最近、Netflixでどハマりしている『Queer Eye(クィア・アイ)」というシリーズがあるので、全力でオススメさせてください。

料理やインテリアなど、各分野のプロフェッショナルであるゲイ5人チーム「ファブ5」が、悩める人を“匠の技”で大変身させる人間改造リアリティ番組なんです。
先日発表されたエミー賞では4部門ノミネート🙌アメリカでも大人気!!

その人が抱えるコンプレックスに向き合い、ダメなところを探して否定するのではなく、愛情を持って「その人らしさ」を肯定してくれるファブ5。
視聴者まで勇気をもらえる最高の番組です。

ときにお茶目に、ときに辛辣に、凝り固まった見方をぶち壊してくれます。
逆に、ファブ5がターゲットとの交流を通して新たな視点を学ぶこともあります。
夢中で観ているうちに、ふとした疑問が浮かびました。


こんな感じで、彼らのセリフには男性的な言葉と、フェミニンな言い回しの、いわゆる“オネエ言葉”っぽい口調が入り混じっています。
本来、英語には日本語の男性・女性言葉のように、明確な「性差」の区別がありません。
では、いったいどのような基準でセリフを訳しているのでしょうか?
Netflixに直接聞いてみよう。
そんな疑問をぶつけてみたところ、Netflixで各言語への吹き替えを担っている日本人スタッフ、インターナショナルダビングチームに所属するプロデューサーの野村麻里子さんが教えてくれました。

「私のチームでは、作品を観て『ショーガイド』というローカリゼーション(各地域への適合作業)の指針となる資料を作っています。ショーガイドには可能な限りキャラクター設定や背景を盛り込みます」
ショーガイドには、かなり先の展開の“ネタバレ要素”まで含むことがあるそう。
たとえば、あるキャラクターが続編で性転換すると決まっているとしたら、それがセリフ回しや声優のキャスティングを大きく左右することもあるからです。
「ちなみに、吹き替えと字幕は切っても切り離せないもの。字幕チームは別でありますが、そこでも私が書いたショーガイドを参考に字幕を作っていますよ」
男性・女性言葉への翻訳の基準とは?
では、日本語吹き替え作業では、いったいどのようにセリフを調整しているのでしょうか。

「『Queer Eye』にはゲイの男性5人が出てきますが、あるキャラクターはフェミニンな感じ、ある人はニュートラル。それぞれ少しずつ違っていますよね」
「そういった雰囲気を反映させるために、そのキャラクターをより的確に表現できる声優をキャストしたり、翻訳もカスタマイズしたりすべきだと、私たちは常に考えています」


「ある程度細かい表現については翻訳者にお任せしていますが、私の場合はショーガイドを書くときに『このキャラクターは、このくらい女性的な口調で』といった指示を入れます」
「吹き替えのキャスト選びも同様。ボイスサンプルを聞いて、役者さんがどのくらいフェミニンな雰囲気を表現できるかも考慮してキャスティングしています」
制作チームとのコミュニケーションで、より自然な翻訳を。
野村さんは「ただ、あくまで私の感じ方はいち意見。必ずしも正しいわけではない」と強調します。そこで、オリジナルのニュアンスを尊重するために欠かせないのが、クリエイターとのコミュニケーションです。
「『クィア・アイ』とは別の作品で、トランスベスタイト(異性装)のキャラクターの三人称を“彼”と“彼女”のどちらで表すか迷ったことがあります」
「見た目は男性だけど、ファッションは女性。クリエイターに相談したら『次のシーズンでこうなるから』と、私の予想とは逆だと説明され、表現を変えたんです」
「もし、そこで“彼”と“彼女”を取り違えてしまったら、あるコミュニティの人たちにとって、とても失礼に当たるかもしれない。翻訳作業において非常にセンシティブなトピックですね」
Netflixの翻訳では「見た目や性的指向だけを判断基準にして、セリフの性差を強調することはない」と言います。
「『女性が好きなら男性的な話し方のほうが自然だ』という考え方こそ、性差の間違った解釈です」
クリエイターと直接コミュニケーションし、作品に込められた想いをより忠実にユーザーへ届ける。そんな翻訳ができるのは、Netflixオリジナル作品ならではのメリットだといえるのではないでしょうか。


実は、この記事冒頭で示したシーンの字幕は、現在「クリケットの玉を見つけた」「僕の家にもあるよ」と、より性差を強調しない言い回しに変更されています。
このように、Netflixでは翻訳のアップデートを日々行っているそう。
自分の中の偏った考え方に気づかせてくれる『クィア・アイ』は、2シーズン全16話をNetflixで配信中!
大好評すぎて、早くもシーズン3の制作が決定! 2019年公開予定です。