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「私はパンドラの箱を開けたのです」職場改善求めクビになった医師が、病院を提訴

従業員の「過半数代表」に選出されるなど、職員たちの信頼は得ていたが……

医師や職員の職場環境改善を訴えていた勤務医のAさん(男性・50代)が、職場の「過半数代表」に選ばれた2カ月後に解雇された。男性は「解雇は無効だ」と鹿児島地裁に提訴したとして、9月1日に厚生労働省で記者会見を開いた。

Aさんが所属する労働組合・全国医師ユニオンの植山直人さんは、この解雇について「組合員への不当な嫌がらせ。組合活動に対する不当な対抗措置」だとして、「医師の働き方改革に逆行するような事件だ」と話した。

Aさんは会見で次のように訴えた。

「この病院は、非常に素晴らしい医療を提供しています。医療の質については、自慢すべきだと思います。しかし、それが従業員の犠牲の上に成り立つというのは、決して許されることではありません」

裁判では、病院側に解雇の撤回と、未払い賃金など約2700万円の支払いを求めているという。

背景は?

Aさんは2009年6月、この鹿児島市内の病院に雇われた。Aさんは自身について、「いわゆるフリー医師として、各地の病院を渡り歩いてきた」と語る。

さまざまな職場環境を見てきたAさんは、勤務先の病院の職場環境を良くしようと考えた。そして、2012年9月に医局長に就任したころから、医師の時間外労働の改善や、看護・介護・一般職の賃上げなどを病院側に要求してきた。ただ、Aさんの提案が聞き入れられることは、あまりなかったという。

「過半数代表」に

大きな転機になったのが2017年3月14日、職場の選挙で「過半数代表」に選ばれたことだ。この「過半数代表」は、残業などの取り決め「36協定」を結ぶ際、(職場に組合がない場合に)労働者側の代表として意見を出したり、サインをしたりする立場だ。

「36協定」は会社が従業員に残業をさせる際に不可欠な、労働者と会社側の取り決め。36協定を結ばないまま残業をさせると、それは「違法」となってしまう。

Aさんは過半数代表に選ばれた後、36協定の改定に向けて、ほかの従業員から意見・要望を聞こうとした。ところが、病院はこれを拒否。Aさんが抗議すると、病院は1人5分までなど、厳しい制限を付けてきた。

36協定はこうしたやりとりの後、2017年4月20日に結ばれた。

クビを通告

しかし、そのわずか20日後の5月10日、Aさんは会社から就業規則違反を指摘された。そして5月31日、Aさんは「懲戒解雇通知書」を渡されたという。

病院側が挙げた解雇の理由は、たとえば、Aさんが2009年に就職した際に「経歴詐称」をしたというもの。しかし、Aさんは14の勤務先のうち、出向先だった2カ所を省略しただけだと反論する。

また、病院側は「(Aさんが)マスターキーを無許可で持ち出し病院内を2時間徘徊した」とする。しかし、Aさんはそれは業務に使うためで、許可も得ていたとしている。

解雇理由は、そのほかにも5つ挙げられているが、それらは半年〜1年前の出来事で、当時は懲戒されなかったものばかりだという。

Aさんは、自分自身が2016年3月に労働組合・全国医師ユニオンに加入し、組合活動をしたことが「真の解雇理由だ」と主張している。

「私は、もう逃げない」

そもそも、なぜAさんは職場環境の改善活動を始めたのか。その理由について、Aさんは次のように話していた。

「現場で働いている人たちの主張を、病院側に聞いてもらいたい。そして、一緒に良い病院を作っていって、患者さんに喜ばれる地域医療をこれからも続けていこう。そういう意図でした」

「しかし、病院側にとって、私は単なる異物だったんだと思います」

「私にとって一番簡単なのは『こんな病院はいやだ』と言って次の病院に移ることです。私はこれまでそうしてきました。でも、私はもう逃げない」

こうしたことから、Aさんは「解雇は無効だ」として、6月30日に鹿児島地裁に提訴した。Aさんが支払いを求めた金額には、過去2年分の残業代の未払い分、約900万円も含まれている。

「私たち医師はこれまで、当直の残業代を我慢してきました。わざと病院側に残業代を請求しなかったんです。だけど、今回、彼らが一方的に私たちの協調関係を破るようなことをしました。だから、私はパンドラの箱を開けたのです」

BuzzFeed Newsは、病院側にも取材を申し込んでいる。

バズフィード・ジャパン ニュース記者

Kazuki Watanabeに連絡する メールアドレス:Kazuki.Watanabe@buzzfeed.com.

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