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会社を辞めた若手IT技術者が「研修費用60万円を返せ」と訴えられた話

会社側と元社員側、お互いの言い分は真っ向から対立している。

ITエンジニアの男性(32歳)は2016年3月末、都内のIT企業を退職した。すると2016年10月5日、男性は「貸し付けた研修費用、約60万円を返せ」と会社側から訴えられた。男性は返済義務がないと反論し、2017年2月に逆に会社を訴え、東京地裁で裁判になっている。

何が起きているのか。

経緯はこうだ。

この男性は、IT系専門学校を2006年3月に卒業し、ウェブデザイナーとして働いていた。男性は結婚して子どもが生まれたことなどもあり、転職を決意。2015年初めに「未経験者歓迎」のネットワークエンジニア募集の広告を見て応募し、2015年4月1日に正社員として都内のIT企業に採用された。

男性はこの時、他の企業から、年収が50万円以上高い条件で内定をもらっていたとBuzzFeed Newsに話した。しかし、より研修制度が充実していると感じたので、この企業の方を選んだのだという。

この会社は、大手サイトの求人広告で次のようにうたっていた。

「未経験からはじめられる」

「『ネットワークって何?』というあなたのために、入社後2カ月の研修期間があります」

「入社後2カ月は研修センターで教育を受けて頂きます」

ウェブデザイナーとしての道を断念し、ネットワークエンジニアとして新たな一歩を踏み出そうとしていた男性にとって、このような言葉は魅力的に映ったのだという。

「有料」だった研修

ところが、男性は入社が決まった後に、この研修が「有料」だったと知って驚いたという。男性が見た求人サイト上では、研修については大々的にアピールしてあったが、研修が有料であることや借り入れや返済のルールについては、全く書かれていなかった。

2015年4月6日に示された「研修に関する誓約」には、「ネットワーク基礎」「CCNA資格取得コース」などとして、研修費56万8500円を自分が「無利子で借り受ける」と書かれていた。

ただし、この費用は男性が退職するまで、毎月60分の1ずつ支払ったとみなす……つまり60カ月(5年)在籍すれば無償になるという契約だった。

男性としては、この書類に「サインせざるを得ない状況だった」と話す。

当時、他社の内定を蹴って、入社を決めた後だった。同じタイミングで入社した同期8人もみなサインをしていた。男性は中途入社で配属先も決まっており、その状態では研修を断れないと感じた、というのが男性の話だ。

また、同社の就業規則の「教育訓練」を定めた部分には、こう書かれているという。

従業員は、会社が行う教育訓練には必ず参加しなければならない。

一方、会社側の言い分は違う。

同社代表は、BuzzFeed Newsの取材に応じ、「研修が有料で、受けるかどうかも任意であることは、入社前に十分説明しています」と強調した。

会社側の代理人弁護士はBuzzFeed Newsの取材に対し、この制度は通常の社内研修ではなく、エンジニアとして働くための資格を取得する「社外研修」で、受けるかどうかは任意だと話す。会社に5年間在籍すれば研修費用を支払わなくて済むため、社員側にもメリットがあると指摘する。

さらに、この男性については2015年4月1日付の「内定者重要事項確認書」で、「研修補助制度について確認しました」とチェックしているという。

ただ、大手求人サイトに出ていた同社の求人広告数件をBuzzFeed Newsが確認したところ、研修制度の充実をアピールする一方で貸付や返済の仕組みの説明はなかった。

BuzzFeed Newsが「求人広告でも内容をきちんと説明したほうが良いのではないか」と尋ねたところ、代理人弁護士は「求人広告の記載については改善する方向で検討中だ」と話した。

なお、同社代表や代理人弁護士によると、過去にも同様の訴訟は数件あったが、すべて和解済みで、ほとんどは元社員が会社側にお金を支払う形で解決したという。

男性側も「反訴」

男性側は、研修は関連会社の実施している「自前」のもので、就業規則でも定められているとおり義務だったと主張している。そして、今回のような契約は労働基準法16条や14条に反して無効なので、研修費用を支払う義務はないと反論している。さらに2016年2月、裁判を起こされて精神的な苦痛を被ったとして慰謝料と未払い賃金の支払いを求めて、会社側を逆に訴えた。

男性とその代理人の笠置裕亮弁護士は8月2日、厚生労働省で記者会見した。代理人はこの契約が「労働者の足止めがねらいだ」と指摘。「このような契約が有効だとされれば、職業選択の自由や、業界内での公平な競争が害されかねません」と述べた。

業者側と男性側の主張はこのように、真っ向から対立している。裁判所はどのような判断を下すのか。

バズフィード・ジャパン ニュース記者

Kazuki Watanabeに連絡する メールアドレス:Kazuki.Watanabe@buzzfeed.com.

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