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「日本からマタハラがなくなればいい」JALの客室乗務員、裁判で「完全勝利和解」

「日本航空では妊娠による一方的な無給休職はなくなります」

日本航空(JAL)の客室乗務員・神野知子さん(42歳)は、妊娠したため地上勤務がしたいと申し出た。ところが、JAL側は拒否して無給での休職を命じた。神野さんはこれが妊娠を理由とするマタハラだとして、東京地裁(佐々木宗啓裁判長)に訴えた。この裁判で和解が成立したとして、神野さん側が6月28日、東京・霞が関の司法クラブで記者会見した。

神野さんは体調不良で会見を欠席したが、書面で次のようにコメントした。

「私たちは完全勝利和解だと思っています。この解決により、日本航空では妊娠による一方的な無給休職はなくなります。2年前、裁判を始めるのはとても勇気のいることでしたが、その時の私の想いと願いが叶い、今日、このような解決を迎えられたことを心から嬉しく思っています」

裁判の経緯を振り返る。

神野さんは2014年8月25日、妊娠しているのがわかったとして、子どもが生まれるまでの期間、地上勤務(産前地上勤務)を申請した。

ところが9月5日、会社側はこれを拒否して、無給休職するよう命じた。

この「無給休職」には、次のような問題点があったと、代理人の竹村和也弁護士は指摘する。

  • 賞与計算で不利。
  • 勤続年数に数えられない。
  • バイトできない。
  • 社宅から出ないといけない。

裁判の前提として、JALには次のような社内ルールがあった。

  1. 妊娠した場合、乗務できない。
  2. 1980年に産前地上勤務制度ができた。
  3. ところが2008年、会社が許可しなければ、産前地上勤務に就けなくなった。

2014年の段階で、客室乗務員の数は約4900人。ところが許可する枠は「たった9枠」しかなかった。

裁判での主張

神野さん側は、裁判で次のように訴えていた。

  • 産前地上勤務に「会社の許可がいる」のは、違法・無効だ(労基法65条3項 & 均等法9条3項違反)。
  • 休職命令は違法・無効だ(大企業であるJALは配置先を準備できたはず)。

一方、JAL側の主張は次のようなものだった。

  • 客室乗務員の仕事は、飛行機の乗務に限定されている。
  • 妊娠によって乗務できなくなるのは、客室乗務員側の責任だ。

佐々木宗啓裁判長は2017年1月の尋問で、会社側の証人にこう、問いかけたという。

「あなたが産前地上勤務を拒否されて、休職させられて、住んでいた場所を出る人だとして、次はどうやって生活していくというふうに算段しますか」

「活躍するって、どう活躍するわけ。端的に聞きたいのは、退職させるためのシステムに見えるんでね」

竹村弁護士は「裁判長には、神野さんの訴えが届いていた」と振り返る。

神野さんがこの裁判を起こしたあと、産前地上勤務制度の運用は次のように変化してきた。

  • 産前地上勤務の枠が増えた。
  • 社宅から退去しなくてよくなった(2015年10月)。
  • 産前地上勤務の時短勤務を導入(2016年4月)。
  • 希望者全員が産前地上勤務に付けるようにする、と発表(2017年3月)。

そしてたどり着いたのが、今回の「勝利的和解」だった。

「勝利的和解」のポイント

  • JALは、妊娠した人が申請した場合、原則として全員を、産前地上勤務に就けるようにすること(2017年度以降)。
  • 産前地上勤務の間は、時短勤務か通常勤務を選べるようにすること(2018年4月〜10月に開始)。

竹村弁護士は「これは制度を変えるための裁判だった」と振り返る。「他の航空会社は、産前地上勤務につけないケースがほとんど」「このケースが波及することを期待します」と期待した。

神野さんの友人で、現役客室乗務員の藤原真美さん(42歳)は、1歳の子どもを伴って会見し、「神野さんが裁判をしてくれたおかげで制度が変わって、私は無事に産前地上勤務に就けました。今は育休を経て乗務員として復帰しています。職場は心から喜んでいます」と涙ながらに感謝を述べた。

JAL側はマスコミ各社に対し、次のようにコメントした。

「会社の先進的な制度(他社にはないもの)が和解で確認された。当社としては、今後ともこの制度を率先して充実していきたいと考えている」

神野さんは和解に際し、次のようなメッセージを出していた。

「妊娠を理由に一方的に無給休職にさせられるのはマタニティハラスメントであり、この実態を何とか改善したい。私と同じように辛い思いをする妊婦を二度と出してはならない。誰もが安心して妊娠・出産できる職場になってほしい、という思いから始めた裁判でした」

「裁判が始まってからは、社内だけでなく全国から支援の声をいただきました。マタニティハラスメントという言葉は今では広く知られていますが、妊娠による様々な不利益、差別などで辛い思いをしながらも泣き寝入りするしかない人たちが世の中にはまだまだ大勢いることを知りました」

「日本全体からマタハラがなくなれば良いと思っています。そして、マタハラを経験して辛い思いをしている方々が少しでも元気になってくださればと思っています」