「同性カップルの里親」はこうやって誕生した。立役者が語った「舞台裏」

「できない」は、思い込みじゃないのか?

大阪の同性カップルが「里親」と認定され、子どもを育て始めた——。そんなニュースがこの4月、全国を駆け巡った。突然、降ってわいたように見える話だが、その背景には、あるNPOの活動があった。LGBTを里親と認めるよう活動してきた一般社団法人「レインボーフォスターケア」の藤めぐみ代表に話を聞いた。

大きな誤解

私は2013年、「同性カップルも里親に」と掲げ、レインボーフォスターケアを立ち上げました。

そのとき、一番多かった反応は、「法律を変えなきゃ無理だよ」「どうせ法改正をするなら、同性婚の実現をめざす方がいい」というものでした。

LGBTが里親として子育てをすることに、おおむね賛成という人たちですら、そうした認識でした。

これは大きな誤解でした。

実は、もともと法律上は、同性カップルも里親になれるんです。

過去に児童虐待をした人はダメとか、養育についての熱意がないとダメといった法令はあります。でも、同性カップルがダメとはどこにも書いていないんですね。

だから私としては、LGBTの里親認定は、現場の意識さえ変われば、すぐにでも実現できると考えました。

あまり知られていなかった「里親」制度

でも、「法改正が必要」という誤解をとくのは、簡単なことではありませんでした。

いくら「法律上は大丈夫ですよ」と説明しても、なかなか信用してもらえない。日本を見渡しても、私の他にそういう活動をしているNPOはありませんでした。そうした議論をしている法律家もいませんでした。

そもそも里親は、日本ではそこまで一般的に知られている制度ではありません。「特別養子縁組」との勘違いも多い。

里親は、18歳になるまでの一定期間だけ、子どもをあずかって育てる制度。特別養子縁組は、生まれたときの親との関係をたち切って、新たな親子関係をつくるもの。かなり違いますよね。

だから里親の要件は、養子縁組よりも緩やかです。シングルファザー、シングルマザー、成人した子と母の組み合わせなど、いろんな里親が子どもを育てています。

変化

それでも、活動を始めると、さまざまな情報が寄せられるようになりました。

里親になろうとした同性カップルからは、「役所に行ったら、『夫婦であることが条件』と断られた」といった声が寄せられました。

中には、差別的な態度で断られたというケースまでありました。

そんな風に言われ、「法律を変えなきゃ無理だな」と諦めている当事者もいました。

こういう状況下で私が考えたのは、「もしかして、自治体側も『法律を変えなきゃダメ』と思い込んでいるのではないか?」ということでした。

厚労省は「家庭的養護の推進」を掲げ、里親を増やそうとしています。差別や思い込みによって、同性カップルが里親になれないのは、大きな機会ロスです。

わたしは「法改正しなくても、運用を変えるだけで里親認定はできると、広く伝えるべきだ」と考えるようになりました。

同性カップルの子育てって?

私の周りには、離婚した後、自分の子どもを同性パートナーと一緒に育てている人もいます。また、女性カップルが、精子提供を受けて出産した子どもを育てているケースもあります。

彼らは、ごくごく普通の子育てをしています。同性カップルだから、子育てが他人と違うわけではありません。ごく普通に、子どもに愛情を持ち、子どもとぶつかり合いながら、子育てをしている。何がどう違うかということもない。

片方に親権がないというような違いはありますが、これは同性カップル側の課題ではなく、早急に解決すべき国の課題です。

私がシアトルで会った女性カップルは、里親として、心に傷を負った子どもたちを何人も育て上げ、地域で尊敬されていました。彼女たちに育てられている子どもと会いましたが、とても安心して暮らしている様子でした。

私はその姿に、深く感銘を受けました。かっこいい人たちだな、こういう人が日本にも増えればいいのに、と思ったんです。

アメリカでは、LGBTの子どもをLGBTが預かるケース、男性を怖がる女の子を女性カップルが預かるケースもあると聞きました。

そうしなければいけない、というわけではなくて、「いろいろな子どもがいるのだから、里親の候補としても、いろいろな大人がいたほうがいい」と確信しました。つまり、子どもの選択肢を増やすべきだと思ったんです。

難解な方程式

では、どうしたらいいのか。法律改正なら、まずは国会議員に働きかけることになります。

しかし、自治体の運用面での問題となると、ブラックボックスです。個々の自治体に聞いてみるまで、何が起こっているかはわかりません。

「断られた事例」を集めて、問題提起をしようとしましたが、なかなかうまくいきませんでした。

こういう時の社会運動はどう進めればいいのか。

悩ましかった。この難解な方程式をどう解くか。

モデルケース

里親事業を行っている自治体は全国に69もあります。すべてに働きかけるのは、手が足りません。

そこで、どこかの自治体に「同性カップルも里親になれます」と、広報してもらえないかと考えました。自治体が呼びかけていれば、当事者も他の自治体も耳を傾けてくれます。

そこで私は、大阪市淀川区に足を運びました。区長がLGBT施策に熱心で、2013年に「LGBT支援宣言」を発表していたからです。

里親制度の管轄は、都道府県(もしくは政令指定都市)ですから、淀川区のみで運用を変えることはできません。それでもLGBT支援に前向きなところに話を聞いてもらえれば、何か突破口が開くかもしれないと考えたのです。

