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なんで開票所に双眼鏡を持った人がたくさんいるの?知られざる「バードウオッチング」の世界とは…

開票所で双眼鏡を持っている人たちって誰?何をしてるの?という質問が届きました。新聞記者だった自身の経験を踏まえ、疑問に回答します。

7月10日投開票の参院選に向け、BuzzFeed Newsが選挙に関する質問を募集したところ、こんな質問が寄せられました。

「なんで開票所に双眼鏡を持った人がたくさんいるの?」

開票所はおおむね、公民館や学校の体育館などに設けられ、有権者に公開されています。行けば実際に、双眼鏡を持った人たちを見かけることがあります。

この人たちは誰なのか。何のために双眼鏡を持ち、どこを見ているのか。

実際に双眼鏡を持ち開票所に詰めていた経験がある筆者(相本)がお答えします。

まず開票の流れを振り返る

まずは主な開票の流れを確認しましょう。

東京都選挙管理委員会によると、投票が終わると、各投票所から投票箱と鍵、投票録などが開票所に運ばれます。

運ぶのは、投票所責任者の「投票管理者」と、選管が選任した「投票立会人」。

開票所に着くと、開票所責任者の「開票管理者」が厳格に点検し、受領、保管します。

そして、開票の時刻になると、開票管理者が作業の開始を宣言します。

各投票箱を開いた後、職員らが投票用紙を一斉に仕分け、各候補者別に得票を計算します。

開票作業は未明まで続くこともあります。

開票が終わると、開票管理者は各候補者の得票数を確認し、当選人を決定する選挙会の「選挙長」に結果を報告します。

双眼鏡を持っている人は?

開票作業の会場には、「双眼鏡を持った人たち」が多数詰めかけます。

そして、この人たちの大半は新聞やテレビなどの報道関係者です。

私も新聞記者時代、開票作業が行われている大きな体育館に行き、その様子を双眼鏡で確認していました。

公職選挙法69条は「選挙人は、その開票所につき、開票の参観を求めることができる」と定めており、だれでも見学できる決まりになっています。

記者たちは、双眼鏡を使って何を見ているのか。一見バードウオッチングのように見えるこの作業。

実は候補者の「当選確実」、いわゆる「当確」を報じるうえで重要な役割を担っているのです。

双眼鏡は「最後の砦」

テレビの開票速報や新聞社のサイトなどで流れる「当確」は、選管が発表しているものではなく、新聞社やテレビの独自取材の結果から判定し、伝えています。

新聞の場合は定められた朝刊の締切時間に間に合わせつつ、より深く正確な記事を書くためにも、早い段階での判定が必要になります。

そのため、各社は投票所の出口で投票した有権者に選んだ候補を聞き取る「出口調査」や、電話などでの調査に組織票の流れなどを取材した結果を加味する「情勢調査」に力を入れています。

開票が始まる前には、大まかな結果と「当落ライン」を予想しています。

投票終了の午後8時ぴったりに当確を速報するメディアもありますが、これは出口調査と情勢調査などの結果から、次点候補の逆転は不可能と判断した場合に報じています。

しかし、それだけ準備しても、当確の判断がつかない選挙区もあります。

選挙は民主主義の根幹だけに、誤報は許されません。各社の担当者は「100%の自信」を持って当確を打つことが求められます。

「あとちょっとだけ根拠があれば…」「もう少し情報が集まっていれば…」

ここで登場するのが、最後の砦となる双眼鏡を持った記者たちです。

「束読み」とは?

記者たちは双眼鏡で何を見ているのでしょうか。

答えは、投票用紙が束になって集まる「集積台」です。

投票用紙は計算機などを通し、候補者ごとに数百枚の束でまとめられて集積台に積まれます。

記者たちは双眼鏡でその束の流れに注目し、どの候補者の投票用紙が何束積まれているかをチェックします。

これを「束読み」といいます。

上司は事前の出口調査や情勢調査の結果を踏まえ、この束読みの情報を合わせて当確を打つかどうかを総合的に判断します。

束読みは、根拠を持って当確を打つために重要な役割を担っているのです。

人員が割ける社は別の方法も

多くの記者やアルバイトを選挙に割ける社は、接戦の選挙区では職員が投票用紙を一つ一つ仕分けている台ごとに担当を振り分けます。

また、投票用紙が「束」になる前の段階、つまり手作業で仕分けられている段階で投票用紙の候補者名を双眼鏡で読み取ることもあります。

投票用紙が束になって集積台に積まれるよりも早く票数を確認できるため、束読みよりも早い段階で当確を打てるメリットがあります。

現役の新聞記者は……

選挙報道のプロ、朝日新聞社選挙事務局長の若松聡記者はこう話しました。

「人を開票所に直接派遣した調査は、いまでも有力な手段です。選挙の性質、その地区の状況や情勢、出口調査の結果にあわせて、手法や人員規模を変えていっています」

これが開票所に、まるでバードウオッチングのように双眼鏡を持った人たちがいる理由です。もしかすると、近くの開票所で見ることができるかもしれませんね。


7月10日に投開票日を迎える参議院議員選挙。

なんで選挙カーってあんなにうるさいの? ネット投票まだ? 投票方法から選挙の仕組み、選挙運動の謎までーー。

BuzzFeed NewsのLINE公式アカウントやInstagramに読者のみなさんから寄せられた「#選挙のなんでなん?」を、記者が取材しました。