犯罪学者が警告する「SNS」のリスクと対処法。井上尚弥選手の「空き巣被害」は他人事ではない?【2022年上半期回顧】

    最近ではSNSの投稿をきっかけに空き巣に入られるケースがあります。犯罪学の専門家に話を聞きました。【2022年上半期回顧】

    2022年上半期にBuzzFeed Newsで反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:6月10日)


    6月7日に世界3団体統一戦を制したボクシングの井上尚弥選手(29)が、試合に臨むため自宅を留守にしている間に空き巣の被害に遭っていたことが報じられた。

    SNSなどを調べて住人の不在に関する情報をつかみ、自宅を特定して侵入する手口の空き巣が近年、確認されている。

    留守を知られることで被害に遭うリスクが高まる中、どのような対策が必要なのか。また、SNSの利用方法はどのようなことに気をつけるべきなのか。

    BuzzFeed Newsは立正大の小宮信夫教授(犯罪学)を取材し、解説してもらった。

    胸糞悪い話


    朝日新聞
    によると、7日午後4時半頃、神奈川県にある井上選手の自宅で警報器が発報し、警備会社が110番した。

    警察官が駆けつけると、玄関のドアがこじ開けられていた。高級バッグや貴金属10数点が盗まれていたという。

    井上選手は同日夜、さいたま市で行われたWBCバンタム級王者との試合で勝利を収め、日本人で初めて3団体王座統一を果たした。

    井上選手は8日夕、Twitterを更新。このように心情をつぶやいた。

    ニュース見たけどさ

    めでたい日に「胸糞悪い話し」だよね、、

    みんなも気をつけて!!

    ニュース見たけどさ めでたい日に胸糞悪い話しだよね、、 みんなも気をつけて!!

    Twitter: @naoyainoue_410

    SNSを悪用

    このような被害は、公表される試合日程などからスケジュールを比較的読まれやすいスポーツ選手や芸能人などに限った話ではない。

    SNSの利用が広がった近年は、リアルタイムで投稿した情報から留守と知られ、侵入盗の被害に遭うケースが確認されている。

    朝日新聞の記事(2018年11月13日付)によると、2017年春以降に約160件の窃盗や同未遂を繰り返したとして、愛知県警が10〜20歳代の少年ら35人を摘発。

    インスタグラムを物色し、高級ブランド品を身につけたり、高級車を運転したりする様子を投稿していた男性の自宅を狙うなどしていた。

    また、東京新聞の記事(2019年7月29日)によると、美容外科の男性院長は19年5月4日未明、愛知県の別宅のドアをこじ開けられ、金塊などを盗まれた。

    院長は同3日にTwitterで台湾訪問の予定を報告し、出国を控えて都内に滞在していた。「Twitterを見て不在を狙われた可能性がある」(捜査関係者)という。

    犯罪が起きやすい場所とは

    では、被害を防ぐためにはどうすればいいのか。立正大の小宮信夫教授に聞いた。

    ケンブリッジ大学大学院で犯罪学を学び、警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会座長」などを歴任してきた。

    ーーそもそも空き巣はどのような家を狙うのでしょうか。

    空き巣に限らず、犯罪が起きやすい場所は2つの条件があります。

    1つ目は「入りやすい場所」。2つ目は「見えにくい場所」です。犯罪者はこの2つを常に考えています。

    また、犯行現場は、地域(マクロ)、地区(メゾ)、地点(ミクロ)の順番で決まります。

    地域でいえば、高速道路のインターチェンジのそばや県境が狙われやすい。犯行後にすぐ逃走できます。県境は警察の管轄の問題で、初動がワンテンポ遅れる可能性があります。

    次に地区です。例えば「碁盤の目」のような街並みは、土地勘がなくてもなんとなくどのあたりにいるのか分かるので、その地区の住人のように振る舞えるし、逃げる方向も決めやすい。

    そして、新興住宅街も「入りやすい場所」の一つです。駅周辺から遠のくと、周囲にあまり店舗がないことが狙われやすい要因となっています。

    最後に地点です。これは家ということですが、空き巣はドアや窓から入るケースがほとんどです。

    ドアといっても、表玄関だと道路や向かいの家から見えやすいので、人目のつかない勝手口を選ぶ場合もある。勝手口に行くには門を通らないといけない家などは、逆に「入りにくい」と判断されます。

