北海道・知床半島沖で4月23日、乗員乗客26人を乗せた観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故を巡り、「ロシア潜水艦が撃沈した」とするツイートが拡散した。
カズワンは海底深くに沈んでおり、海上保安庁が公開した船内の写真から「撃沈」されたような大きな損傷は確認できない。
まだ事故原因の本格的な調査も行われておらず、ツイートの内容は「根拠不明」だ。
BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。
まず事故の経緯を振り返る

総務省消防庁やカズワンの運行会社「知床遊覧船」の桂田精一社長によると、カズワンは4月23日午前10時にウトロ漁港を出発。
午後1時に戻る予定だったが、同13分に他社の無線に「カシュニの滝だけど戻るのが遅れる」と船長から連絡があった。
その5分後に「船首が浸水している」と再び無線が入り、救助要請を受けた海保が午後4時半頃に現場付近に到着した。
しかし、カズワンや乗員乗客を発見できず、翌24日午前5時すぎに初めて2人を救助。その日は海上や岩場で計11人を発見し、28日にも3人を救助したが、14人全員の死亡が確認されている。
カズワンもカシュニの滝付近の海底深くに沈んでいるのが見つかったが、技術的な問題から引き揚げに時間がかかっており、海保などは残る12人の行方を捜索している。
5万8000人

このような状況下の中、5月13日に「☆知床観光船の真実」と題したツイートが投稿された。
2022年4月23日に発生した、知床観光船沈没事件は、ロシア潜水艦による撃沈でした。
ツイートは16日午後3時現在、およそ2900いいねされている。
発信元の公開情報を見ると、アカウントの運営者は50歳代の男性で、5万8000人のフォロワーがいる。
プロフィールには「コロナの裏で起こっていることや、歴史の真実をつぶやきます」とあり、リンク先のブログに「予備校講師や家庭教師をやりながら歴史や国際関係などを研究する日々を送っている」と記載されていた。
「目撃者に生きてもらっていては困る」と説明
このツイートのスレッドには動画配信サイトの個人ページが添付されており、「詳しくはこちらの動画でどうぞ」と書いてあった。
ページをのぞくと、男性が司会の女性に見解を述べるような形で撮影された動画がアップされており、全て視聴するには1100円の有料会員になる必要があった。
動画で「先生」と呼ばれている男性は、「内容がやばすぎる」とした上でこのようなことを話し始めた。
「結論から言っちゃいましょう。観光船はロシアの潜水艦によって撃沈されています」
そして、そのような見解に至った理由を説明した。
「ロシアは知床半島に上陸するルートを探すため、潜水艦を出して海岸を調べていたら、(遊覧船に)出くわした。見られたらだめですよね。『撃沈するしかないだろう』ということで撃沈した」
「撃沈を発表するとロシアと戦争するしかない。でも岸田首相がびびってできなかったから、すぐ救助に行かなかった。それは目撃者に生きていてもらったら困るから。証言されたらロシアと戦争するしかないので」
しかし、無料でみられる約30分間の動画では根拠となる証拠や資料の提示はされなかった。
遺族が見たら……

この男性の見解に対し、Twitter上では「遺族が見たらどう思うか」「不謹慎な話」「その証拠はどこに」といった否定的なコメントが出ている。
また「ミサイルや魚雷で撃沈されたのであれば、船の原型はなくなっているのでは」と疑問を投げかける人もいた。
この点は、北海道警の水中カメラでカズワンを撮影した画像データから検証できる。
地元の北海道放送(HBC)によると、画像データは道警ととも行方不明者の捜索や捜査にあたっている海上保安庁が報道陣に公開したものだ。
水難学会の斎藤秀俊会長に、一連の画像から読み取れることをインタビューしている。
それによると、水中カメラには客室や座席、救命胴衣が映っていたが、「目立った損傷は確認されなかった」という。
また、斎藤会長は前方や横の大窓が大きく損傷していないことに触れ、「沈没原因につながる損傷は、船内のカメラからは見受けられない」と答えていた。
早ければ19日から
カズワンは海底深くに沈んでいるため、引き揚げには時間がかかっている。
事故原因は水中カメラの調査だけでは解明できないため、引き揚げ後に本格的な調査が行われる。
朝日新聞によると、特殊な技術を持った民間企業が早ければ19日から、船内に行方不明者がいないかや、引き揚げに必要な調査を行うという。
海上保安庁の広報担当者はBuzzFeed Newsの取材に、「事故原因は捜査中」とした。
BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
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- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。