娘の親権は父親 判決の決め手は年100日の「母と娘の交流計画」

    「必ず迎えに行く、と約束した」

    8歳の娘を育てる権利をめぐって、父と母が争った裁判で、父親が勝利した。離婚した父母は、子どもとどんな関係をつなぐべきなのか。判決の決め手となったのは、父親が提案した、年間100日におよぶ母娘の交流計画だった。

    最後の通話「パパに会いたい」

    2010年5月6日夕、仕事を終えた父親が保育所に娘を迎えに行くと、そこに娘はいなかった。

    夫婦は離婚に向けて話し合いをしていた。その真っ只中で、母親が無断で娘を連れて実家に帰った。

    別居した後、母親は第三者の監視付きなら面会させていいと提案してきたが、父親は「監視付きはおかしい」と拒んだ。結局、父が娘に会えたのは6回だけ。最後に会ったのは2010年9月26日だった。

    週一回、土曜の朝にかかってきていた電話も、2011年1月で最後になった。「母親が横で聞いていて、不適切な発言があると切られる。最後に話したときも、娘が『パパに会いたい』と言い出したとたん切れました。それっきりです」

    「継続性の原則」というハードル

    娘の親権をめぐる争いは、裁判にまで至った。だが、裁判で親権を得るハードルは高かった。

    娘はもう6年近く、母親のもとで暮らしている。裁判に先立って行われた審判では「監護権」が母親にあるとされた。監護権は、子どもと一緒に暮らして身の回りの世話をする権利のことだ。

    母と娘は二人暮らしだが、実家が近く、祖父母のサポートがある。小学校2年の娘は元気に学校に通っている。母子関係に問題はない。

    裁判では、子どもの環境はできるだけ変えないほうがいいという理由から、「現状維持」の判断がされることが多い。このような考え方を「継続性の原則」という。

    裁判所がこの原則を重視すれば、母親のもとで5年以上も問題なく暮らしている以上、母親が親権を持つ、という結論になる。実際、この裁判でも母親側は、慣れ親しんだ環境から引き離すのは娘によくない、と主張した。

    決定的だった面会交流の差

    父親は、それでも親権をあきらめなかった。

    もともと娘との関係は良く、それは母親も認めていた。父親は元気な祖父母と同居していて、子育てのサポートも十分得られる。

    父母の決定的な違いは、親子の面会交流に対する姿勢だった。

    母親は「月1回、2時間程度、監視付きで父と子の面会を認める」と提案していた。

    父親が提案した面会交流の計画は、それを圧倒的に上回るものだった。

    隔週末の48時間を基本に、ゴールデンウィークや年末、夏休みには1、2週間連続での交流を認めるなど、年間100日に及ぶプランを立てた。さらに、もしそれが守られなかった場合、親権を変更することも約束した。

    なぜ「年間100日」だったのか

    「年間100日」は、親権を獲得するための大盤振る舞いではなかった。

    父親の代理人をつとめる上野晃弁護士によると、「年間100日」は、離婚後の共同親権が認められているアメリカなどでは、基準の一つになっているという。

    面会交流は、親の離婚を経験した子供にとって、大きな意味を持つ。「子どもが、両親から愛されていると確信するために、離婚後はよりいっそう両親とかかわることが重要」という研究もある。

    アメリカでは、単独親権が得られない父親たちが運動を繰り広げた結果、1979年にカリフォルニア州法が成立したことをきっかけに、離婚後の共同親権という考え方が広まった。

    しかし、日本ではそうした考え方はまだ浸透していない。日本のルールでは、父か母のどちらが親権を持つのかを決めないと、離婚届が受理されない。

    父親はこう話す。

    「いくら私が妻を嫌いでも、娘からしてみれば大切な母親です。夫婦間の感情で、親子関係を断ち切ってしまうのはおかしい」

    「娘のために、両親から愛情を受けて育ったと感じられる環境を作りたい」

    「大岡裁きのような判決」

    千葉家裁の庄司裁判官は、母親の提案について「監視付面会交流が子の利益に適わないことは自明」と指摘。さらに「慣れ親しんだ環境から娘を引き離すのはよくない」という懸念を、「杞憂にすぎない」と切り捨てた。

    そして、父親の受け入れ態勢や計画などを踏まえると、娘が「両親の愛情を受けて健全に成長」するためには、父親を親権者にするべきだとして、判決確定後、直ちに母親に娘を引き渡すよう命じた。

    判決を受け、記者会見した父親は「6年前に別れる時、娘には『必ず迎えに行く』と約束した。6年もかかって申し訳ないと娘に言いたい」と話した。

    父親の代理人を務める上野晃弁護士は「父母がともに相手と面会させるという中、より交流計画が充実している方に親権を与えたのは画期的」だと判決を評価。「親権をめぐって激しく争う親よりも、寛容な親の方が、子育てをするのにふさわしい。大岡裁きのような判決」と述べた。

    母親側の代理人は、BuzzFeed Newsの取材に「到底承服できる内容ではない。控訴して争う予定だ」と話している。