なぜ若者は投票に行かないのかーー。選挙のたびに繰り返される言葉です。
総務省の資料によると、昨年10月の衆院選では全年代を通じた投票率は55.93%でしたが、20歳代は36.5%と19.43ポイントも下回りました。
では、この傾向は日本特有なのでしょうか。
BuzzFeed Newsは、日本とスウェーデンなど北欧の社会システムや国民性を研究する明治大国際日本学部長の鈴木賢志教授(政治社会学)を取材。
鈴木教授は「海外は政治への関心度が高い」とした上で、「日本の若者は政治家になめられている」と指摘しました。
まずデータを振り返る

内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2018年度)では、日本、韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデンの計7か国の若者(13〜29歳)に政治への関心度などを聞いています。
それによると、「自国の政治に関心がありますか?」という質問に「ある」と回答したのは、日本は43.5%。
一方、他の6か国は日本より高く、ドイツは70.6%、アメリカは64.9%、イギリスは58.9%、フランスは57.5%、スウェーデンは57.1%、韓国は53.9%でした。
また、政策決定過程への問いで、「私の参加により、変えてほしい社会現象が少し変えられるかもしれない」の解答率も、日本は最低の32.5%で、前回調査(13年度)と比べても2.3ポイント減りました。
「将来の国や地域の担い手として積極的に政策決定に参加したい」に関しても日本は33.2%と最も低く、次に低かったスウェーデン(47%)とも差が開きました。
鈴木教授は、ストックホルム商科大欧州日本研究所に所属した経験があります。日本で若者の投票率が低いのはなぜか。スウェーデンと比較しつつ解説してもらいました。
「ネトウヨなの?」と言われる

ーー鈴木教授のホームページにスウェーデンの国政選挙の投票率が87.2%(2021年3月時点)とあり、驚きました。一方、日本は特に若年層の投票率が低い状態が続いています。この理由はどこにあるのでしょうか?
「エフィカシー」だと考えています。
無理やり訳せば、「政治的高揚感」ですが、要するに「自分が何か行動すれば、政治は変わると思えるか、思えないか」という話なんですね。
日本の場合、特に若年層は「自分が何かやったところで政治なんて変わらない」という意識が強いです。
スウェーデンも全員が「変わる」と思っているわけではないですが、「自分たちが動けば変わるんだ」という意識を根底に持っているように感じています。
ーー確かに、内閣府の調査結果を見てもそのような傾向が読み取れます。
学生たちと話していても「自分が何かしたところで……」と考えている人が多いです。
あと、政治をそもそも分かっていないという点もあります。
例えば、いわゆる「右」と「左」の話で、「あなたはどっちですか?」と聞いた時、日本人は「真ん中」という回答がものすごく多い。
それが最も無難な答え方であるし、学生たちと話して分かりましたが、「どちらかに偏っている」ということがとても悪いことなんですよ。
「右」「左」をそもそも語れない。そして、少し右寄りの意見を言うと、「それは右翼だよ」「『ネトウヨ』なの?」と言われる。だから、真ん中が一番良いと思っている。
例えば、「男女平等」に関しては「私はそれを推進したほうがいいと思います」と言えるんです。しかし、「それは真ん中より左寄りの意見だね」と政治に落とし込んだ時、「自分は偏ってるのかしら」と思ってしまう学生が多いですね。
スウェーデンの学校選挙とは?

ーー「政治」というワードがちらついた瞬間に意見を述べにくくなる。大学生時代を振り返ると、なんとなく分かる気がします。
親から「そういう話はするもんじゃない」と言われた学生もいます。
私の授業では、学生たちに政治の知識を身につけさせてディスカッションをしてもらっていますが、「大学ではいいけど、外でこういう話をすると引かれるんですよ」とよく言われますね。
「真ん中より少し右」といった意見もあるはずなのに、右といったら「街宣車」、左といったら「ヘルメットをかぶって」といった極端なイメージを想像してしまう。
そんな時、右や左は自分のポジションを表す時に言ってもいいことだと教えています。
「福祉の充実」という意味では左寄りの意見だけど、「安全保障」に関しては右寄りの意見という人もいますよね。
そういう考察をせず、自分の立ち位置がわかっていない状況で、そもそも選挙なんてできるのでしょうか。
学生から「右と左はどのように分ければいいんですか?」とも聞かれますが、私は「いやいや、右と左の2つではないから政党は2つ以上あるんだよ」と言っています。
テレビの世論調査結果を見ていても、「どちらとも言えない」という回答がものすごく多い。
これは考えたり、理解したりした上でこう答えているのではないと思います。
ーー政治についての教育は日本とスウェーデンで違いはありますか?
スウェーデンには「学校選挙」というのものがあります。
選挙の期間中に、日本の中高生に相当する生徒らが本物の投票用紙を使い、実際の政党名を名簿で見て投票します。
もちろん任意ですが、学校選挙はこの20年間でかなり広まってきました。全国的に集計され、生徒らの投票結果も公表されます。
日本だと実在する政党名を使うことはまずない。
「本当に投票する気持ちでやってね」と言いながら、紙には「チョコレート党」とか書いてある。これでは「おままごと」です。
選挙事務所に突撃して質問をぶつける

