「アメリカ人になりたい」働く移民たちの望みと尊厳を伝える写真家

    ジョー・バイデン氏の選挙キャンペーンにもその作品が使われた、写真家のサム・コメン氏。彼はポートレートを通して、移民の威厳と誇りを伝え続けている。

    ロサンゼルスを拠点に活動する写真家サム・コメン氏は、移民労働者に焦点をあてたプロジェクト「Working America」(働くアメリカ)で作品を発信している。

    2年以上前から、彼はこのシリーズに着手している。20世紀は、移民によるスモールビジネスが当たり前だった。しかし時代が移行している今も、移民による仕事がいまだに欠かせないロサンゼルスの現状に、シリーズの着想を得たという。

    シリーズの作品は、アメリカ大統領選で当選を確実にしたジョー・バイデン氏のキャンペーンにも使われた。バイデン氏はコメン氏の作品を用いて、移民政策を説いた。

    BuzzFeed Newsは、「Working America」を通して伝えたいメッセージについて、コメン氏に話を聞いた。

    主に小商いの移民に焦点を当てることを選んだ理由について、教えてください。

    アメリカ先住民の子孫を除き、この大陸では私たちはみんな移民です。ですが、この国は、移民に関して複雑な過去と現在を抱えています。

    我々の社会的・技術的進歩を振り返ると、アメリカの人口・文化の中には外国人を嫌う排外主義者の層が常にいます。

    この企画では、私自身の家族の歴史をじっくりと考えました。

    ユダヤ人として19世紀末に移住してきたとき、白人が重んじる価値観(リスペクタビリティ)の考え方には馴染んだのだろうか。

    また、アメリカのプロテスタントやバプテストの考え方とは、上手くやれたのだろうか。

    ドナルド・トランプ氏は、アメリカ国民の反移民感情を積極的に煽ってきました。

    トランプが可能にした厳格で不寛容な姿勢は、最近国籍を取得したすべての移民とその家族に向けられているわけではなく、非キリスト教徒、あまり財産を持っていない人、特に有色人種に向けられています。

    小商いに焦点を当てたのは、19世紀と20世紀にやって来た移民の人たちの「起業家精神」によって、私たちの国は築かれていったことを思い出させてくれるのではないか、と考えたからです。

    仕事で培われた彼らの「個性」と「忍耐力」を肖像写真では引き出しています。

    彼らは私の曾祖父母のように、「アメリカン・ドリームを通して成功するぞ」という精神に基づいて働いています。

    彼らは、製造者であり、中小企業のサービス提供者であり、磨かれた技能を持つ職人であり、地域経済に貢献している才能を持った勤勉な人々です。小商いを後に残すような、写実的な伝統もあります。

    ドイツの写真家アウグスト・ザンダーは、2つの世界大戦の戦間期にドイツで、仕事、階級、疎外化におけるアイデンティティを記録しようとしたことで有名です。

    アメリカの写真家アーヴィング・ペンは、パリからロンドン、そしてニューヨークへと飛び、労働者の役割を称えるとともに、それぞれの都市の比類な佇まいと外観を伝えようとしました。

    このプロジェクト『Working America』(働くアメリカ)では、そのような過去も称えています。

    同時に、この作品では現代の移民とアメリカの資本主義がぶつかる問題にも取り組んでいます。

    非ヨーロッパ系移民やアメリカ人一世にとって、彼らの仕事は経済的な独立を成し遂げ、アメリカ社会へと受け入れられる真の道なのでしょうか?

    Sam Comen

    「Working America」より、掃除機の修理業を商うエリックさん。

    このプロジェクトのため、何人にインタビューをしましたか?どのように参加者を探したのでしょうか。

    振り返ってみると面白いですね。インタビューは、47回行いました。一度に複数の人と行ったものもあります。

    私の生まれ故郷で、大人になってからも住んでいたロス・フェリズ近郊のお店から始めて、一軒一軒訪ねました。馴染みの店もありましたし、これまで一度も訪れたことのない店もありました。

    対象者と関係を築くため、いつもやっていることがあります。プロジェクトの目的を説明し、尋ねる質問を伝えて、対象者の人たちが共感できるかを確かめました。

    それからすぐに撮影に入ることもあれば、別の日に予定を入れることもありました。ロサンゼルス中の人にアプローチするのに助手も雇い、遠いところも訪問しました。移民や一世の多様なコミュニティと繋がるためです。

    共通していたテーマは何ですか?

    対象者の殆どは、自分自身をアメリカ人と認識し、アメリカ人だと感じていました。「アメリカ」というのは、土地の名前だけではありません。理念でもあるのです。

    機会を求め、貢献し、信じる。どんな仕事をしていようとも、人類は平等で、誰ひとりとして他の人よりも上であることはない。そういう理念が、人をアメリカ人にする。そんな感覚があります。

    彼らは、自分たちの立場が議論を引き起こすことを望んでいません。自分たちのアメリカ人としてのアイデンティティが、論点にならないことを望んでいます。

    「いまだに移民や移民の子孫だと思われることにもどかしさを感じます。私たちは、アメリカ人なのですから」と第一世代のアメリカ人で本屋を営むクリスさんは話してくれました。

