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「昔はササっといなくなった客が今は…」福島が誇るフルーツと“常磐もの”に広がり。農家らが安全性伝える

福島県産品の現状や安全性について考えるパネルディスカッションが開かれました。最近は「常磐もの」の魚が話題。海外にも販売しているそうです。

東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から11年。

福島県産品への偏見は薄れ、福島の人々が誇ってきた海の幸、山の幸を求める声が再び広がり始めている。

福島産品の魅力や安全性への取り組みを、もっと広く社会に伝えるにはどうすればいいか。

福島で自慢の果物を育てる農家と、豊かな漁場が育んだ「常磐もの」を売る鮮魚店の経営者らが11月28日、東京都内で集まって、これからについて熱く語った。

福島からは果樹農家と鮮魚店経営者が参加

消費者庁などが28日、「食品中の放射性物質のこれからを考える」をテーマに都内でパネルディスカッションを開いた。

放射線物質に詳しい有識者や、食産業を支援するプロデューサーのほか、福島県からはモモやリンゴなどを生産する「ABE Fruit」(福島市)の阿部秀徳さんと、鮮魚店を運営する「はまから」(いわき市)の阿部峻久さんが参加した。

農家の阿部さんは原発事故1年前の2010年に父の後を継いだ。鮮魚店の阿部さんは「常磐もの」を使った加工品販売や漁師の担い手育成にも取り組んでいる。

飲食店関係者も直接買い付けに来る「常磐もの」

パネルディスカッションの序盤、農家の阿部さんは自らが育てる果樹の安心安全の取り組みについて語った。

原発事故後は厳しい寒さの中、果樹の表面を高圧洗浄機で洗い、土の表面をはがして放射性物質を除去したが、今でも定期的に樹木を洗ったり、土を除去したりする取り組みを続けている。

また、食品の安全性や環境保全などの審査を経て認証される「アジアGAP」を取得し、果物の安心安全をPRしている。

「はまから」の阿部さんも毎朝、仲買人として訪れる「久之浜漁港」(いわき市)で放射性物質の検査を間近で見ており、「自信を持って安全と言える」と話した。

ヒラメやアナゴ、アンコウなど鮮度の良い『常磐もの』が水揚げされており、最近は仲買人だけでなく、飲食店関係者も市場に直接買いに来るほど活気付いているという。

昔は「福島産」と伝えたら去っていた客が……

消費者庁が約5000人に調査した「放射性物質に関する消費者意識調査結果」(今年2月)をみても、放射性物質を理由に福島産品の購入をためらう人の割合は減ってきている。

2022年2月は6.5%と、13年(19.4%)以降で最小値になり、21年2月(8.1%)と比べても1.6ポイント減少した。

農家の阿部さんは、「昔は販売会で『福島県産』と伝えたら、ササッと去ってしまう人も多かったが、ここ数年はそんなことはない」と振り返り、「私たちがやるべきことは、とにかくおいしい物をつくり続けること」と話した。

食品検査が行われていることを知らない人が増加

一方、消費者庁の調査では「食品の放射性物質の検査が行われていることを知らない」と回答した人の割合も増加している。

2013年は22.4%だったが、22年2月は59.4%と約2.7倍になった。

消費生活アドバイザーの瀬古博子さんは、「産地を気にせず気軽に買い物をしているという見方もできるが、きちんとした検査が行われている上で食品が流通していることを理解することは今後も重要」と指摘。

岩手発の缶詰「サヴァ缶」を開発した「東の食の会」の木村拓哉さんも、「安全は科学で、安心は人。安全や検査に関する情報を改めて周知するとともに、生産者の顔が見えるような情報発信も行っていく必要がある」と語った。

アジアの国に常磐ものを輸出

来春には福島第一原発で出た「処理水」の海洋放出も行われる方針が示されている。

水素の仲間であるトリチウムを含んだ水の放出は、以前から世界各国でも、福島以外の国内の原発でも行われてきた。科学的な安全性は国際原子力機関(IAEA)なども確認している。

一方で、消費者の「よく分からないけど、なんとなく危ないんじゃないだろうか」といった意識をどう払拭するかが大きな課題となっている。

地元の漁業関係者らが放出に反対する姿勢を崩さない理由の一つは、科学的な安全性よりもむしろ、国や東京電力に「風評被害」を防ぐ対策を強く求めていることにある。

はまからの阿部さんは「消費者に『安心です』と言えるように我々も勉強しなければならない。一方、最近はアジアの国にも常磐ものを輸出している。日本のブランドとして浸透させたい」と意気込んだ。

農家の阿部さんは「神奈川県の中学校による農業体験をうちでも受け入れた。40人ほどが来たが、今後もこのような取り組みで安全性を広めていきたい」と話した。

日本の食品検査は厳しい基準

農林水産省によると、食品中の放射性物質の基準値は、国際規格の指標(年間線量1ミリシーベルト)や厚労省の審議などを踏まえて設定されている。

基準値を超えた場合は食品が市場に流通しないようになっており、日本の放射性セシウムの基準値は、飲料水が1キロ当たり10ベクレル、牛乳と乳児用食品はそれぞれ同50ベクレル、一般食品は同100ベクレルとなっている。

一方、EUは飲料水と乳製品が同1000ベクレル、乳児用食品は同400ベクレル、一般食品は同1250ベクレル。アメリカは全食品が同1200ベクレルとなっており、日本の基準は厳しいことがわかる。

また、近年は1キロ当たり100ベクレル超が検出されたケースはほぼない。

「果実類・種実類」は2017年を除いた13〜21年まで全てゼロで、17年も十分に栽培管理がされなかったことで出荷される予定のなかったクリだった。

水産物(海産)を見ても、昨年のたった1点を除いて2015〜20年はゼロだった。