ーースウェーデンでは討論会も活発に行われているそうですね。
選挙前に学校の体育館で討論会が開かれます。
各政党の若者組織が来校し、学生らと討論します。例えば「移民の問題をどうするのか」といった議論で自分の意見を当然のように伝えています。
もし、この討論会を日本ですると、きっとクラスで最も成績が良い生徒に質問をさせるなど、「お行儀良く」やると思います。
しかし、スウェーデンでは、いわゆる不良のような学生も平気で手を上げて質問します。そして、良い意見だと、「ヒューヒュー」と歓声が上がります。
全員が政治について、自分の視点で語ることは当たり前なんですね。
日本では、投票に行くのは「偉い」と言われますが、投票は権利の一つ。その感覚は間違っています。
コロナ禍前まで、学生を連れてスウェーデンの高校生とディスカッションさせていました。
「スウェーデンでは若い人も選挙に行くの?」と聞くと、決まってこんなことを言われてしまいます。
「だって、法律が変わったらずっと影響を受けるのは若い人たちだよね」
「自分たちが一番関係あるのに何でそんな無関心でいられるの?」
「日本は高齢の政治家が多いでしょ?よくその世代に任しているね」
ーー高校生の時からしっかりとした意見を言える人が多いですね。
日本では諦める感覚が大きいのかなと思います。
学生同士で「教育や奨学金をなぜ充実してくれないんだろう」と話していましたが、「政治家が投票率の高い高齢者を選ぶのは当然。3人に1人しか投票に行かない世代の意見は聞かないよ」と言うと、「そうですよね」となってしまう。
スウェーデンでは、宿題もおもしろいものがあります。小学4年の娘がいる親に夏休みの宿題について聞いた時、「政党について調べた」と話していました。
その話を中学3年の息子がいる親に話したら、「うちは選挙事務所に突撃し、質問をぶつけてどんな答えが返ってくるか報告することになっていたよ」と話すんです。
白票でもいいから投票せよ

ーーなかなかすごい夏休みの宿題ですね……。
日本では学校内での政治的な活動が制限されています。
しかし、人には生まれた時から人権があります。その人権の中には政治的な活動をする自由もあるはずですが、実態はそうではない。
生徒からしてみれば、「政治的な活動というのは卒業するまでしたらダメなんだ」と思ってしまう。
でも、これは大きく間違っていると思います。
教師も一緒です。
私が教える学生に聞いても、「高校の先生は語ってくれなかった」や「語ってくれたけど、『本当は言ったらダメなんだけど』と前置きをしていました」と話しています。
もちろん、先生が「こういう思想に従え」と言うのはダメです。しかし、ある問題点に対して、自分がどのような立場をとっているかは説明できると思います。しかし、それ自体を避ける傾向にあります。
先日、菅前首相が横浜市の高校で行う予定だった講演会が中止になりましたよね。
確かに選挙前というのはありますが、首相経験者の話を直接聞く機会はあまりないでしょう。
中止に追い込まれた理由を「参院選前だから」ではなく、「政治家を高校に呼んだらいけないんだ」と思う人も出てくるかもしれません。
ーー選挙がある度に若年層の投票率が低いことが話題になります。そして、日本はスウェーデンのような政治に対する教育はそもそもしていない。もうこの閉塞感から脱せないのでしょうか。
これは賛否両論あるのですが、一つ提案させてください。
「政治なんていきなり学べないし、わからない。どこに投票していいかわからない」と言われた時、私はこう言っています。
「とりあえず白票でいいから投票せよ」
白票でも、「年代別投票率」に影響が出ます。若年層の投票率が上がっていくと、政治家たちは「この人たちの機嫌を損ねたら大変だ」と感じるのではないでしょうか。
もちろん「白票を出しても意味がない」と言う人もいます。しかし、私はそういう形でも「とりあえず投票に行ってほしい」と思います。
そうすれば、少しは政治家が若年層に目を向け始めるかもしれない。
投票率がすぐ50%になるとは思っていませんが、政治家だって若者の数字がグーっと上がってきたら無視できません。
政治家になめられたいのか?

ーーとても思い切ったというか、面白い提案ですね。棄権するくらいなら白票でもいいから投じた方がいいというのは納得です。
スウェーデンでは、「社会はすぐに変わっていくのだから、自分が違和感を感じたら好きなように行動してみなさい」と言われます。
しかし、日本は「日本人なんだからこうしなさい」みたいな話が多いと思うんです。
そうなると、投票権を得る18歳になっていきなり「法律をつくる側のことを考えなさい」と言われたってわからないですよ。
ーー報道や周囲も「若者の投票率が低い」と言い過ぎですか?それが閉塞感につながっていることは考えられるでしょうか。
若者の投票率が低いのは間違いありません。しかし、それを上から目線で「けしからん」というのは違います。
本人たち自身に「どういう影響を与えるか」ということを教えてあげなければなりません。
要するに、このまま投票率が低い状態だと、「政治家になめられ続けるよ」ということです。
あまりテレビなどでは言われないかもしれませんが、私は授業でもはっきり言っています。「君たちは政治家になめられたいのか?」と。
ーー「政治家になめられたいのか?」というのは重要なメッセージですね。このままでは政治家は若者に対して何も考えない。
よく学生は「投票しなくてもそこそこ幸せだから大丈夫」と言います。
これはある意味幸せなことなのかもしれないですが、今の現状を見ても円安やコロナで社会がめちゃくちゃになっています。
あと、今のロシアがそうですが、気づいた時には好き勝手やられる可能性だってあります。
いざ「まずいぞ」と思った時に、それを止められるかどうかを考えなければなりません。
「投票しなくてもそこそこ幸せ」という意見を、韓国人留学生に聞くと、「日本は韓国ほど差し迫って困ったことがないからでしょうね」と言っていました。
「韓国もそこまで学校で政治について教わらない」と話していましたが、家では政治について話をするみたいです。
日本は、家でも話さない、先生は教えてくれない、子ども同士で話さない。
こんな状態では投票率は下がりますよ。
でも、政治家になめられないために、「いざ」という時のために、投票というのは大切なことなんです。