、この人たちですよぉ」とボヤいておりましたが…。

    嬉野:それは「印象」の問題かもしれない(笑) 過去作を見ると、例えば北欧企画では「ここをキャンプ地とする」という名言が生まれたことがあった。

    この言葉はロケが終わって帰国しても、ずっと記憶に残るような印象的な言葉だった。そういうのが一発あれば、もちろん名作になるよ。

    確かに、今回はそういう「印象」に残るものがないから、主演俳優としては「手応えがない」と思うかもしれない(笑)

    だけど、編集で拾っていくと、みんな地道に(面白いことを)やってる。大したもんだなぁって。大泉さんが言うところの「視聴者代表」として楽しく見ていましたよ(笑)

    特に、藤やんの字幕スーパーの視点が非常に良い。かつ、的確なんだよな。編集すると、現場にいる時にはなかった視点に気付くんだよ。「面白い!」っていうシーンが確かにある。

    藤村:今のところ、先行公開で1話、2話を見た人が世の中に10万人ぐらいいる。

    まだネタバレはしていないけど、その10万人もたった2話を見ただけ。だから、まだ満足しているわけではないと思う。

    「今回は、なるべくがっかりさせたい」

    ――こちらとしては、非常にモヤモヤしています(笑)

    藤村:そう、モヤモヤする。たぶん歌と同じなんだろうな。

    ――歌ですか?

    藤村:これまではサビから入って、人をグッと惹きつけてきた。だけどそれは誰も、何も知らない時に注目を集める手法だよね。

    今はもう、そういう状況ではない。だからサビから入るのは、ないなと思っていて。

    焦らされて、焦らされて、もうちょっと聴きたい。まだ盛り上がってない……みたいな。でも、いつかは大泉さんが高らかに歌い上げるんだろうって感じさせるよね。

    「彼の嘆きを聴かせてくれ!ソウル(魂)を聴かせてくれ!」って思うでしょう? でも、そこもたぶん昔とはちょっと違っているかもしれない。

    彼のソウルも、それをシャウトするのは、もうちょっと後なのか、もしかしたらシャウトしないで終わるかもしれない。

    それをわかっていても、お客さんには全然楽しんで聴いてもらえるんじゃないかなと思う。

    「23年もやっていると、いろんな歌い方があるんだな」と。ずっと、いきなりサビから聞かされていると、お客さんも「またかよ」と逆に思っちゃうのかなと思う。だから、今回はなるべくがっかりさせたい(笑)

    嬉野:とりあえずは1つ(作品が)撮れて、それを提供していくという流れがあることが大事だと思う。

    手応えのある、ないは別として、23年も同じ番組をやっていて、20年以上も付き合ってくれているお客さんがいる。そういう前提がある中で、同じ番組をずっと放送できるなんて、滅多にない話。

    だから、新たな境地になるかもしれないなという話はしてるんだよね。みんなが新作をどういう風に受け取ってくれるかも楽しみなんだ。

    6年ぶりの新作公開。怖さは「ない」

    ――そこに「怖さ」はないですか?

    嬉野:恐怖とかはないよ。

    藤村:多分、昔のようにサビから歌おうとするなら恐怖はあると思う。

    でも、こっちはサビを歌う気はさらさら無い。その時点で、全員が目を伏せるのは織り込み済みだから。別に怖くはないよ。

    だからといって、面白くなかったかというと、面白いと思う。だから、そこに対しての恐怖はないよね。

    嬉野:ただ、過去作を超えてるかと聞かれると「それは知らん」というのはあるけどね(笑)

    ――過去作との比較は難しい。どの企画が好きか、ファンによって尺度が違う。結局は、その瞬間、その瞬間が面白いかどうか大事になってくるかもしれないですね。

    藤村:そのあたりは鈴井さん(ミスター)もずっと言ってるよね。人間として下っていく自分たちを正直に見せると。

    ミスターは「下り坂」と表現しているけど、俺たちはその時にできることをやっているだけ。

    30代の頃だったら、いきなり四国に行ったぐらいでみんな驚いていたけど、いま四国に行ったって驚きはしないでしょう?