淀川区の本気度

淀川区の「支援宣言」はどこまで本気なのか、一抹の不安もありましたが、それは榊正文区長や職員さんに会ったとたん、吹き飛びました。

榊区長、職員さんは性的マイノリティについて知識があり、問題意識もあった。社会的養護についても勉強されていたので、すぐにわかり合えました。

私が強く要望したのは次のことです。

「LGBTも里親になれると、広報してください。ウェブサイトに一行載せるだけでもいいんです」

大阪市と……2時間の激論

といっても、直接的に里親制度を担うのは、淀川区ではなく大阪市です。次のステップは、大阪市こども相談センター職員との意見交換会でした。淀川区に話をしてから、意見交換会の実現まで、約1年という月日がかかりました。

その場で与えられた時間は、2時間。センター職員とは激論を交わす場面もありました。でも、最後はわかりあえたと感じました。

最後に効いたのは、LGBT当事者、児童養護施設の職員、里親、さまざまな人たちの意見を集約して作った資料だったと思います。

それが、この「さとおやオピニオン」です。

「LGBT当事者を排除することは絶対にありません」

その数週間後、淀川区のLGBT支援事業ニュースレター「虹色ニュース!」2015年9月号で、次のようなセンター側のメッセージが発信されました。

・里親として適任者であれば、差別や偏見でもってLGBT当事者を排除することは絶対にありません。

・わたしたち(こども相談センター)を信用してください! 

・まずは、直接、相談に来てください!

これは「サイトに一行でいい」という、当初の私の要望を大きく上回るものです。

自治体がLGBTの里親に扉を開いた、画期的な瞬間でした。

大阪の「男性カップル」

その呼びかけに応じたのが、今回報道された男性カップルでした。扉が開いていれば、当事者は手を挙げやすくなります。

大阪市がメッセージを出し、同性カップルが手を挙げ、実際に子どもが預けられた。あらたな「家庭」が生まれた瞬間を目の当たりにして、「運用が変わる」とはこういうことだ、と体感できました。

東京都

ただ、全国的には、大阪のようなケースばかりではありません。現在、東京都には、里親候補から同性カップルを実質的に排除する基準があります。

私は2016年、LGBT当事者と東京都とが開いた意見交換会で、「東京都はなぜ、同性カップルを『里親認定基準』から排除しているのか」と質問しました。残念ながら、そのときの東京都の回答は、淡々と基準を読みあげるだけの、冷たいものでした。

毎日新聞は4月16日、「全国の自治体に調査したところ、東京都だけが同性カップルを実質的に里親に認定しない基準を設けていることが分かった」と報じています。

東京都はこの記事で、毎日新聞の取材に「民法で結婚が認められないなど、まだ社会制度の整備が進んでいない。子どもの受け止め方や成長過程での影響が分からないため、慎重に検討したい」と回答しています。

何度でも言いますが、里親は結婚とは無関係です。里親には、結婚をしていない人もいますし、「親子で里親」という人もいます。東京都は「影響が分からない」と言い放つのではなくて、こうした現状に目を向けて考えてほしい。

報道のインパクト

今回の件については、厚生労働大臣が「ありがたい」と発言しました。今後、自治体の運用は、大きく変わる可能性があります。

何と言っても、今回いちばん良かったのは、多くの人が、社会的養護の下で暮らす子どもに思いを馳せ、新しい家族のあり方について考えたことだと思います。

同性カップル、同性カップルの家族たちが、地域で信頼され、特別視されることなく社会に溶け込み、当たり前に生活を営む日が一歩近づいたように感じています。

最初の重たい扉は開きました。

ただ、これで終わりではありません。

親元で暮らせない子どもたちを取り巻く環境を良くするために、多様な人たちが安心して暮らしていくためには、どんな制度が必要なのか。

次の扉を開くために、あきらめずに、声を上げ続けたいと思います。


BuzzFeed Japanは、4月26日より5月9日まで「LGBTウィーク」として、LGBTに焦点をあてた記事やコンテンツを集中的に発信します。



13人に1人は、セクシャル・マイノリティ。これは株式会社電通が2015年、成人約70,000人を対象に調査した結果です。LGBTをはじめとする性の多様性は、そのまま社会の多様性へとつながります。私たちは今回の特集を通じて、多様性をポジティブにとらえる機会を提供したいと考えています。


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バズフィード・ジャパン ニュース記者

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