東京電力福島第一原発で出た「処理水」でヒラメを飼育する実験を、東京電力が始めた。
政府は2023年春をめどに処理水の海洋放出を始める。一方で福島の漁業関係者を中心に風評被害への懸念が強く、自治体や漁業関係者から「実際に魚を飼って安全性を実証してほしい」という声があがったため、それに応える形で始めたという。
今後、通常の海水と処理水でそれぞれ育ったヒラメを比較し、安全性を再確認するほか、アワビや海藻でも同様の試験を行う予定だ。
処理水とは

経済産業省によると、福島第一原発では、原子炉建屋に雨水や地下水が流入したりして、高濃度の放射性物質を含む「汚染水」が日々、発生している。
この汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」などに通し、放射性物質を取り除く浄化処理をかけたものを「処理水」と呼び、これまで原発敷地内のタンクに貯蔵してきた。
処理水には、装置で取り切れない水素の仲間の物質「トリチウム(三重水素)」が残っている。
この物質は自然界や水道水、人間を含む生物の体内にも存在している。また、「ベータ線」という種類の弱い放射線を出すが、エネルギーが小さく紙1枚で遮ることができる。人間や生物の体内には蓄積されず、体外に排出される。
こうしたことから、日本を含む世界各国の原発で希釈されたうえ海や河川などに放出されており、放出自体は国際的に珍しいことではない。

この処理水はこれまで、原発の敷地内に巨大なタンクを次々と並べて全量を貯蔵してきた。
しかし、敷地の問題などで貯蔵は限界に達しつつある、と政府と東電は主張。政府は昨年4月、2023年春にも処理水を海洋放出する方針を決めた。
東電は処理水を海洋放出する際、トリチウムの濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満に希釈して放出するとしている。
これは、国の安全規制の基準である6万ベクレル、世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインである1万ベクレルを大幅に下回る水準だ。
「処理水で魚を育てて安全性を示してほしい」

国際原子力機関(IAEA)と日本政府のいずれも、処理水の放出は「科学的に安全」としている。
しかし、復興を目指してきた福島の漁業関係者をはじめ地元では、「福島産品は危険だと、また誤解されてしまうのでは」という風評被害を恐れる声がある。
こうした状況の中、地元の自治体や漁業関係者から「専門的な言葉で安全性を伝えられてもわからない」「処理水で魚を育てて安全性を示してほしい」という意見が集まっていた。
こうした声をうけ、トリチウムが生き物の体外に排出されて体内に蓄積されることはないことなどを示すため、飼育試験を行うことに決めたという。
飼育試験の内容

飼育試験は次のような内容で行う。
・福島第一原発周辺の海水で「慣らし飼育」していたヒラメ約800匹を5グループに分ける。
・2つのグループは海水のままで飼育し、別の2グループには処理水(1リットルあたり1500ベクレル)を加える。
・残る1グループは、海洋放出する際のトリチウム濃度と推定される約30ベクレルにする。このグループの実験は11月以降に始める。
また、アワビ800匹と、海藻数キロでも同様の試験を行うという。
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2022年10月3日9時 天気 晴 水温 19.0℃ 10時頃、ALPS処理水を添加して飼育を行う水槽5系統(1系統は容量4,000L)のうち2系統に15万ベクレル(Bq)/Lの処理水を約40Lずつ加えトリチウム濃度約1,500Bq/Lの海水にして飼育を開始しました。ヒラメさんたちは添加の前後で差は見られず元気に泳いでいます。(山)
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