私立の中高一貫校の女性教諭(30代)が、「職場で旧姓を使わせてほしい」と求めた裁判。東京地裁の小野瀬厚裁判長は10月11日、「職場で戸籍上の氏名の使用を求めることには合理性、必要性がある」として、訴えを退けた。女性側は控訴する意向。
これに対し、ネットでは「話が違うのでは」とツッコミが入った。
昨年12月、最高裁大法廷は、夫婦で同じ氏を使わなければいけない夫婦同姓のルールを「合憲」と判断した。その際、根拠の一つとなったのが「婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっている」ことだった。
ちなみに大法廷は、最高裁にいる15人の裁判官が全員で議論する場で、その司法判断は最も重い位置付けにある。昨年12月の判決では、10人が合憲、5人が違憲と意見が分かれた。
最高裁大法廷のロジック
一緒の姓を名乗りたい夫婦にとっては、手続きの煩雑さ、不便さなども気にならないかもしれない。
しかし、様々な事情で、名前を変えたくない人もいる。例えば、自分の名前で信用を築き上げた個人事業主や、自分の名前に愛着がある人たちの中には、名前を変えなければならないなら、結婚をやめる・ためらうといった場合もある。
最高裁判決は、旧姓で築いた個人の社会的な信用、評価を維持するのが困難さや、アイデンティティの喪失感といった問題があることは認めた。
しかし、その一方で、社会的に「通称使用が広まっている」。だから、そうした不利益は「緩和されうる」と判断。最終的に他の事情も考慮したうえで、夫婦同姓が憲法違反ではないと結論づけていた。
言い換えれば、「旧姓が使えるんだから、夫婦同姓ルールでも実質的な不利益は少ないでしょ」というものだ。
ところが今回の判決は・・・
10月11日の東京地裁判決は、「職場で旧姓を通称として使えなくても問題ない」と結論づけた。
戸籍名については、「戸籍制度に支えられたもので、個人を識別する上では、旧姓よりも高い機能がある」とした。
ようは、最高裁判決の根拠の一つが、地裁判決で否定されるという、ねじれた形になったわけだ。
地裁判決が示した「職場での旧姓禁止はOK」を前提とすれば、「職場で旧姓が使えないので、不利益が大きいから、憲法違反だ」ということにもなりかねない。
最高裁判決で原告側の弁護団に名を連ねた打越さく良弁護士は、地裁の判断に首をかしげる。
昨日の東京地裁判決を聞いて、えっ!?と驚きました。
最高裁判決は、夫婦で同じ姓を名乗らなければならない場合の不利益が、通称使用により緩和されているということをあげて、夫婦同姓を合憲としました。昨日の地裁判決は、これと両立しないのではないかと思います。
女性の社会進出が進むにつれ、夫婦どちらも名前を変えないで済むことのメリットが増しています。それなのに昨日の地裁判決は、通称使用が認められない不利益への想像力が微塵もなく、時代に逆行する内容で残念です。
別姓は認められない?
最高裁判決は、本人たちが希望するなら、夫婦別姓で良いとする制度、いわゆる「選択的夫婦別姓」について、合理性がないわけではないと判断している。
なぜ、それではいけないのか?
最高裁の答えは、「国会で議論してルールを作ってください」というものだ。判決文にも、「この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき」という一節がある。
だが、最高裁判決が出た後も、国会内での議論は、必ずしも前向きとは言えない。
夫婦別姓に取り組む議員は与野党問わず超党派で存在する。選択的夫婦別姓制度を認める法案が、野党から提出されてもいる。しかし反対論も根強く、法案が成立するめどは立っていない。