「北朝鮮がICBM発射実験に初成功」が持つ意味とは? 専門家に聞いた

    米本土に届くミサイルが、ついに開発されたのだろうか?

    北朝鮮の国営メディア・朝鮮中央ニュースは4日午後、北朝鮮が「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に初成功した」と報じた。

    北朝鮮は4日午前9時39分ごろ、平安北道から日本海に向かって弾道ミサイル1発を発射した。日本政府によると、ミサイルは約40分間飛んだあと、日本の排他的経済水域内(EEZ)に落下したと見られている。

    朝鮮中央ニュースの放送で、北朝鮮はこのミサイルが「火星14」で、「頂点高度2802キロまで上昇し、933キロを飛行した」と発表した。

    一方、ロイター通信によると、 米太平洋軍は、今回のミサイルについて、ICBMよりも射程距離の短い「地上発射型の中距離弾道ミサイル」だと発表した。「北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)が分析し、北米への脅威はないと判断した」としている。

    この状況をどう見るべきか。静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之さんに聞いた。

    西さんは次のように分析する。

    「ミサイル開発は、北朝鮮が金正恩体制になってから加速しています。焦点の一つが、アメリカ本土に届くミサイルの開発です。アメリカ本土に届くミサイルを手に入れれば、アメリカ政府と交渉したり、アメリカの軍事行動を抑止するのに、大きな意味があるからです」

    米本土に届くミサイルが、ついに開発されたのだろうか?

    「仮に今日発表された数字が、このミサイルの性能限界であるなら、今のところアメリカ本土には届かないと考えられます」

    「射程距離を一番長く試算しても6700キロだと考えられるからです。アメリカ本土は8000キロ以上離れています。6700キロだと、アラスカ州には届くけれども、ハワイの主な島には届かない距離です。さらに今回の発射では、弾頭の分離が確認されておらず、兵器として完成された状態ではないとみられます」

    そもそも、北朝鮮のミサイル開発状況はどうなっているのか。西さんに基本的なところから、詳しく聞いた。


    ——そもそもミサイルとは何でしょうか?

    ざっくり言うと、「無人で離れたところまで片道飛行してターゲットを攻撃する兵器で、発射後も操縦がされるもの」です。

    ——巡航ミサイル、弾道ミサイル……いろいろあるようですが、違いがわかりません。

    巡航ミサイルは「飛行機のように、ジェットエンジンで大気中を飛ぶミサイル」のことです。

    ちなみに、北朝鮮が6月8日に発射して200キロほど飛行した地対艦ミサイルも、巡航ミサイルです。

    一方、弾道ミサイルは「投げたボールのように、放物線または楕円弧の弾道を描いて飛行するミサイル」のことです。

    弾道ミサイルは、まずロケットでほぼ真上に上昇し、目標に応じた角度に機首を傾けたところでロケットが止まります。その後は、慣性で目標地点まで飛んでいきます。

    ——「人工衛星打ち上げロケット」だけど「事実上の弾道ミサイル」という言葉をよく聞きますが、同じものなのですか?

    ロケット技術は部分的に共通しています。

    ただ、衛星を軌道に乗せる技術よりも、弾道ミサイルを実戦的な状況で発射し、目標近くに落下させる技術のほうが難しいです。

    たとえば弾道ミサイルには、次のようなものが求められます。

    • 命令後できるだけ早く発射できること(即応性)
    • 敵に発見されにくいこと(秘匿性)
    • 車両や潜水艦に載せて移動し発射できること(可搬性)
    • 機内の誘導装置
    • 宇宙空間から大気圏に再突入した際の熱から弾頭を防護すること

    人工衛星の打ち上げであれば、これらは必要ありません。

    ——弾道ミサイルは、どんな種類があるのですか?

