「検索」を汚染するアフィリエイトの闇 広告主をも騙す、ステマの手口

    検索結果の上位に表示される根拠の曖昧な“やらせ”ランキング。DeNAの医療情報サイト「WELQ」に通じる手法が用いられている。その裏には「アフィリエイト」を悪用する事業者がいた。

    根拠不明のランキングや商品比較によるステマ行為が、上場企業を含む一部のアフィリエイト業者によって横行していることがBuzzFeed Newsの調査でわかった。それらはSEOによって、検索結果上位に表示されている。

    化粧品や健康食品をインターネットで検索すると、「おすすめランキング」「商品比較」が載ったサイトが上位に表示される。

    この情報が正しいとは限らない。

    ランキングの順位や比較内容は根拠が曖昧で、医療情報を含む説明文に出典は示されていない。著者や監修者の明示もなく、問い合わせ先もない。

    そんなサイトが検索上位に来るのは、昨年問題となったDeNAの医療情報サイト「WELQ」に通じる手法を使い、検索エンジン最適化(SEO)をしているからだ。

    報酬と引き替えに、景表法や薬機法、健康増進法などに抵触する恐れのある“やらせ”ランキング・比較を作らせ、SEOで検索上位に表示させる。いわゆるステルスマーケティング(ステマ)。

    その背景に、上場企業を含む複数のアフィリエイト広告会社が存在することが明らかになった。BuzzFeed Newsの取材に複数の業界関係者が証言し、一部の企業が倫理的・法的な問題がある可能性を認めた。

    アフィリエイトとは?

    アフィリエイトとは、ネット広告手法の1つ。

    商品のPRのためにお金をだす「広告主」、広告主の商材をブログなどで紹介する「アフィリエイター」、両者を仲介する「アフィリエイト広告会社(ASP)」で成り立つ。

    アフィリエイターはブログなどのウェブサイトで広告主の商材を紹介。そのサイト経由で商品が売れたり、会員登録がなされたりした場合に、アフィリエイターはASPを通じて広告主から報酬を得られる。

    ステマを強要するASP

    アフィリエイトサイト・広告主のそれぞれの登録数で最大手のASPが、東証一部上場のファンコミュニケーションズだ。「A8.net」というサイトを運営し、アフィリエイターの募集から、アフィリエイト実践の指導まで手掛けている。

    同社は2〜3月、広告主であるMEJと組んでアフィリエイター向けのキャンペーンを実施した。

    対象商材は、MEJが販売する健康食品「エイジングリペア」など3点。

    キャンペーン期間中は通常よりも報酬が上がり、「プラセンタ 効果」「プラセンタ 口コミ」といった検索キーワードでサイトを上位に表示したアフィリエイターには、総額500万円のボーナスを支払うとしている。

    ランキング「1位掲載」が報酬の条件

    アフィリエイターにとってお得な企画に見えるが、ステマやWELQで問題となった手法にもつながる倫理的・法的問題をはらんでいる。

    ステマとは、本当は宣伝なのに、読者や視聴者に宣伝とはわからないように情報発信する行為をさす。このキャンペーンページの下部「SEOボーナス概要」欄には、ステマを前提とするかのような表記がある。

    ランキングサイト、比較サイトの場合は参加申込時点で弊社サイトの1位掲載が条件となっております

    要するに、「プラセンタ(胎盤エキス)にはこんな効果・効能があって、そのサプリメントの中で最もすごいのがMEJのエイジングリペアです」というページをアフィリエイターに作らせ、検索結果上位に表示させるよう仕向けるキャンペーンと言える。

    「エイジングリペア」を1位で紹介するサイト

    こうしたキャンペーンに乗っかり、「エイジングリペア」のアフィリエイト広告で報酬を得るために作られた可能性のあるサイトは複数存在する。

    たとえば、冒頭にも掲載した「馬プラセンタサプリ王」というランキングサイト。

    ランキング1位の「エイジングリペア」にA8.netが発行したアフィリエイト広告タグが貼られていることから、A8.netに登録するアフィリエイトサイトであることがわかる。

    アフィリエイト広告タグとは、ネットユーザーがどのサイトから広告主の商品ページに来たかを判別するものだ。

    馬プラセンタサプリ研究ラボ」という別のランキングサイトでは、1位である「エイジングリペア」と、“注目のプラセンタ”として紹介されている「FUWARI」にアフィリエイト広告タグが貼られている。発行元はいずれもA8.netだ。

    こうしたサイトはランキング順位や比較の根拠が曖昧で、著者名や問い合わせ先が書かれていない。

    また、馬プラセンタサプリ研究ラボのように、医療情報を含む1万字を超える説明文があるケースもある。しかし、これも何を根拠に書かれているのか明らかでない。

    文字数の多さは、キャンペーンでボーナスを獲得することを目的にSEO対策を講じたものと見られる。根拠が不明確な情報を載せている点と合わせて、DeNAが運営していた医療情報サイト「WELQ」の問題に通じる手法だ。

    アフィリエイターに健康食品の効果・効能を書かせて、ランキングや他社比較で1位を推奨する行為は、広告主側が景表法や薬機法、健康増進法などに抵触する恐れがある。

    また、ASPやアフィリエイターも、薬機法や健康増進法などに触れる可能性がある。

    たとえば、健康増進法を定めた消費者庁はこうしたアフィリエイトサイトについて、「表示内容の決定に関与している場合には、『何人も』虚偽誇大表示をしてはならないと定める健康増進法状の措置を受けるべき者に該当し得る」との見解を示している。

    運営社は「お詫び」掲載

    ファンコミュニケーションズはBuzzFeed Newsの取材に対してキャンペーン内容に非があったことを認め、4月7日、A8.netにお詫び文を掲載した。

    広報担当者によれば、広告内容は厳格に審査をしているが、先述のキャンペーンページのようなケースについては「基本的に事業部に判断を委ね、法令等違反の疑いがある場合に審査担当の部署に問い合わせるフローを採り、特段社内基準が定められて」いなかったという。

    同社の調査では、先述のような“ステマ”を強要する表示があるキャンペーンが、ほかに「5件」あった。

    今後、再発防止のために、キャンペーンページ審査体制の詳細をさらに検討するとしている。

    一社だけの問題ではない

    ステマを強要するキャンペーンは、ファンコミュニケーションズだけの問題ではない。

    アフィリエイトサービス「JANet」を運営するアドウェイズが、アフィリエイターとASP・広告主のマッチングサービス「アフィリエイトフレンズ」を通じて2015年6月に実施したキャンペーンにもステマを強要する表示がある。

    BuzzFeed Newsが入手した資料によれば、ファンコミュニケーションズの例と同様に、報酬と引き換えに広告主が有利になる情報をアフィリエイターに書かせ、特定キーワードで検索エンジンの上位を独占させる手法を採っている。

    「JANetの指定したキーワードで上位表示すれば日割の固定費がもらえるという常軌を逸した企画」という文言から、SEOを重視していることがわかる。

    最後のスライド「注意事項」の上から3つ目に、「ランキング形式のサイトはJANetで1位~3位を固定」とある。キャンペーンに参加する場合には、JANetの広告主の商材をランキングの1~3位で紹介するよう条件を付けているのだ。

    アドウェイズと、アフィリエイトフレンズの運営企業「コンサルティングR」はBuzzFeed Newsの取材に対し、協力企業や取引先企業との間に守秘義務があるなどの理由から、明確な回答を控えた。

    広告主をも騙すASP

    ランキング・比較に十分な根拠がないことは、ASPが講師を務めるアフィリエイター向けセミナーの内容からもわかる。

    BuzzFeed Newsは、ASPのレントラックスが2016年4月に開催した金融商品セミナーの映像を入手した。

    レントラックスはセミナーで、アフィリエイターにこう指導している。

    「プロミスさんは『1位掲載』が大好きなクライアントさんとなっております。なので、単価交渉をする際の最後のひと押しで『1位掲載』がすごい刺さるんですね。なので、皆さんで新規にサイトを作っていただく際には、プロミスさんに関しては2位以下で掲載いただければなと思います」

    つまり、アフィリエイターが新たにアフィリエイトサイトを作る場合、ランキングや比較の2位以下でプロミスの商材を紹介させる。それをレントラックスが「1位に掲載するから報酬を上げてほしい」とプロミスとの報酬単価交渉の材料に使うということだ。

    ASPとアフィリエイターがグルになって広告主を騙している構図に見える。

    BuzzFeed Newsが入手したもう一つの映像には、「アフィリエイトB」を運営するフォーイットが講師を務めたセミナーの一部始終が収められている。フォーイットは東証マザーズ上場のフルスピードから分離独立したASPだ。

    フォーイットはランキングサイトや比較サイトについて、こう語っている。

    「上位掲載の案件を大切にしてもらいたいなと思っています。たとえば、脱毛で言えばミュゼプラチナムさん、(ランキングの)1位にしているとコンバージョンレート(商材の購入者・申込者が何人いるかの割合)がものすごく上がってきていて」

    「5位とかでもミュゼプラチナムさんは(商材の購入者・申込者を)取れるんですけど、やっぱり1位にした時のコンバージョンレートとの差は激しいものがあって。なので、取れるものを一番上に、というのをぜひやっていってもらえたらなと思います」

    フォーイットとレントラックスはBuzzFeed Newsの取材に対し、当該セミナーについて社内調査中だと回答している。

    【追記1 】レントラックスは4月13日、ウェブサイトにお詫びを掲載。「このような記載・言及が、広告主様やアフィリエイター様に誤解を与える可能性を孕み、ひいては一般消費者様に対して、不当に誘引する行為、一般消費者様による自主的かつ合理的な選択を阻害する行為につながりかねないことを改めて認識致しました」などとコメントした。

    【追記2】レントラックスは4月14日、BuzzFeed Newsが問い合わせていた内容に回答。先述したセミナーでの言動について次のように釈明した。

    客観的根拠がある掲載ランキングに対し、根拠無く不当な順位操作をして、掲載することをお勧めするものではございません。

    担当講師の意図としましては、サイトを開いた際に、目に入りやすい場所に掲載するなど、あくまでも当該広告の露出度を高めることをお勧めするものでございます。

    比較サイトの草創期より、サイトの作りとして、広告を縦に並べる傾向がございますため、アフィリエイター様との掲載位置に関するやり取りにおいて、実際には順位を記載したサイトではないにもかかわらず、表現の便宜上、安直に、「1位」といった順位を用いた表現をするケースが多くございます。

    もっとも、貴殿からのご指摘を受けまして、当社講師によるセミナー時の「1位掲載」という言及が、広告主様やアフィリエイター様に誤解を与える可能性を孕み、ひいては一般消費者様に対して、不当に誘引する行為、一般消費者様による自主的かつ合理的な選択を阻害する行為につながる可能性があることを改めて認識致しました。

    今後は、より慎重に表現を選び、誤解を与えない説明内容とさせて頂ければと考えます。

    また今後、セミナーの内容や資料についてのチェック体制を構築するほか、アフィリエイターに対して、「客観的な根拠を表記しないまま、数字による明確な順位の記載がある『人気ランキング』『おすすめランキング』といった掲載コンテンツ」を排除するよう継続的に告知するとしている。

    アフィリエイト業界全体の問題なのか?

    ここまで上場企業3社を含むASPの問題を紹介した。アフィリエイト業界では、こうした手法が当たり前になっているのか。

    BuzzFeed Newsは、業界団体「日本アフィリエイト協議会」の笠井北斗代表に聞いた。笠井代表は18年以上にわたり、アフィリエイター、ASP、広告主、広告代理店などあらゆる立場でアフィリエイトに携わっている人物だ。

    日本アフィリエイト協議会は、消費者庁などの行政機関や、日本通信販売協会(JADMA)、日本広告審査機構(JARO)などと連携し、アフィリエイトの健全な運用方法や不正対策を打ち出している。やらせランキング・比較についても以前から注意喚起している。

    また広告主や広告代理店、ASPの皆さまも、アフィリエイトサイト運営者に対し、ランキングコンテンツでの上位掲載や、比較ページで競合他社より優良だと書かせる行為を、特別報酬・固定費を絡めて提案されないようご注意ください。

    広告主側がお金を払い、アフィリエイトサイトのランキングや比較コンテンツで上位掲載を依頼する行為は、他社の名誉毀損の教唆をしていると捉えられ、刑事罰や不正競争防止法の違反行為として責任を問われる可能性があります。

    またアフィリエイトサイト運営者側も、企業から特別報酬や固定費を受け取る見返りとして、根拠のないランキングや比較コンテンツを作成する行為が、消費者を誤認される行為に手を貸したとして、名誉棄損の罪に問われる可能性があります。

    笠井代表は、ランキング・比較サイトへのステマの強要が「一部のASP」が用いる手法であることを強調する。

    「景品表示法上の不当表示としても問題になる可能性がありますし、ランキング・比較サイト関連で訴訟も多数起こっていますから、ASP側はやらせランキング・比較を取り締まることはあっても、ASPとしてこうした行為を推奨または強要することはまずありえません」

    しかし、モラルのないASPがいることは紛れもない事実だ。

    「日本のアフィリエイト業界では新しいASPも増えておりますので、一部の悪質なASPが自社の売り上げを増やすためにやらせランキング、やらせ比較をアフィリエイターに作らせることはあるかもしれません」

    ASPとは本来どうあるべきか。笠井代表はこう説明する。

    「本来ならば、ASPがアフィリエイトサイトの審査やパトロールを実施し、やらせコンテンツを排除しなければいけません。また、アフィリエイターや広告主向けに、やってはいけない『NG行為』について教育・啓蒙することも大切です」

    日本アフィリエイト協議会には、アフィリエイターやブロガー、広告主、ASP、広告代理店など約600人の個人・法人会員がいる。なお先述5社は2017年4月時点で加盟していない。

    同団体の調査では、アフィリエイターや広告主がASPに求めることに、「アフィリエイトの不正対策(教育・啓蒙含む)」がまず挙げられるという。

    笠井代表はASPにこうメッセージを送る。

    「やらせランキング・比較をアフィリエイターに推奨、提案する行為は、ASPとして絶対にやってはいけない行動と言えます」

    「業界団体への加盟・非加盟に関わらず、ASPには安心で安全なアフィリエイトサービスを提供していただきたいと思います」

    追記1

    レントラックスが4月13日にウェブサイトに掲載したお詫びについて追記しました。

    追記2

    レントラックスがBuzzFeed Newsの問い合わせに回答した内容を追記しました。


    【お願い】

    BuzzFeed Newsは、アフィリエイトを含むインターネット広告が抱える問題を引き続き取材します。関係者からの情報をお待ちしております。メール(japan-report@buzzfeed.com)でご連絡ください。