    要するに、入りやすく、見えにくい家は、空き巣や犯罪の対象となる可能性が高くなります。

    ーー報道では、井上選手の自宅は玄関のドアがバールでこじ開けられていました。しかも、犯行時間は午後4時半とみられています。

    井上選手の自宅の周辺環境がどのようなものだったかはわかりませんが、例えば自宅の向かいに家があり、その家に窓があるかどうかもポイントになります。

    自宅の玄関前に立つと、向かいに家が3軒あり、窓がはっきり見えるような家は「入りにくい」といえます。

    あと、今回は試合時間を狙っての犯行とみられますが、空き巣は白昼堂々と侵入することも多いです。

    もちろん、通勤通学や帰宅者が多い時間帯は別ですが、午後4時半だとそこまで人の流れがなかったのかもしれません。

    例えば、高齢者が多い地区だと、病院に行くなど午前中は人通りがありますが、午後は落ち着きをみせます。プロの窃盗犯はそこまで考えています。

    意味のない防犯カメラの取り付け方

    ーーバールで玄関をこじ開けることは可能なのでしょうか。

    もちろん「一丁目一番地」の対策は鍵を閉めることです。しかし、手慣れた窃盗犯だと、バールで玄関を壊して侵入するケースもあります。もちろん、窓もあります。

    入りやすく、見えにくい場所に住まないというのが基本的な対策ですが、「引っ越せない」「すでに家を建てている」など事情がある場合には、最終手段としてハード面の対策を強化するしかありません。

    ツーロック式の玄関ドアにすることもそうですが、鎌がフックの役目となる「鎌錠」を取り付けることが、バールでこじ開けられにくい対策となります。

    ーー防犯カメラはいかがでしょうか。

    防犯カメラも有効です。しかし、防犯カメラは犯罪者の行動をシミュレーションした上で取り付けなければ意味がありません。

    意外と工事しやすい場所に取り付けられているカメラが多いです。道路から見て、「ここのカメラなら映らないな」と思われたら被害に遭います。

    しっかり不審者の顔を撮影できる場所に取り付けるべきで、「このカメラから逃れるには時間がかかる」と思わせなければなりません。

    そして、最近は皆マスクをしています。あまりカメラに映ることを怖がっていないかもしれないので、なおさら適切な場所に設置する必要があります。

    ーー生放送に出る芸能人や試合中継があるスポーツ選手はスケジュールが確認されやすいのでしょうか。

    もちろんそうです。ただ、一般の人も他人事ではありません。

    SNSで発信する時代になりました。「今、旅行に来ている」などと投稿したことで、留守宅を狙われることになります。

    そして、家の特定ですが、SNSの投稿履歴を1年、2年と見ていけば、だいたいどこに住んでいるのかがわかります。

    これは、「モザイクアプローチ」と呼ばれています。SNSに投稿された文章や画像から少しずつ情報を集めて組み合わせ、特定することを意味します。

    さらに、Googleのストリートビューを使えば、現場を下見しなくても「入りやすい場所」で「見えにくい場所」かどうか確認することができます。

    空き巣が考えていることとは

    ーー不用意なSNSの投稿で見ず知らずの人に自宅を狙われる可能性があるのですね。どのような対策が必要でしょうか。

    留守にする予定や、自宅を特定されるような投稿はしないことが重要です。

    少しずつ過去の投稿情報と組み合わせれば、自宅を特定される可能性があることを常に考えてSNSを利用しなければなりません。

    旅行や外出予定を投稿する以外にも、「馴染みの飲食店でご飯を食べている」も危ないです。

    留守を知らせることになりますし、画像から店を特定され、「この辺りに住んでいるんだな」と読まれてしまいます。

    どうしても投稿したい場合は、リアルタイムではなく、過去形でつぶやくことも対策の一つになります。

    ーー結局、最終手段はハード面の対策しかないのでしょうか。

    もちろん取り組める対策は全てする必要はあります。家を建てるのであれば、入りやすく、見えにくい場所は避けなければなりません。

    ですが、空き巣のプロは様々な方法で侵入します。安心はできません。

    ただ、彼らが必ず考えていることがあります。それは「時間」です。少しでも手間を取らせる対策をすることが被害を小さくします。

    空き巣からしたら、いくらリターンが大きくても、コストとリスクが高ければ犯罪に及びません。

    あと、万が一侵入された場合も考える必要があります。

    例えば、盗まれてもいいものを目につく場所に置いておくことも、被害を最小限に抑える一つの対策です。

    もし何も盗めないと、空き巣犯の中には頭に来て室内を壊して逃げ去る場合もあります。

    飲食店の中には、そのようなことを防ぐために、レジに少しだけ現金を残しているところもあります。

    そのほうが被害額が小さくなるからです。リスクヘッジという観点も忘れないでください。