憲法改正の論点は9条だけじゃない 結婚や男女平等のあり方にも影響?

    「家族」を重視する動き

    夏の国政選挙の争点の一つが、憲法改正。憲法9条に注目が集まることで、隠れてしまっている論点もある。例えば、個人の尊厳と男女平等を定めた憲法24条だ。その憲法24条を「家」を重視する観点から変えようとする動きがあると、警鐘を鳴らす学者がいる。

    日本の右派運動について調査・研究しているモンタナ州立大の山口智美准教授(文化人類学)。5月19日、日弁連主催の講演で指摘した。

    婚姻は2人の合意「のみ」ではダメ?

    憲法24条1項は次のように定めている。

    「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」

    これに対し、安倍晋三首相や多くの有力政治家との関係が指摘されている保守派団体「日本会議」は、「のみ」の2文字を削ろうと主張している。

    日本会議が販売するブックレット「女子の集まる憲法おしゃべりカフェ」では、次のような議論がなされている。

    ・もし、高校生の孫娘が変な男と結婚したいと言い出しても、「未成年の結婚には親の同意が必要」と民法で決まっているから大丈夫。

    ・ところが、このルールは「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」とする憲法24条と合わない。将来、違憲判決が出て、民法が改正されてしまうかもしれない。

    ・だから、憲法を改正して「のみ」を取ったほうがいい。

    では、その通りに「のみ」を取ると、どんな影響があるのか。

    山口さんは「婚姻をするかどうかに、当事者2人以外の意思が入ってくることになる」と話す。結婚を2人だけで決められないのは「恐ろしいこと」と、山口さんは言う。

    自民党の改憲草案との一致

    さらに、このブックレットでは「日本は昔から家族を大切にしてきた国」として、「家族保護条項」を憲法に追加することも提案している。

    この主張は自民党の改憲草案とも一致している。この草案は、憲法24条に次のような文言を加えている。

    「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」

    家族を「縦の系譜を意識する共同体」と捉え、それを日本の伝統と位置づける。そうした考えが、憲法24条改正の動きの背景にあると山口さんは分析する。

    そして、祖父母・親・子と続く、縦の系譜を重視するのは、「戦前の『家制度』の復活を目指しているからではないか」と、山口さんは話す。

    「日常生活に大きな影響」

    憲法改正をめぐる報道は、9条に集中しがちだ。それが様々な論点を覆い隠すことにつながる。

    講演後、山口さんはBuzzFeed Newsに対し、次のように語った。

    「家族保護条項は、右派団体が挙げる憲法改正の重要課題に必ず入っています。もし、こうした改正がなされれば、子育てや介護や生活保護などの社会保障制度、結婚・離婚など、日常生活に大きな影響が出るでしょう」

    「こういう動きがあることは、もっとしっかりと認識されるべきです」