    アメリカ政府は、弾道ミサイルを射程距離によって分類しています。

    • 短距離弾道ミサイル(SRBM)=射程距離1000キロメートル未満
    • 準中距離弾道ミサイル(MRBM)=射程距離1000キロ以上3000キロ未満
    • 中距離弾道ミサイル(IRBM)=射程距離3000キロ以上5500キロ未満
    • 大陸間弾道ミサイル(ICBM)=射程距離5500キロ以上

    それとは別に、潜水艦から発射される弾道ミサイルの場合は、射程にかかわらずSLBMと呼ばれるのがふつうです。

    ——北朝鮮のミサイルは、どんな種類があるのですか?

    射程の短い順に挙げますね。(米)はアメリカ政府の呼び名で、(朝)は北朝鮮の呼び名です。

    1. KN–02トクサ(米):射程距離120キロで、韓国の首都圏全域に届く。旧ソ連のSRBMトチカをもとに、固体燃料ミサイルとしては北朝鮮が初めて国産化した。
    2. スカッドB(米)、火星5(朝):射程距離300キロで、韓国の半分以上に届く。1970年代末にエジプトから輸入したソ連製スカッドBを国産化した、北朝鮮初の弾道ミサイル。液体燃料。
    3. スカッドC(米)、火星6(朝):射程距離500キロで、韓国全域と日本の対馬に届く。
    4. KN–18(米):スカッドCの弾頭を分離するようにして動翼を付けた「精密誘導」ミサイル。艦船を攻撃するには索敵・誘導などの支援体制が必要になる。
    5. スカッドER=射程延長型(米)、火星7(朝):射程距離1000キロで、日本の佐世保基地や岩国飛行場にも届く。
    6. ノドン(米):940キロ(搭載量1トン)–1200キロ(搭載量0.4トン)、日本の本土に届く。沖縄を攻撃するには搭載量をさらに減らす必要がある。スカッドCをもとに開発された。
    7. KN–11(米)、北極星1号(朝):潜水艦に搭載されるSLBMで、射程距離は1250キロあり、日本の本土に届く。より遠くの目標を攻撃するには、発見されにくい潜水艦への配備が必要。開発中に液体燃料ロケットを固体燃料ロケットに変更した。
    8. KN–15(米)、北極星2号(朝):射程は1250キロ、日本の本土に届く。北朝鮮は「号」にあたる字を北極星シリーズには用い、火星シリーズには用いていない。
    9. KN–10ムスダン(米)、火星10(朝):射程は3000キロ。北朝鮮からグアムを攻撃するには射程が300–500キロ足りない。迎撃が難しい高高度(ロフテッド軌道)へ弾頭を打ち上げて日本列島を攻撃できる。旧ソ連の液体燃料SLBM R–27をもとに開発された。
    10. KN–17(米)、火星12(朝):射程は5000キロ、グアムにも届く。国産の液体燃料ロケットエンジンを使用。
    11. KN–08(米)、火星13(朝):ICBMで、米本土への脅威とされている。軍事パレードに登場し、金正恩氏が工場を視察する映像も公開されたが、試射されていない。
    12. KN–14(米)、火星14(朝):ICBMで、米本土への脅威とされている。


    ——1998年や2006年に発射されたテポドンはどうなったのでしょうか?

    より強力なエンジンが実用化されたため、ミサイルとして配備されていません。


    北朝鮮は今回、発射したミサイルを「火星14」と呼んでいる。

    しかし、西さんによると、これは過去に北朝鮮が「火星14」と呼んでいたミサイルとは違うものの可能性があるという。

    「これまで北朝鮮の対南宣伝サイト『ウリミンジョクキリ(われわれ民族同士)』が火星14と呼んでいたミサイルは、今回7月4日に火星14として試射されたミサイルとは、外見が異なります」

    繰り返しになるが、今回、発射されたものは、おそらくアメリカ本土には届かなさそうだという。では、アメリカ本土に届くミサイルを北朝鮮が開発する可能性はあるのだろうか?

    西さんは次のように話していた。

    「金正恩時代になってからは、ミサイル開発が加速しています。このままだと1年以内に、アメリカ東部まで届くミサイルが開発される可能性があります」