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「隠さずに就職したい」LGBTが直面する困難と見えてきた希望

エントリーシートの性別欄には、男か女かしかない。

日本人の13人に1人がLGBTだと推計されている。今年も3万人超のLGBTが、新卒で就職活動をしていることになる。一方で、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの4割、トランスジェンダーの7割が求職の際、セクシュアリティにまつわる困難を感じているという。いったい何が問題になっているのか。

「LGBTは想定されていない」

4月29日夜、都内の支援団体、特定非営利活動法人ReBitのLGBTキャリア情報センター。LGBT当事者の学生・社会人や企業の採用担当者が、テーブルを囲むように座っていた。

ある参加者がこう切り出した。

「これまで企業の採用担当者として、いろいろな学生さんと会ったが、いまのところLGBTの当事者だと分かる方はいなかった。みんな隠していらっしゃるんだろう。就活のどういうことに困っているのか、実体験でも聞いた話でもいいので教えてほしい」

ReBitの代表・藥師実芳さんは、LGBTの就活で一番の難しさが「その存在が想定されていない」ところにあるという。

たとえば、エントリーシートの性別欄には、男と女しかない。

「トランスジェンダーの方であれば、エントリーシートの男女欄、どちらに丸をしよう、男女のスーツどちらを着ようかと迷う。両方嫌だという場合もある。体の性別と違う性別で就活していいのかな、という疑問もある」

就職後、福利厚生で同性パートナーが家族と認めてもらえるのか。ハラスメントが起きた時に対応してもらえるのか。

こうした疑問を企業に問い合わせたり、周りに相談したりするのは、簡単なことではない。カミングアウト(自分のセクシュアリティを告白すること)につながりかねないからだ。

面接では、LGBTというアイデンティティに基づく志望動機や、LGBTの社会活動に取り組んだ経験も、カミングアウトしないままだと説明しにくい。

一方で、逆にLGBTだとうち明けると「帰れ」と言われたり、セクシュアリティについての説明を求められ、それを話すだけで面接時間が終わってしまうケースもあるという。

「カミングアウトできない同世代がたくさんいる」

大学4年生の有田美優さん(21)。「性自認は男性より」で、女性っぽい自分の名前が「大っ嫌い」だが、体は女性。治療も受けておらず、戸籍も変えていない。

これまで女子として生きてきたし、そうしなければいけないという固定概念があった。「自分は100%男だ」とは断言できないのに、「私は女じゃない」と言って生きられるのか。そう考えると、就活にも自信が持てなかった。

しかし、今はメンズスーツを着て就活している。企業には「男性と女性という選択肢しかないなら、男性として働かせてください」と伝えているという。

意識が変わったきっかけは何だったのか。

大学3年の秋、周囲は自分の性で生き、異性と結婚して子供を作って、というロールモデルを意識しながら就職活動をしていた。「自分にはそれが当てはまらない」と感じ、将来が見えなくなった。

でも、就職はしなきゃいけない。わらにもすがる思いで、LGBT向けの就職支援セミナーに参加した。そこで企業によっては、自分のセクシュアリティをオープンにして働けると知った。世の中にはかっこいい社会人がたくさんいる、ということにも気づいた。

「自分もやりたいようにやればいいんだって、すごいシンプルな答えに気付いた。選考もけっこう通ったりしています。うちは気にしないから、という企業も結構あって、世の中わりと捨てたもんじゃないなって思ってます」

もちろん、理解がある企業ばかりではない。

「就活の企業選びって、よく恋愛に例えられるんですよ。好きな子にアプローチをする時にはこうするでしょとか、好きな女の子と手を繋いだ瞬間のことを覚えてるでしょ、とか異性愛前提で。そういう話を聞くと、自分たちマイノリティの存在が見えてないんだな、ってガッカリします」

周囲には、カミングアウトできない同世代がたくさんいる。

「もっと生きやすい環境になればいいなと思いますね」

「ストレスで生産性が落ちたら、企業にも損」

会合には、自らレズビアンだと公表していて、2015年に渋谷区の同性パートナー証明書の取得第1号になった増原裕子さんも参加していた。いまは自ら立ち上げた会社を経営する増原さんだが、これまで所属していた5つの職場のうち、4つの職場ではカミングアウトできず、長い間苦しんでいたという。

増原さんは、自らの経験もふまえて、こう話す。

「LGBTも含めて、いろいろな人たちが働きやすい環境にすることが大事です。働いている人たちが余計なストレスをうけたら、生産性が確実に落ちる。それは企業にとって損ですよ」

「就活生はみんなナーバス」

日大芸術学部3年の宮川結妃さん(20)は性自認が男女に二分できないXジェンダーだ。高校時代、セクシュアリティを周囲にうち明けられないまま「クローゼット」として過ごした。

「当時は、LGBTが登場するミュージカル『レント』と海外ドラマ『グリー』を心の支えに、なんとか生きていました」

親が居ないすきに、何度も見て、そのたびに泣いていた。

大学では積極的にカミングアウト。いまでは親、友人、教員も含め、周囲みんなが受け入れてくれている。だが、高校時代の経験は、いまでも心に引っかかっている。

会合では、ある企業の広報担当者が、企業はいま人材確保や流出の防止に苦労していて、今後はダイバーシティ(多様性)に本腰を入れざるをえない、と述べていた。職場でカミングアウトし、のびのびと働けているという報告もあった。

宮川さんは、そうした言葉に勇気づけられたという。

「少し年上のセクシュアル・マイノリティたちを見ていると、就活がすごく大変そう。就活生はみんなナーバスなので、自分も少し心配になっていたけど、今日はいろんな話を聞けて、冷静になれました」

企業の関心は高まっている。企業の側も少しずつ変わり始めている。

藥師さんは、これまで100社以上の企業に研修をしてきた経験から、そう述べる。

「まだLGBTと聞くと身構える企業もある。そうした企業の人には、LGBTは御社にもいますよ、と伝えています。誰が当事者かは、見た目ではわからないですから」

CORRECTION

一部表現を改めました。