女子中学生がネット上のなりすましでチケット詐欺 警察もだまされた手口から身を守るには?

    弁護士が挙げた、3つのチェックポイント

    人気アイドルグループのコンサートチケットの売買をめぐって、ネット上で他人になりすまし、金をだまし取った疑いで、京都市の女子中学生(15)が書類送検された。

    産経新聞などによると、今回書類送検された女子中学生は次のように行動した疑いがもたれている。

    女子中学生は、Twitterでチケットを売っていた専門学校生Aさん(21)に、①「8万円でチケットを買う」と約束し、Aさんの名前や口座番号を入手した。

    女子中学生はその後、②Aさんになりすまして新規アカウントを作り、チケット販売を呼びかけた。そして、購入したいと言ってきた女性2人(徳島県と和歌山県)に、それぞれ4万円を「Aさんの口座」へ入金するよう指示した。

    女子中学生は同時に、③ネットのチケット売買サイトに、勝手にAさんの名前でチケットを出品。これをBさん(関東地方)が落札した。

    女子中学生は、④Aさんに対して、Bさんにチケットを送るように指示した。

    その結果は、次のようなものだった。

    ・8万円を受け取ったAさんがBさんにチケットを送った。

    ・Bさんがチケットを受け取って代金を支払った。そのうちの約6万円が販売サイトを通じて女子中学生にわたった。

    ・4万円ずつ支払った2人は、チケットが届かないので、警察に届け出た。


    女子中学生は事件の構造を複雑にすることで、摘発を免れようとしたのかもしれない。もしそうだとしたら、今回は無意味なばかりか、逆に注目を集める結果になってしまったが……。

    それにしても、巻き込まれた方はいい迷惑だ。こうした手口から、一般人が自己防衛する手段はあるのだろうか。

    ネット上のなりすまし事件に詳しい清水陽平弁護士は、3つの選択肢があると話す。

    清水弁護士がまず挙げるのは(1)「取引をしない」というシンプルな選択だ。

    これは確かに一考の余地がある。本当にその取引をしなければならないのか、そもそもに立ち返って、リスクを踏まえて、冷静に考えることも重要だ。

    一方で、取引をする場合はどうか。

    清水弁護士は(2)「取引相手の個人情報をなるべく詳細に確認する」ことを勧める。

    「相手が本当に本人なら、いろいろな詳細情報を出すことができるはずです。たとえば身分証の確認なども可能と思われます。そのようにすれば、なりすましかどうかの判断を付けることができますし、そこまで詳細情報を出してまで詐欺行為をしようとは通常思わないであろうと考えられます」

    確かに、少なくないお金を送るわけだから、本来なら相手の身元はきちんと確かめておきたい。詐欺師が用意周到な場合など例外もあるだろうが、リスクは減らせる。

    また、そのうえで、(3)「身元が確認できた相手以外と取引をしない」ことも重要だという。

    「(3)は、本件の手口のような場合に効果を発揮すると思われます。『お金が入ればいいや』というだけで取引をしてしまうと、その認識がないまま、詐欺の片棒を担がされる状況になってしまうこともありますので」


    ところで、この事件には、もう一つ大きな論点がある。

    徳島県警は当初、Aさんが8万円をだまし取った犯人だと誤認し、2017年5月15日にAさんを逮捕した。Aさんは19日間も勾留されたのち、処分保留で釈放された。

    産経新聞によると、Aさんは当初から、一貫して無罪を主張していた。しかし、「郵便局からチケットを送った」とするAさんの話は、警察に信用されなかった。警察が、Aさんが供述した郵便局を捜索した際に、配達記録が見つからなかったからだという。

    釈放後にAさんは、郵便を出したのが別の局だったと思い出し、そこから取り寄せたチケット配送記録の控えを提出することで、自らの潔白を証明した。

    なぜ最初から……という思いがよぎるが、Aさんが逮捕されたのは今年5月15日で、郵送は半年以上前の昨年8月の話だったことを考えると不思議でもない。何の問題もなく終わったと思っていた取引。印象も薄かったのだろう。

    清水弁護士はこう指摘する。

    「今回の事件は、Aさんの主張を裏付けをきちんととる姿勢を見せれば、書留の差出票や、転売サイトの記録から犯人ではないことに気付くことができたはずであり、見込みだけで進める捜査の危うさを感じます」

    「『なりすまされた』は、よくある言い訳ではありますが、不当な人権侵害が起きないよう、警察には捜査を尽くす義務があり、それを怠っていたと言われても仕方がないでしょう」

    ネットでのなりすましを警察が見抜けなかった事件といえば、2012年に起きた「PC遠隔操作事件」が有名だ。この事件では、「真犯人」が他人のパソコンを乗っ取って遠隔操作し、ネット掲示板に「〜を爆破する」などと犯罪予告の書き込みをした。

    警察はこの偽装を見抜けず、えん罪逮捕が4人も続出。しかも、逮捕者の中にはやってもいない犯行を「自白」させられ、起訴までされた人もいた。

    警察の当初の見立てが誤っていることは珍しくない。特にネットでのなりすましのような案件は、「無罪かもしれない」という観点からの捜査が、もう少し丁寧に行われるべきだろう。