「交通事故で死亡した患者の診断名を医師が『covid19死』とした」という趣旨のツイートが広く拡散している。
しかし、「covid19死」とする診断名などに不自然な点が多く、ツイートは「根拠不明」だ。
発信元は救急隊員を名乗り、コロナワクチンやマスク対策の批判をしているほか、「マスメディアは洗脳機関」ともツイートしている。
BuzzFeed Newsは専門家グループ「こびナビ」副代表で救急医の木下喬弘医師と、同幹事で感染症専門医の谷口俊文医師に協力を依頼し、ファクトチェックを実施した。
経緯を振り返る

交通事故で搬送先の病院でお亡くなりになられた患者に、抗原検査を実施。約20分経ち、陽性判定との結果。医者が私のところに来て、「診断名書くよ」と。(診断名を医師から記載してもらわないと救急車は病院を引き揚げられません。)私は診断名を何度も見返した。初期診断名「covid19死」
10月22日夜、このようなツイートが発信された。28日午前10時現在、6500リツイート、1.5万いいねと広く拡散している。
発信元は「救急やって計数十年になるけど」「救急車で搬送した患者が……」と、救急隊員を自称。8000弱のフォロワーがいる。
当該ツイート以外でも根拠不明の情報を発信しており、「小学生の女児が心肺停止。ワク2回接種済み」「30代の女性がコロワク3回目接種直後CPA(心肺停止)」と発信している。
「ワクチン接種は野蛮な慣習」「マスクの弊害をなめすぎ」などとワクチンやマスク対策を批判し、「メディアを見ている国民は目覚めていない」という持論も述べている。

このツイートをめぐっては、多くの医師がTwitter上で不自然な点を指摘した。
一方でワクチンに懐疑的なユーザーは「こうやってコロナ死はつくられていく」「日本のコロナ死の実態。水増しってやつ」などと反応している。
なお、発信元はツイートから2日後の24日、「訂正 診断名ではなく傷病名」と再び投稿した。
交通事故の患者が搬送された場合は……
では、具体的に不自然な点はどこなのか。
BuzzFeed Newsは救急と感染症を専門とする木下、谷口両医師を取材した。
まず、「交通事故で搬送先の病院でお亡くなりになられた患者に、抗原検査を実施」のくだりについては、「通常は考えられないが、完全に否定することは難しい」とする。
一部の医療機関では、救急搬送された患者が入院する度に抗原検査を実施しているが、患者が死亡した場合に後から抗原検査を行うことは、通常考えにくいという。
もし考えられるとしたら、「患者に新型コロナ感染を疑わせる所見があった場合」や、「なんらかの事情で感染対策が不十分のなか、診療に関わった医療従事者の感染リスクを調べるために抗原検査をする場合」などとした。
「コロナ死亡の水増し」という論調には無理がある

「医師が救急隊に伝える診断名を『covid19死』とした」という点については、「かなり違和感がある」とした。
このツイートでいう病名はあくまで「COVID-19」。医師であれば病名の後にあえて「死」とは付けないという。死亡は傷病の結果として起きることだからだ。
つまりこのツイートは、「(傷病名と結果の)2つを混同している」と説明する。
また、交通事故では通報を受けて警察が介入し、死亡した患者は「異常死」扱いになる。
病院側は、交通事故の捜査で駆けつけた警察側に診断名を納得させなければならないが、そこについての記述が、当該ツイートにはない。
木下医師は「そもそも救急隊に伝える診断名は最終的なものではない。死亡診断書や死体検案書に記載する内容と異なるため、コロナ死者数の統計に反映されるわけではない。『コロナ死亡の水増し』という論調には無理がある」と指摘した。
消防側の見解は

BuzzFeed Newsは総務省消防庁も取材した。
同庁救急企画室は、救急隊が患者を搬送後、署に戻る手順について、「引き継いだ医師から傷病者の初診時診断名をもらうためのルールについては定めを設けていない」とメールで回答。
医師引き継ぎ後については「救急車を清掃、消毒するなどし、再出場に備えて引き揚げる」とした。
東京消防庁にも一般論としての搬送後の手順について尋ねたが、「救急隊の活動、処置以外の件については答えられない」と同じくメールで回答した。
監修:こびナビ副代表・木下喬弘、幹事・谷口俊文
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- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。