SPが動き出す前に襲われた安倍元首相 なぜ守れなかったのか。動画・目撃情報の独自分析でわかったことは?

    安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件。事件後、SNSで当時の映像が複数拡散されました。被害は防げなかったのか。映像から男とSPの動きを分析しました。

    奈良市の近鉄大和西大寺駅前で7月8日、参院選の応援演説をしていた安倍晋三元首相が男に銃撃され、死亡した事件。

    男は安倍元首相の背後から近づき、至近距離で2発の銃弾を浴びせた。周囲で警戒に当たっていたSP(セキュリティーポリス)は最悪の事態を防ぐことはできなかった。

    BuzzFeed Newsは、SNSやメディアで公開された事件当時の映像や写真、および現場取材や目撃者の証言から、男やSPの動きを分析した。

    なぜ男は近づけたのか。2発目の発砲を防ぐことは難しかったのか。

    経緯を振り返る

    奈良県警や県立医大病院の会見などによると、安倍元首相は8日午前11時32分頃、参院選候補者の応援演説をしていた際、背後から近づいてきた男に至近距離で撃たれた。

    男は、奈良市の無職山上徹也容疑者(41)。安倍元首相を警護していたSPらがその場で取り押さえ、午前11時32分に殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。

    安倍元首相はドクターヘリで搬送され、午後0時20分頃に県立医病院に到着。既に心肺停止状態だった。

    外来処置室では、20人体制で止血や輸血を行う緊急手術が行われたが、午後5時3分に死亡が確認された。失血死だった。

    「特定の団体に恨み」

    会見での説明によると、安倍元首相の首には、5センチ間隔で2か所に銃創があり、左肩には銃弾が貫通したとみられる傷があった。

    また、心臓と胸部大血管が傷ついており、輸血は100単位以上に達したという。

    山上容疑者は県警の調べに、「特定の団体に恨みがあり、安倍元首相がこれとつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」と供述。

    銃(長さ約40センチ、高さ約20センチ)は手製とみられ、山上容疑者宅からは同様の銃ようのものが数丁押収された。

    奈良県警では警備部参事官をトップとする態勢で警備を行い、県警本部や奈良西署の警察官に加え、警視庁から派遣された警護員(SP)も現場にいたという。

    一方で県警は、具体的な警備体制については「担当参事官、奈良西署、警視庁警護員については申し上げたとおりだが、その他の詳細は現時点では控えたい」(鬼塚友章本部長)としている。

    SPらはどう動いたか

    では、山上容疑者とSPは事件当時、どう動いていたのだろうか。BuzzFeed Newsは、演説が始まってから、SPが山上容疑者の身柄を確保するまでの2分半ほどの状況を、各方面から収めた動画などから分析した。

    現場は大和西大寺駅の北口前。安倍元首相が演説していた場所の後方には広いバスロータリーがある。また、安倍元首相とバスロータリーの間には、東西に片側1車線の道路がある。

    山上容疑者は事件直前、安倍元首相の演説が始まった段階で、片側1車線の車道を挟み、元首相の右後方部に立っていた。記者(相本)が現場で確認したところ、演説場所との距離は10メートル程度だった。

    現場には10人以上の警護要員がいた

    一方で、映像から確認できた、SPら警護要員と見られる人物は、少なくとも11人。

    演説している安倍元首相の付近には、元首相の右側の数メートル離れたところに2人(A、B)が、すぐ左後ろに2人(C、D)が立っていることが確認できた。

    演説開始直後に山上容疑者がいたエリア付近には1人のSP(E)がおり、さらに2つの聴衆のエリアやその近辺にも少なくとも5人がいたとみられる

    演説開始直後の配置

    安倍首相の背後に空白か

    演説の間、もっとも近いところにいたCとDは、基本的に安倍首相と同じ方向を見ていた。背後の動きには気が付きづらい状況だ。

    AとBが時折後方を確認してはいるが、やはり安倍首相の背後のエリアには距離もある。

    演説開始から1分ほどすると、山上容疑者は安倍元首相の背後のエリアに向かって移動を始めた。この際、SP(B)がその方向を見ている様子もあるが、特段の動きはない。

    その後、2分15秒ほどのタイミングで山上容疑者は車道を横切って安倍元首相に接近。この直前もSP(B)は元首相の後方付近に目線をあげているが、動き出しはしていない。

    安倍氏に近いSPは容疑者の動きに気づかず?

