和歌山市で4月15日、岸田首相が演説を始める直前に爆発物が投げ込まれた事件。
逮捕された容疑者の男について、「事件前に爆発物の画像をTwitterにアップして犯行を予告していた」という主旨のツイートが拡散している。
しかし、この「爆発物の画像」は少なくとも10年前からネット上に存在しており、今回の事件とは無関係だ。ツイートの内容は「誤り」となる。
BuzzFeed Newsはファクトチェックした。
経緯を振り返る

NHKなどによると、4月15日午前11時半頃、和歌山市の雑賀崎漁港で、岸田首相が衆院和歌山1区選補欠選挙の応援演説を始める直前に、銀色の筒状の爆発物が投げ込まれた。
爆発物を投げ込んだ男は兵庫県川西市の木村隆二容疑者(24)で、現場にいた漁師らに取り押さえられ、威力業務妨害の疑いで現行犯逮捕された。
岸田首相や聴衆にケガはなく、男性警官1人が爆発によって軽傷を負ったとみられる。
岸田首相は4月16日の会見で、容疑者確保に協力した地元の漁業関係者に直接電話でお礼を伝えたことを明かし、「各党の選挙運動が妨げられることがないよう、警備・安全について万全を期してもらいたい」と話した。
ジャーナリストの男性が拡散

この事件をめぐり、ジャーナリストの男性が4月15日午後9時12分、「犯人、予告ツィートしてたのか…」と、3枚の画像を添付してツイートした。
画像の一つは、「Dies irae」というアカウントが事件前日の夜にツイートしたとされるもので、「明日は待ちに待った日だ」という文章とともに、爆発物のような筒状の物体の画像が貼り付けられていた。
残りの二つは、「Dies irae」が「お前ら、俺が本気じゃないと思っているのかな」とツイートしたとされる画像と、事件直後を撮影したテレビ映像を切り取ったものだった。
ジャーナリストのツイートは、4月16日午後2時現在で50万件表示され、1130リツイート、3000いいねと拡散している。
ジャーナリストのツイートには、「予告もあったのか」や「まじか」といった引用リツイートも確認された。
画像はアニメの“武器”

しかし、「Dies irae」がツイートしたとする物体の画像をGoogleの画像検索にかけると、10年前の2013年4月に個人のブログでアップされたものと、全く同一の画像だということが分かる。
ブログの内容は、トイレットペーパーの芯に色を塗ったりして、アニメに登場する武器を作ってみた、というもの。和歌山の事件とは無関係だ。
つまり、拡散された画像のうち、和歌山で使われた爆発物を示唆したものは、10年前にブログでアップされた画像を盗用したものであり、今回の事件で使用された凶器ではない。
なお、「Dies irae」のユーザーIDをTwitterで検索すると、ユーザー名やアイコンが違うアカウントが表示される。
コロナワクチンに批判的なアカウントがツイート

では、「Dies irae」というアカウントの一連のツイート画像の出所はどこだろうか。
BuzzFeed Newsが調べたところ、ジャーナリストがツイートする約9時間前に同様のツイートをしていたアカウントが出したものが、最古だった。
このアカウントは「Dies irae」の画像を添付し、次のようなツイートを15日午後0時49と同55分にしている。
従兄から「首相襲撃犯のアカウントに心当たりがある」 とスクショが送られてきました。 今はもうアカ消しされているようです。 これって……
すみません、従兄から「襲撃犯のアカウントに心当たりがある」とこのスクショが送られてきたのですが、どう思われますか? 既にアカウント削除されているようですが。 何かと繋がるような気がします
このアカウントは匿名で、プロフィール欄には、「コロナ脳の夫とは別居中。マスクもワクチンも要らない」と記載されている。
これまでの報道を見ても、木村隆二容疑者が犯行予告をツイートしていた、という情報は確認できない。
そして前述の通り、「爆発物のような筒状の物体」は、10年前に個人のブログでアップされた自作の「アニメの武器」だ。
情報の拡散には十分注意が必要だ。
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- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。