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「有給休暇を取った」河合塾講師の年収が激減した話

世界史講師の岡田浩一さん「予備校講師の権利を守るため、裁判を決意した」

有給休暇、とれてますか?

大手予備校の河合塾で講師をしていた岡田浩一さん(58)は今年3月、「2017年度から授業を減らす」と宣告された。受け入れなければ、契約は終わりだ、という。岡田さんは2016年、90分授業を週6コマ、150分授業を週2コマ持っていた。このうち90分授業を週2コマ減らす——これは年収でいうと90万円近い減額になる。

1994年に採用された後、ずっと河合塾で世界史講師の仕事を続けてきた。今回、2コマ減らされた表向きの理由は、「授業のアンケート結果」と「塾内で許可なく文書を配ったことの懲戒処分」だった。

だが、岡田さんには、ほかに思い当たる節があった。岡田さんはこのところ、河合塾の講師の「働かされ方」に疑問を持ち、あれこれと会社側に注文をつけていたからだ。

たとえば、岡田さんは2016年に25回、有給休暇を取った。

岡田さんは河合塾と1年更新の「雇用契約」を結んでいた。そこでは「有給休暇:有り」と明記されている。

だが、岡田さんによると、「有給休暇は、体調不良や冠婚葬祭以外に、事実上取得できない状況」だという。

塾講師が休むというのは、どれほど難しいことなのか?

10年以上前の話だというが、岡田さんは妻が乳がんになり、手術に立ち会うことになった。手術の日程そのものは授業とかぶってはいなかったが、もし、不測の事態になれば、授業を休むことになるかもしれない。そこで、あらかじめ授業を休講にしてほしいと要望したが、「休講は許可できない」と拒否された経験がある。

また、ある講師からは、妻の出産に立ち会いたいと要望しようとしたところ、校舎長から「評価が下がる」「言わない方が良い」と言われて断念したというエピソードも聞いたという。

この2件のエピソードの当時は、契約形態が「業務委託」だったため、「有給休暇」は付与されていなかった。だが、「休みにくさという意味では、変わっていない」と岡田さんは言う。

そもそも塾講師の場合、有給休暇を取れば、イコール「授業を休む」ことになる。生徒にも迷惑がかかり、講師から積極的には取得しにくいものだ。だが、会社側から積極的・計画的に有休を消化しろといった指導を受けた覚えはない。

これでは「絵に描いた餅」だ。

岡田さんはそう考えて、折々に有給を取りやすくすることを要望し、改善提案などをしてきたが、聞き入れられなかった。そのためあえて、「問題提起」として、実際に有休を取るという行動に出た。

25回の取得は、前もって河合塾側に相談して許可を得た上での取得だった。生徒側に迷惑をかけないように配慮し、毎週木曜日の授業を休むという形にして、代替の講師を用意してもらったという。

こうした行動に出たのは「おそらく、私が初めてだと思います」と岡田さんは話す。

「世間でも話題になっていますが、いわゆるオフィスワーカーと違う形で働く労働者が、どのような形で有給休暇を取得するのかを、もっと考える必要があるのではないでしょうか」

目をつけられた?

岡田さんは他にも、生徒を「お客様」とは呼ばない方が良いのではないかと提案したり、講師向けの飲料自販機が有料になったことに抗議したりと、あれこれと異議を唱えたりしていた。

許可なく文書を配ったというのも、実は「自分の名刺の裏面」に「河合塾に労使協議会をつくりましょう! 河合弘登理事長は愛知県労働委員会の命令を実行して法令を遵守してください!」などと書いていた、という話だった。

雇い止めと同じ?

岡田さんは「元の条件で契約すべきだ」と訴えて、2コマ減での契約は結ばず、7月14日、東京地裁に裁判を起こした。「予備校講師の権利を守るため、裁判を決意した」と岡田さんは言う。

有期雇用の契約を、雇う側が一方的に更新しないことを、「雇い止め」という。

契約を更新するかどうかは、通常であれば、お互いの考え次第ということになっている。

ただし、有期雇用契約が反復継続されてきた場合には、雇い止めをするために「客観的に合理的な理由」が必要で、さらにそれが「社会通念上相当」でなくてはならない。条件をクリアしない雇い止めは無効となり、従前の条件で契約が結ばれたものとみなす。こういうルールが労働契約法19条で定められている。

岡田さんの代理人、指宿昭一弁護士は「今回のケースはまさにこれだ」と主張する。

一方、河合塾の広報担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「訴状が届いていませんので、現時点ではコメントを差し控えさせていただきます」としていた。

有給休暇は労働者の権利だが、厚労省の平成28年就労条件総合調査によると、取得率は48.7%しかない。有休取得率の向上は社会的な課題になっている。