    今さら、それをわざわざ再現するために四国に行って、またあの驚きを演出するなんて、我々はもうする気もないし。

    嬉野:それは反対に不自然だよね。

    藤村:でも、そこを見誤って失敗するテレビ番組って多いと思うんだ。

    ――過去の成功体験に引っ張られてしまうのでしょうか。

    嬉野:あると思うな。成功体験がある企業って、成功体験に頼ると失敗するでしょう。その場、その場の状況を見ながらハンドリングするっていうのが一番だよね。

    「どうでしょうを見続けたい」 ファンの思いに…

    ――今回の状況の1つが「老い」や歳月を経たっていうところが、要素としては大きかったと聞きました。鈴井さんは、その姿を見せることが「勇気」と言ってましたけど。

    藤村:まぁ、俺らは別にそこまでではないけどね。

    ――あくまで自然体。

    嬉野:それが一番、得なんじゃないかな。もっともっと先まで水曜どうでしょう」をやろうと思ってるから。それを見据えてやっているから、嘘はつけない。嘘はついたらバレるよね。

    藤村:面白いか、面白くないという話もあるけど、視聴者としては「どうでしょうを見続けたい」というところなのかもしれないよね。

    ――「一生どうでしょうしてほしい」というのが一番大きい。

    嬉野:「一生どうでしょうします」と腹をくくれないなら、番組をやめて殿堂入りした方が一番だものね。

    藤村:過去に「対決列島」がウケたから、もう1回対決列島をやりましょうかとはならないもの。寿命を減らすつもりねえもん(笑)。

    「人生のカウントダウン」と「一生どうでしょう」

    ――嬉野さんは今年還暦を迎えられました。心境にはそれほど変化はないとおっしゃっていましたが…。

    嬉野:そうねぇ。変化はないけど「59歳」と「60歳」の違いというのは数字の妙というか。

    「60」って意識すると、カウントダウンが自ずと始まって「70まであと10年」「70って若くないよなあ」とか思ったりする。

    そうだなあ。一番大きな変化は、この「人生のカウントダウン」が始まったことだね。

    「そういうところ」に向かうことが現実としてあるんだなと。こういう感覚は59歳の時はなかったから。

    「残り時間」がどんどんなくなっていく。1年が終わると、残り時間も少なくなってきたという意識はあるな。そこが大きな違いかな。

    体力的にはまだまだ目に見えた変化はないけど、今後は変わるんだろうなあ。

    ――今回は、今後もどうでしょうを続けていくための布石でもあった。

    嬉野:そうだね。続けていくとこうなるかもな…ということの確認かもなぁ。

    我々としては、これ以上お客さんを増やす気はないんだよね。

    ずっと我々を注視し、応援し、ついてきてくれた人たちを大切にしたい。これまでのお客さんを後回しにしない。「文脈をわかってますよね?」というところでやりたいからね。

    藤村:新規を増やそうと思ってないし、無理やり面白くしようとも思ってない。それはやっぱり、「どうでしょうをこれからも見たい」というお客さんの思いに応えることが一番だからさ。

    嬉野:長く続けるって、どういうことになるんだろう…ってことを、我々もお客さんも、同じように体験をする意味もあるね。

    「視聴率は気にしていない」 その理由は…

    藤村:うちの場合は、もはや誰が何を言おうと、たとえ視聴率がどんなに悪かろうと、番組が終わることはもはやありえない。

    逆に視聴率が1%とかになった時、我々がどう反応するのか。お客さんもどう思うのかと、非常に興味があるぐらい(笑)

    もちろん、昔からのお客さんがいるから1%になることはないでしょう。逆に視聴率がめちゃくちゃ上がるとか、20%を超えることもない。

    そうなると「視聴率って何なんだろう?」って思うよね。テレビの世界では「20%を超えた!」とか、いつも視聴率を気にしているけどさ。

    我々はそこを目指してないけど、テレビの中で商売がきちんとできちゃってるんだよね。

    ――「視聴率」という数字だけでは見えない部分も多い。

    藤村:数字だけでは見えなさすぎるよね。そういや12月25日に北海道で放送される新作第一夜の視聴率がどうなるかなんて、いまこの瞬間まで気にしていなかった(笑)

    ――オンデマンド配信されるのも大きいですよね。

    嬉野:しかも、俺たち二人でYouTubeライブで実況しながら放送を見ようかなとか思ってるもの。

    藤村: 放送中にコメントしなから実況するなんて、テレビの場合はなかなかそういう機会もないからねぇ。

    嬉野:見ながら言いたいこともあるからねえ。6年ぶりの「水曜どうでしょう」。どうぞ正座してみてください。

    藤村:我々の今のありのままの姿を見せるのでね? 乞うご期待!


    「水曜どうでしょう」最新作の放送は、12月25日(水)深夜0時35分から。初回のみ第1話・第2話が合わせて放送される。

    1月8日(水)以降は午後11時15分〜午後11時45分で放送予定。オンデマンド配信は、各回の放送開始後(初回は放送開始から約5分後)に「HTB北海道onデマンド」で有料配信される。