    一方、一番安倍元首相に近く、左後ろにいた2人(C、D)はやはり群衆の方向を見ており、背後の山上容疑者に気がついていないようだ。また安倍氏の演説中、背後の道路を自動車や自転車に乗った人々が行き来していた。

    その後、容疑者は安倍氏の背後数メートルの距離から1発目を発砲。周辺の人たちは一瞬銃声に驚いて身をかがめる。安倍元首相は一瞬遅れたタイミングで、ゆっくりと振り返るような動きを見せる。

    SPたちは1発目の発砲直後に動き出した。元首相から見て右側のエリアにいた2人(A、B)は山上容疑者に向かって走り始めた。左後ろの2人(C、D)は安倍首相の背後を守ろうと右に走り寄った。ここまで2秒ほど。

    歩み寄る山上容疑者はさらに距離を縮め、2発目を発砲した。

    背後に回ろうとしていた2人(C、D)が盾になるように身を投げ、1人(C)が防弾板入りのカバンを掲げていることも確認できた。

    しかし間に合わず、銃弾は安倍元首相を直撃。胸付近を押さえ、そのまま前方に倒れ込んでいる。この間、1秒だった。

    1〜2発目発砲時の配置

    女性とぶつかる警護要員も

    1発目の発砲直後から走り始めていたSP(B)は、2分21秒までの間に山上容疑者を確保。すぐにもうひとり(A)も追いついた。

    また、少し遅れて安倍元首相の位置から左側にあるデパート「サンワシティ西大寺」側にいた別のSP(F)も追いついている。その後、少し遅れて別のSPたちも駆け寄っていった。

    一方、安倍元首相の右後方部、山上容疑者が当初いたエリア付近に立っていたとみられるSP1人(E)は1発目の発砲直後に山上容疑者の確保に向かっていたが、通行人の女性と衝突。

    女性は頭からひっくり返った。SP(E)はすぐにそちらの方向に戻って、女性の救助を優先していたとみられる。また、安倍元首相にもっとも近かった2人のCとDはその救助を優先していたとみられる。

    容疑者確保時の配置

    容疑者が接近を始めた時、SP陣は動かず

    このように見てみると、山上容疑者が道路を横切って安倍元首相に接近を始めた時点では、誰も取り押さえに行くことはできていなかったことがわかる。

    1発目の銃声の後、SPらは山上容疑者のもとに走って向かったり、安倍元首相の前に防弾板入りとみられる鞄を差し出したりしたが、間に合わなかった。

    山上容疑者は安倍元首相が奈良に入ることを「ホームページで知った」と供述しており、県警側も7日夕から警備体制を組み始めたことを会見で明かした。

    また山上容疑者は前日、安倍氏が演説した岡山県にも行っていたと供述したとNHKなどが伝えており、以前から付け狙っていた可能性が浮上している。

    事件から一夜明け、現場には大勢の市民らが花を持って訪れた。

    献花台に花を手向けるだけでなく、安倍氏が銃撃された現場に手を合わせたり、目を閉じて黙とうしたりする人の姿もあった。

    献花台の順番待ちの列は数十メートルに上り、日本を震撼させた事件がもたらした影響を物語っていた。

    県警本部長「問題があったことは否定できない」

    奈良県警の鬼塚友章本部長は9日夕、記者会見を開いた。

    鬼塚本部長は「警護実施中の安倍元総理が発砲されて死亡される結果になったことを、極めて重大かつ深刻に受け止めている。痛恨の極みであります。警護に問題があったことは否定できないと考えており、早急に必要な対策を講じて参りたい」と語った。

    奈良県警に安倍氏来訪の情報が入ったのは7日夕だったと明かしたうえで、「警護警備というものは、どのような日程にも対応できるように、体制を構築すべきものと考えている。警護担当職員がしっかりと状況を確認し、警護計画書を作成し、その計画書を私自身も目を通し、当日(8日)午前中に承認している」と語った。

    具体的な問題点には触れず「痛恨の極み」

    鬼塚本部長は一方で、警護の具体的な問題点について触れるのは避けた。

    「現時点で警護のどこに問題があったのかという点については、個々の点を確認しておりますので、体制なのか、配置なのか、緊急時の対応なのか、警護員の個々の能力なのか、どうだったのかについては、予断を持ってみている訳ではありません。全体において、問題があったものと考えております」

    山上容疑者が安倍氏の背後から迫り、SPらが対応に遅れたように見える点についても、具体的な評価を避けた。

    「あらゆる観点のリスクに備える必要がありますので、現場の状況で対応していかなければならない点が様々ある。その点で対象者にいかなるリスクも生じさせないよう万全を尽くすのが、警護警備だと考えております」

    「一報が入り事態が明らかになるに従い、その状況の深刻さに私自身も平成7年に警察官を拝命し27年余の警察官人生での、最大の悔恨、痛恨の極みであります。今回の事態が生じてしまったことに対する、責任の重さを痛感しております」

    そう語ると、鬼塚本部長は文字通り、唇を噛んだ。


    UPDATE

    新たな情報をもとに、配置図をアップデートしました。