ハリウッドで活躍、音の魔術師が教える「身近なもので作れるこんな効果音」
ホウキでスーツケースをこすると……?
突然ですが、「フォーリーアーティスト」という職業をご存知でしょうか。

「フォーリーは映画やテレビドラマ、テレビコマーシャルなどの映像に合わせて音を付けていく作業です。体や小道具を使って音を生み出す人のことをフォーリーアーティストといいます」
そうBuzzFeedに語ってくれたのは、世界で活躍する日本人フォーリーアーティストの小山吾郎さん。
数々のハリウッド映画作品の音響効果を手がけ、第64回エミー賞(2012年)では関わったテレビ映画『ヘミングウェイ&ゲルホーン』が最優秀音響効果賞を受賞しました。最近では、映画『寄生獣』の効果音も手がけています。
上の写真は、小山さんが「人や動物が水の中で泳いでいたり、動いているときの水しぶき」の音作りをしている様子です。
そんな小山さんが、だれでもできる身近な素材をつかったフォーリーを教えてくれました。
百均の灰皿と、自分の太ももで作った音に

ベルトとハンドバッグのガチャガチャ音を重ねると

乗馬の音の出来上がり。
軽く空気を入れたフリーザーバッグを揉むと

傘に当たる雨の音。
「マイクをまったく濡らさずに、晴れの日でもオッケー!」
マイクに息を吹きかけただけで作れるのは……

スペースシャトルの音。
「軽く吹きかけるようにしましょう。強く吹きすぎるとマイクが破損する危険があります」
「CMでも使われるテクニックですが、卵の殻を握りつぶす音でパリパリ感が増します」

パリパリ! ポテトチップスの音がよりおいしそうになりました。
ホウキでスーツケースをこすって作っているのは

海岸の音。
シャツをバサバサした音と

藤のかごをねじるようにしてパチパチさせた音を組み合わせて

炎の音が作れます。
「今回使用したのは、チョコレートのギフトセットが入ってた安物のかごです」
それにしても、どうして本物の音を使わないのでしょうか。
BuzzFeedの問いに、「もちろん本物でもいいんですよ。いい音さえすれば何でもいい」と、小山さんは答えます。
紹介した音は簡易的なものですが、普段はもっと手の込んだ音作りをしています。
ときには本物を使うことも。

「これはあるコメディ映画で『浮気に腹を立てた女性が彼氏の高級車をボコボコに破壊してしまう』というシーンの音を依頼されたときの写真です。『本当に車を壊すしかない!』と思い、場面さながらに車をボコボコにしました」
足音一つ作るのにも、これだけの靴を用意します。

「足音は、完成作品ではほとんど聞こえないくらい地味な存在です。でも、すごく気を遣いますね。場面を作る上でとても大切なんです。作業量も一番多いのですが、その分、完成したときの達成感は大きいです」
ちなみに、どのような音を作っているときが楽しいのでしょうか。

「作っていて楽しい音のひとつに『水』があります。水は無限の表情を持っていて、どんな形にもなるし、動かす度に新しい発見があります。まさに映像に命を吹き込んでることを実感します。なので、全編が水の上だった『オール・イズ・ロスト』は面白かったですね。変わった作風だったし」
しかし、一番難しいのも「水」の音作り。
「水中のドキュメンタリーは、慣れない頃はかなり苦労しました。全部のシーンが水中なので、気をつけないと全部同じ音になってしまうんです。そうなると、見てる方もつまらなく感じてしまうので」
「あと、場面ごとに、生き物に合わせて水の音を変えるのが大変なんです。クラゲにはセーム革、イカには切ったメロン、波に揺れる昆布にはレタス、という具合に。ロブスターの脱皮には、本物のロブスターよりもマカロニの方がいい音がしました。いくつもやるうちにだんだん学びますが、作品が違えば注文も違います。『水中の音』はいまだにすごく苦労する音の一つですね」
最後に、フォーリーアーティストを目指したきっかけをこう話してくれました。

「仕事を探していた頃、あるサウンドスタジオを訪れたんです。そこで、足音や、画面上のあらゆる細かい生活音を録音していく地味な作業を目の当たりにしました」
「『コレやりたい!』ってすぐに思いましたね。昔ながらの『裏方』とか『影の職人』っぽい雰囲気が大好きだったんで。映画を見てる人はおそらく誰も気にしない部分なんですけど、それを一生懸命作ってる姿に感銘を受けました」
「いつも新しいチャレンジがあるし、端から見たらばかばかしいような音を一生懸命作っている瞬間がたまらなくうれしいんです」

「自分がいいと思うもの、監督が求めるもの、お客さんが聞きたいであろう音、いろいろなバランスをとりながら、陰のヘルパーでありたいといつも心がけています」