• historyjp badge

「手遅れになる前に目を覚ませ」EU大統領が広島で語ったこと

「世界の未来を左右する立場にいる者が、それが今日でなかったとしても、将来この広島を訪れることには意味があるのです。この重要なシンボルをよく解釈し解読するためにです」

G20大阪サミットのため来日している欧州連合(EU)のドナルド・トゥスク大統領が6月26日、被爆地の長崎市と広島市を訪問した。

広島で発表した声明では、作家の大江健三郎氏の言葉を引用。「もっと早く広島に来るべきだった、早ければ早いほど良かった」と述べ、原爆の悲劇をG20で世界のリーダーたちに伝える意思を示した。

また、自身の出身地ポーランドのグダニスクが戦時中に破壊された街であることに触れつつ、「私たちは皆『二度と繰り返さない』という信念によって結びついています」と呼びかけた。

この日、トゥスク氏は長崎、広島の原爆資料館などを相次いで視察。被爆者などと懇談した。

長崎、広島でのトゥスク氏の声明は以下の通り。

長崎での声明

おはようございます。この記憶すべき街、長崎に来ることができ、光栄に思います。また温かく歓迎していただきありがとうございます。

本日、長崎原爆資料館および国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館を訪問したこと、そしてそこで伺ったお話に、深く心を動かされました。

短い訪問ではありましたが、長崎の教訓がいかに悲劇的なものであったかを強く認識させられました。しかし、また多くの希望も感じることができました。

2日後には大阪で世界のリーダーが一堂に会しますが、長崎の教訓は、私たちは今、共通の未来に対して責任を負っているのだと教えるものでもあるはずです。

ここ長崎から全てのG20の参加者に対する、「手遅れになる前に目を覚ませ」という警鐘と率直な訴えが心に響いてきます。

国際社会は、強い者が容赦なく自らの都合を弱い者に押しつける場所であってはならない。また利己主義が連帯を上回る、また国家主義的な感情が常識を上回る場所であってはなりません。

自らの利益だけではなく、何よりも平和で安全かつ公正な国際秩序に対して責任を負っていることを理解しなければならないのです。

相手を脅すために核を利用するという脅威はいまだに存在しています。

北朝鮮の政治やイランの発言において。シリア、ウクライナ、リビアなどの地域紛争や、全ての大陸にある何十もの不安定な地域において。そして世界最大の超大国同士の貿易を巡る緊張関係において。

それは、気候変動や次の段階の技術革命がもたらす重大な結果に対する認識不足と相まって、世界が今いかに瀬戸際に近いところに立っているのかを示しています。

私たちはさまざまな事態や変化を完全に制御していると信じるふりを続けていますが、それは幻想です。こうしたリスクを自覚することが、大阪における議論の導きとならなければなりません。

長崎が教えてくれることを無駄にしない。そのことに責任を負っているのは、世界の超大国のリーダーたちなのです。

広島での声明

こんにちは。作家の大江健三郎がかつて言ったように、おそらく私は「もっと早く広島に来るべきだった、早ければ早いほど良かった」のです。

しかし、広島を訪れるのに遅すぎるということは決してない、と私は強く確信しています。なぜなら広島は時を超え、永遠に人類に与えられた印だからです。

しかしその印は、必ずしも聞かれておらず、必ずしも見られておらず、必ずしも理解されていません。

だからこそ、世界の未来を左右する立場にいる者が、それが今日でなかったとしても、将来この広島を訪れることには意味があるのです。この重要なシンボルをよく解釈し解読するためにです。

それゆえ、広島が発するメッセージをいつまでも記憶するために、被爆者の話しに耳を傾け、自分の目でこの場所を実際に見ることは価値があるのです。それが手遅れになってしまう前にです。

わたしはグダニスクの出身です。グダニスクは、戦時中に完全に焼け落ちた街ですが、市民の見事な努力で再建されました。

そして市の象徴である連帯は、希望を伝えています。

広島が経験した原爆の惨禍は、爆撃や火災によって破壊された、世界の他の都市の戦争体験をはるかに超えるものですが、私たちは皆「二度と繰り返さない」という信念によって結びついています。

広島は世界の終わりを予感させる場所です。つまり、もし私たちがこの悲劇を忘れたならば、いつかまた起こるかもしれないからです。

だからこそ、広島の証言が出来る限り長い間語り継がれ、出来るだけ多くの人に届けられることがとても重要なのです。

2日後に、大阪でG20サミットが開幕します。私たちの地球の運命を大きく左右する世界のリーダーたちが一堂に会します。そうした世界のリーダーたちに、今日私が聞いたことを、伝えたいと思います。

核不拡散、軍縮、平和、相互尊重のために行動を起こす決意と勇気を持って欲しいと。そして、広島と長崎を訪れるべきです。

なぜなら、言うまでもなく、決して遅すぎるということはないからです。

ありがとうございました。

(日本語訳は、駐日EU代表部による)


現在、トゥスク氏は自身のFacebookページのプロフィール画像を、広島訪問時の写真にしている。


トゥスク氏の出身地グダニスクとは

トゥスク氏もまた、広島・長崎のように戦争に翻弄された都市の一つ、グダニスクの出身だ。

グダニスクはポーランド北部の都市。バルト海に面し、歴史的にはドイツ語表記の「ダンツィヒ」で知られる。中世にはハンザ同盟の加盟都市として、商工業、貿易で栄えた。

近代・現代ではポーランドという国自体が、フランス、プロイセン(ドイツ)など大国の勢力争いに翻弄され、グダニスクもその影響を受けた。

第一次世界大戦でドイツが敗れ、ポーランドが独立すると、グダニスクは国際連盟管理下の自由都市として保護された。

しかし、第二次世界大戦期にはナチス・ドイツが占領。住民は迫害され、街も破壊された。

戦後、グダニスクは貿易港として復興。1980年代には自主管理労組「連帯」の本拠地として、民主化運動の震源地となった。ポーランド随一の学問・文化の中心地として栄え、観光客も多く訪れる。

長崎・広島で声明を発表するトゥスク大統領(動画)

Donald Tusk / Via Facebook: europeancouncilpresident