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「私は三菱につぶされました」25歳社員が自殺 両親が三菱電機を提訴

三菱電機側はいじめやパワハラを否定

「私は自殺をします。私は三菱につぶされました」

こう書き残し、三菱電機の新入社員男性Aさん(当時25歳)が2016年11月17日、会社の寮で命を絶った。両親は問題の究明や謝罪を求めたが、会社は遺書に記載があったいじめなどは「一切なかった」と回答した。両親は9月27日、総額1億1800万円の損害賠償を求めて、東京地裁に提訴した。

経緯

両親や代理人によると、Aさんは国立大学の大学院を修了し、2016年4月に三菱電機に入社した。そして6月に情報技術部ソフトウェア製造技術課に配属された。

そして、9月からはプログラミング言語のC、Fortran、Cobolを使ってソフトウェア開発の実作業を始めた。

問題は、Aさんがこの情報分野のプログラマーではなかった、ということだ。大学院での研究は、通信分野のハードウェアの技術改良についてのものだった。

Aさんは会社でプログラミング研修は受けたものの、実務で要求されるレベルは、研修内容を越えるものだった。自ら参考書を購入し、休日に勉強をしていたものの……。

Aさんは仕事についていけず、指導担当だった入社5年目のBさんら、周囲にも馬鹿にされ、絶望したと書き残している。

質問をしても「一瞬画面を見せるぐらい」でちゃんと答えてもらえない。答えられない質問をされた。そして、部署全員の前ではげしく非難された……。

Aさんはこう記している。

「参考書もそうです。誰も何もサポートしてくれないだけでなく、非難。そもそも今まで情報をやってこなかった人間にさせる仕事ではないはずです。5年10年やってる先輩上司が非難しかしないことに絶望しました」

毎朝のミーティングで担当部分を決め、プログラミングの進行状況を厳しくチェックされるような日々……。

亡くなる前日の日付がある、Aさんのノート。

「仕事が順調はうそです。指導のBは協力しない(サーバを使えるようにしない)くせに納期に遅れそうな私をぐちゃぐちゃにひはんします。ストレスで頭がおかしくなりました」

Aさんの母親(48歳)はこう語った。

「息子は、大学で6年間コツコツ努力し、研究を重ねていました。大学院修了時には、大学から表彰され、奨学金も全額返済免除になりました。自慢の息子でした」

三菱電機に就職が叶ったときには、両親、祖父母も含めてみんなで喜んだという。

「11月17日朝9時ごろ、自宅の電話が鳴り、何か胸騒ぎを感じ、電話に出ました。息子の寮の寮母さんからの電話で、息子が亡くなった、自殺したと言っているものでした。思わず叫び、わめき、泣き、気が付くと床を拳で何度も何度も叩き続けていました」

両親は何を求めているのか。

「私たちは、会社に入社してわずか8カ月あまりで、なぜ息子は命を落とすまで追い詰められたのか。その理由が知りたい。そして、二度とこのようなことが起こらないようにしてほしいという思いから、裁判に踏み切りました。会社には、これを機会にぜひ息子のことと正面から向き合ってほしいと願っています」

両親は1カ月以内にAさんの労災申請を、尼崎の労基署にする予定だという。

三菱電機側はいじめやパワハラを否定

一方で、三菱電機側は、両親からの連絡に対して、7月3日に回答書を出した。

そこでは、「深く哀悼の意を申し述べさせていただきます」とする一方で、「上司らはA殿に対し適切な指導をしており、不適切・不合理な指導をしていた事実はありません」とした。

どうして食い違うのか、三菱電機側は次のように回答している。

指導担当のBさんが「激しく非難した」かどうかについては、「他の課員もやりとりを見聞きしていたが、通常の業務」で、「全員の前でといった状況で特定の人を非難することはありませんでした」とした。

そのほかの点についても、次のような回答だった。

「Bは、時には強い口調で指導することもありましたが、人格否定ないしいじめの様な発言をした事実はありませんでした」

「その他所属員が、A殿を非難した事実はありませんでした」

「大学等の専門課程と異なる業務に従事することは通常のことです」


卒業アルバムに笑顔でおさまるAさん。亡くなったのは、ここから1年も経たないうちのことだった。

Aさんの父親(56歳)はこう話した。

「息子の同僚たちと話す機会が一度あったのですが、その時に彼らは口を揃えて『寝ないで考えたけど、自殺した理由はまったく思い当たらなかった』などと話していました。そんなことがありますか。不自然です」

嶋﨑量弁護士は、「極めて誠意がない回答だと思った」と語る。

「遺書を読めば、彼の心の痛みはわかるはずです。大きな期待を抱いて入社した若者が、自ら命を絶った。このことを、会社はどう受け止めているのでしょうか」

三菱電機では、入社したばかりの研究職男性が入社1年後の2014年4月に長時間労働とパワハラでうつ病になり、労災認定されている。なお、この事件の代理人も嶋﨑弁護士だ。

嶋﨑弁護士はこう話していた。

「会社としての労務管理、特にいじめやパワハラを生む企業風土が厳しく問われています」

三菱電機はBuzzFeed Newsの取材に対し、次のようにコメントした。

「あらためてご冥福をお祈りするとともに、ご家族の皆さまにお悔み申し上げます。今後、訴状を確認のうえ、真摯に対応してまいります」


最後に、もし自殺が頭をよぎったら。全国の相談窓口は自殺総合対策推進センターにまとまっている。また、いのちと暮らしの相談ナビは、悩みや条件別に相談窓口を検索することができる。