    この言葉が、多くの被写体の気持ちを代弁しています。

    もうひとつのテーマは、恩送り(人から受けた恩を、当人に返すのではなく他の人に送ること)です。

    彼らには、「一世」になった親世代の奮闘、犠牲、労働に対する感謝の念がありました。自分たちの子ども世代に、もっと恵まれた機会を与えたい、という思いも伝わりました。

    勤勉に働く、互いに敬う、隣人を愛する、模範となる、努力する。前向きなモットーも共通していました。

    ですが、嫌悪(ヘイト)を投げつけられる経験、関連書類の申請や作成の複雑さ、米移民・関税執行局(ICE)に対する恐怖で、ここ数年はより生きづらくなったと感じる人も複数名いました。そこに触れる価値があると思ったのです。

    Sam Comen

    「Working America」より、本屋を営むクリスさん(左)とジェニーさん(右)。

    プロジェクトの説明で、「"勤勉" が経済的な独立やインクルージョン(包括・包含)への道というのは真実か、という問いに関心がある」と書かれています。このプロジェクトを通して、アメリカ人であるとはどういうことか、アメリカン・ドリームとは何か、というあなたの考えは変わりましたか?

    対象者の多くは、機会が極端に制限されていたり、困難が偏在する場所から来ていたりしました。

    ですから、不寛容な態度に対するストイックさがあり、概してアメリカの方が期待できる場所だと感じているようでした。トランプの言っていることは、他の保守政権が言っていたこととあまり変わらないと言う人もいました。

    しかし、アメリカに来てから逆境に遭ったことがないという人は少数でした。

    人種や階級が経済的な地位の向上に負の影響を及ぼすという私の当初の予測は、対象者の実体験によって現実味を帯びています。

    偏見を抱かれたり、見下されたりして直接被害を受けた人から、比較的容易にまともな生活水準と肯定的な所属意識が持てる仕事を見つけた人まで、その経験は様々でした。

    このような人々の写真を撮ることで、対象者の生活の内部を垣間見て、じっくり考えられるような窓を作れたのではと思います。

    アメリカ人になりたい、ここで成功したいと望んでいる。これはすでに、彼らがアメリカ人であることを意味していると私は考えています。

    米民主党全国委員会(DNC)でご自身の作品が取り上げられたのを見て、どのように思いましたか?

    私の考えとバイデン陣営の移民政策が調和しているのを知り、素晴らしいことだと思いました。

    移民は、私たちアメリカ人の試みの核にあるものだと私は考えています。この国を特別なものにしている、重要な存在です。

    私は、課題を調査し、自分の考えを述べ、他者の考え方を学び、政治、文化、芸術が交差したところで私たちの社会を考察できるように、作品をつくっています。

    作品を人々の前に提示するとき、作品を見た人が私の作品と共鳴し、広めたい衝動に駆られ、もっと問いかけ、共感を駆り立ててくれることを切に願います。

    バイデンのキャンペーンで起きたことはまさにこれで、嬉しいです。

    作品は歴史的な記録でもあると話していましたが、複数の博物館がこの考えに同意しているようです。将来の世代には、この作品をどう見てほしいですか?

    この作品は、有名な写真家たち…ウジェーヌ・アジェ、アウグスト・ザンダー、ドロシア・ラング、アーヴィング・ペンなどが築いた、移民と労働者の体験を芸術的に記録したものへのオマージュであり、それが21世紀初期に続いたものだと捉えてほしいです。

    私が使った高速カラー撮影とスローモーション映像は、この技術革新の時代に合っていると思います。

    道具の移り変わりは(芸術の歴史に)新たな章を生み出しますが、優れた絵や写真を生む構図や照明、表情などの核をなす要素は、変わっていません。

    私たちの消費者文化が推移するにつれ、この作品で取り上げた職業の多くが消えていくことは、確かに考えられます。前述の写真家ペンは、ロンドンの馬車の御者は、通常の職業としてはなくなることを知っていました。だから写真に残したのです。

    同じように、私の作品もタイムカプセルになるでしょう。

    商業主義と安価な生産が、私たちを使い捨て商品、ファストファッション、当日配達サービスへと移行させるときに、修理工には仕事があるでしょうか。仕立職人には仕事があるのでしょうか。

    話しておきたいお気に入りの画像はありますか?

    ひとつを選ぶのは本当に難しいです。

    それぞれが唯一無二で、人を惹きつける物語があり、美しさを秘めているからです。

    肖像画「ヘスース・セラ、皿洗い」は、スミソニアン博物館が開催した2019年度のOutwin Boocheverポートレートコンペティションで第2位を受賞しました。

    Sam Comen

    「Working America」より、「ヘスース・セラ、皿洗い」。

    応募総数2600点、最終選考に残った46点のうち第2位です。同コンペは3年に1度開催のため、2022年までアメリカを巡業します。

    スミソニアン・ナショナル・ポートレート・ギャラリーでラテン系芸術と歴史を担当するキュレーターのタイナ・カラゴル氏が、この肖像画を見事に説明してくれているので引用します。

    「たくさんの調理器具、ステンレススチールを背景に、被写体のまなざしは上を見据え、顔には微かな笑みが浮かんでいて、(モデルの)ヘスース・セラさんは威厳と誇りを伝えています。皿洗いや靴職人など、舞台裏にいる労働者を被写体とした(サム・コメン氏の)写真は、被写体の人たちの社会貢献を認めています」

    これは、まさに私が心から目指しているものです。


    📷「Working America」の作品を詳しく取り上げた記事は、こちらから。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan