「フレンドリーペアレントルール」で注目集めた親権裁判、二審は逆転。親権は母に

    一審千葉家裁松戸支部は「父」→二審東京高裁は「母」

    9歳の女児を、40代の父母どちらが育てるかをめぐって争われている離婚裁判の控訴審判決が1月26日にあった。一審千葉家裁松戸支部が父親に親権を認めていたのに対し、二審東京高裁(菊池洋一裁判長)は逆転で母親の親権を認めた。

    千葉家裁松戸支部は、「より寛容な面会交流計画を立てたこと」を理由に、いまは子どもと離れて暮らしている父親に親権を与えた。こうした判断は珍しく、「フレンドリーペアレントルールを採用した判決」として、大きな注目を浴びていた。

    2016年3月の一審判決で、千葉家裁松戸支部が着目したのは、父母の面会交流計画だった。父親は年間100日の面会交流計画を提案。対する母親は月1回程度を提案した。一審はこの差を重視し、娘が「両親の愛情を受けて健全に成長」するためには、父親を親権者にするべきだと判断していた。

    これに対し二審判決は、一審判決の判断について、次のように述べた。

    どの程度の頻度でどのような態様により相手方に子との面会交流を認める意向を有しているかは、親権者を定めるに当たり総合的に考慮すべき事情の一つであるが、父母の離婚後の非監護親との面会交流だけで子の健全な成育や子の利益が確保されるわけではないから、父母の面会交流についての意向だけで親権者を定めることは相当でなく、また、父母の面会交流についての意向が他の諸事情により重要性が高いとも言えない。

    控訴審の判断

    親権をめぐる裁判で一般的に重視されるのが「継続性の原則」だ。これは、子どもの暮らしている環境をころころ変えない方がいい、という考えに基づくルールだ。娘は2010年5月以降、実家に帰った母親側が育てていた。

    二審判決は「長女は、母親の下で安定した生活をしており、健康で順調に成育し、控訴人との母子関係に特段の問題はなく、通学している小学校での学校生活にも適応している」と判断。

    「長女の利益の観点からみて長女に転居及び転校をさせて現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情は見当たらない」などとして、親権者は母親と結論付けた。

    母親側の記者会見

    母親は弁護団を通じて次のようなコメントを発表した。

    「判決を聞き、とにかく安堵いたしました。子どもにとってどちらが親権者が相応しいか、的確に判断していただいた。娘によい報告ができることを本当に嬉しく思っています」

    「毎日不安と絶望感にさいなまれ辛い日々でした。ただ、そのような気持ちが娘に伝わらないようにしました」

    「娘の成長と笑顔が私の支えでした。娘が安心して育っていけるよう、夫婦間の争いは過去のこととして新しい人生をあゆみたい。穏やかな気持ちで娘に再会してもらいたい」

    弁護団によると、妻側は控訴審で次のように主張していた。

    1. 別居したのは夫が原因。
    2. 9年間一緒に暮らした母から引き離すのは、子の利益にも、子の意思にも反する。
    3. 長女の誕生以来、ほぼ全面的に育児をしてきた母親が長女を連れて行ったのは当然。
    4. 100日の面会交流は非現実的で子どもに大きな負担がある。
    5. 夫は親権者として不適格だ。

    弁護団は判決後の記者会見で、「千葉家裁松戸支部は異例づくしの判断だった。その影響で実務は大混乱した。今日の判決は、きわめて常識的な判断だった」と話していた。

    父親側の記者会見

    父親側代理人の上野晃弁護士は「やりきれない思いです」「東京高裁は全くもって今まで通りの、何ら変わらない運用をすべきだと判断しました」と高裁判決を批判。最高裁に上告すると宣言した。

    上野弁護士は母親側が主張した父親からのDVが高裁判決でも認定されなかった点を強調したうえで、次のように述べた。

    「(継続性の原則だと)先手を打って子どもを連れ出して、その後相手をDV加害者と罵って徹底的に追い詰めれば、親権が取れてしまう」

    「離婚がこれだけ増えた社会で、先に子どもを連れて行った方が親権を取れる。徹底的に相手を打ちのめすことで有利になる。こんなことで社会が健全に成り立っていきますか。最高裁でそう問いかけたい」

    父親は「判決を聞いた瞬間に思ったのは、娘に対して申し訳ないということ」と肩を落としつつも、「最高裁が覆すと思っている。何が何でもひっくり返さないといけない」と決意を話していた。

    (サムネイルクレジット:Kazuki Watanabe / BuzzFeed)