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与野党が揉め国会「出席拒否」 ALS患者・岡部さんが訴えたかったこと

わずかな筋肉の動きだけで、雄弁に語っていた

「日本の福祉は、制度としても文化としても、世界に誇れると思っていました。今回のことは本当に驚きました」

全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)。その患者で、日本ALS協会の副会長でもある岡部宏生さんは、BuzzFeed Newsにそう語る。

岡部さんは、衆院厚生労働委員会で5月10日に開かれた障害者総合支援法改正案を巡る参考人質疑で、当事者として意見を述べる予定だった。しかし、与野党の政治的な駆け引きに巻き込まれ、「コミュニケーションに時間を要する」との理由で、出席が取り消された。

岡部さんは国会で、何をどのように伝えたかったのか。

岡部宏生さん
Keigo Isashi / BuzzFeed

岡部宏生さん

5月13日夕方、都内の自宅に伺うと、岡部さんは居間に置かれたベッドで横になっていた。電動式で上体を起こすことができる、病院などにあるものと同じタイプだ。ベッドの脇には呼吸器などの医療機器が置かれている。岡部さんの喉に向かって、長く太いパイプが伸びている。

ベッドの周りにはヘルパーさんが5人もいた。まばたきとわずかな口の動き以外、全く体を動かせない岡部さんには、さまざまな「ヘルプ(補助)」が必要だからだ。1週間に8人が交代しながら岡部さんに付きそう。毎日24時間、少なくとも1人は岡部さんと一緒にいるという。

Keigo Isashi / BuzzFeed

「こんにちは」と声をかけた。岡部さんは記者の方ではなく、女性のヘルパーさんの1人に目線を動かし、顔を見ながら口を動かした。

すると、その女性は、テレビ台に置いてあった名刺ケースから1枚を取り出し、もう一度岡部さんを見つめた。目線と唇の動きから、岡部さんが何を言いたいのかを読み取り、記者に名刺を手渡しながら、こう言った。

「初めまして、岡部です」

これが、岡部さんのコミュニケーションだ。事前に資料を読み込み、こういうやりとりになることは予想していた。実際に目の前で見ると、この状況で生きる困難さと、それでもそれを身を持って伝えようとする岡部さんの強さを、同時に感じる。

Keigo Isashi / BuzzFeed

岡部さんとヘルパーさんは、次のようにコミュニケーションをしている。

まず、岡部さんが母音(あいうえお)を、わずかに動く口で伝える。「あ」であれば、ヘルパーさんが、あ行を横に読み上げる(あかさたなはまやらわ)。岡部さんは、伝えたい音を聞いたタイミングでまばたきをする。濁点を付ける場合は2回、半濁点(゜)は3回まばたきをする。ヘルパーさんに正しく伝わらなかった場合には、黒目を左に寄せて合図をする。

「はい」「どうぞ」といった短い言葉であれば2、3秒で返せるが、当然ながら、長い言葉で回答しようと思えば、その分時間はかかる。記者が取材した際には、1人が岡部さんの伝えたい音を読み取り、もう1人がその音を文章として記録していた。文章が出来上がると、それを読み上げてくれる。

Keigo Isashi / BuzzFeed

コミュニケーション方法も含めてALSを伝えたかった

衆院厚生労働委員会の当日、岡部さんは傍聴席で改正案の審議を見守っていた。岡部さんの代わりに参考人として出席した日本ALS協会の常務理事である金澤公明さんは、意見陳述の冒頭、岡部さんのメッセージを読み上げた。

そのメッセージの中で岡部氏は、予定されていた出席が取り消されたことに対して「国会の、それも福祉に関する最も理解をしてくださるはずの厚生労働委員会において、障害があることで排除されたことは、深刻なこの国の有り様を示しているのではないでしょうか」と指摘した。

委員たちが自分のメッセージをどう受け取るか。岡部さんはその反応を傍聴席から見つめていた。自分の思いが届いたのかはわからないが、「思っていたよりもざわざわしていた」という。

Keigo Isashi / BuzzFeed

岡部さんは国会という場で、何を伝えたかったのか。改めて聴いた。

「私のようにコミュニケーションに障害があると、意思疎通に大変な困難が伴います。それは在宅でももちろんですが、病院においては、普段の介護者がいないことで大変さはさらに増します。それは、私たち患者のみならず、病院のスタッフの方にとっても大変な負担になります」

「この障害があっても、ご覧の通りに、特別な技能があれば、これだけの意思疎通は可能なわけです。この度の法案の中には、こういう介護者の付き添いの範囲と、対象が広がることが盛り込まれています。それが私たちにとって、どれほど大事なことかをどうぞご理解くださって、この法案が成立することを願っております」

ヘルパーさんと一文字ずつ確認しながら、この言葉を伝えるのにかかった時間は、6分25秒。

誰かが代読すれば、ゆっくりと読んでも1分で伝えられる分量だ。しかし、動画を見ればわかるように、岡部さん自身が伝えることで、感じとることができるものが、確かにある。

それが、岡部さんが国会で示したかったものだ。

Keigo Isashiに連絡する メールアドレス:keigo.isashi@buzzfeed.com.

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