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スーパー「いなげや」で過労死認定 弁護士が指摘した「タイムカードの矛盾」

タイムカードと閉店作業の記録を突き合わせていくと……。

首都圏に展開するスーパーチェーン「いなげや」の志木柏町店で働いていた男性(当時42歳)の「過労死」を、さいたま労働基準監督署が認定した。遺族の弁護士たちが厚生労働省で記者会見し、明らかにした。労災認定は2016年6月28日。

駐車場で倒れ……。

遺族側によると、男性は1995年に正社員として雇われた。2011年11月に志木柏町店で働き始めた。男性は「チーフ」という立場で、一般食品の発注や棚卸、在庫管理、価格付けなどの仕事をしていた。管理職ではなかった。

男性は2014年5月25日16時ごろ、店舗で勤務中にろれつが回らなくなり、体調不良で救急搬送された。いったん入院していたが、6月2日に仕事に復帰した。

そして6月5日、8時14分〜19時11分まで勤務し、店舗を出た直後、駐車場で倒れているところを客に発見された。雨の中、大きないびきをかきながら、けいれんしていて、周囲の呼びかけにも応じない状況だった。

男性は翌6月6日に病院で、「血栓が体中に回っており意識は戻らない」と診断された。6月21日に脳血栓で死亡した。

「過労死」はどうやって認定されたのか?

今回の事件では、タイムカードの出勤記録に加えて、閉店作業のシートと店舗のセキュリティ記録が残っていた。これが決定的な「証拠」となった。

たとえば発症前の5月19日、男性の出勤記録は7時40分〜18時30分となっていたが、男性は23時13分に閉店作業を担当したことになっていた。「退勤」後もサービス残業をしていた可能性が高い。

弁護側の指摘に基づいて、労働基準監督署があらためて調査した結果によると、時間外労働は発症前4カ月目には96時間35分。発症前の4カ月平均で75時間53分だったと認定された。そのほかにも「日・時間が特定できない労働時間がある」と推定し、過労死を認定した。

「労働時間は、もっと多いはずだ」と弁護士

遺族側代理人の嶋﨑量弁護士は「わたしたちが探偵のような調査をして、ようやく出てきたのがこの時間です。これが全ての労働時間だったとは考えていません」と述べ、本来の時間はもっと多いはずだと強調した。

代理人によると、この店では労働時間が適切に管理されていなかった。従業員たちがタイムカード打刻前・打刻後にサービス残業をしていたことを確認したという。

従業員は本来よりも早く出勤し、シフト上の時間が来るまでは記録を付けずに働いていた。働いている間に、うっかり打刻を忘れないために、目覚ましアラームをセットしていたという。

嶋﨑弁護士は、国の「働き方改革」で、労働時間の上限規制が話し合われているが、企業に労働時間を記録する義務を課さなければ、そうしたルールも絵に描いた餅になってしまうと指摘した。

「まさか死ぬとは思わなかったですか?」

遺族側は、会社側に1億5000万円の損害賠償や謝罪、職場環境改善を求めて交渉を申し込んだという。

遺族は弁護士を通じてコメントを発表した。

《年に数回の帰省で話を聞く限り、連日に及ぶ異常な長時間労働に従事していたことは明らかでした。

突然、自分の家族を亡くした悲しみは深まり、今も心の傷が癒えません。

違法な長時間労働を目的にタイムカードを強制的に打刻させた後に、サービス残業を強要させるなどの違法行為は、過労死遺族として猛烈な怒りを感じます。

「いなげやさん」長時間労働を命令したのは誰ですか?

まさか死ぬとは思わなかったですか?

またかけがえのない命が奪われないよう過労死は私たちの家族が最後であってほしい。》

2003年にも過労死認定

なお、「いなげや」の店舗では、2003年10月にも従業員が過労自殺し、後に労災認定されている。

過労死認定や時間外労働の実態などについて、BuzzFeed Newsが取材を申し込んだところ、同社は「調べてからコメントする」と回答した。