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「自首しろ、さもなくば殺す」 フィリピン大統領が始めた前代未聞のドラッグ戦争

国連からの脱退すら示唆する強権的なスタイル

これはギャングの言葉ではない。フィリピン大統領の公の場での発言だ。

6月に就任したばかりの、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領は麻薬撲滅を優先政策に掲げ、半年以内に違法薬物を一掃すると公言している。

確かに、フィリピンの違法薬物問題は深刻だ。常習者は大人だけではない。路上にはシンナーを吸いながらフラフラと歩く、裸足の子供の姿もある。

変死体で見つかった日本人留学生に覚せい剤使用疑惑が浮上したり、覚せい剤入りの液体を日本に密輸しようとした日本人が摘発されたり。日本人観光客でも、夜の繁華街で遊べば、違法麻薬への誘いをかけられることがある。

警察は麻薬密売の捜査を強化し、捜査段階で容疑者を次々と射殺している。政府の動きに呼応するように、違法薬物取引への関与を疑われる人物を殺す「自警団」も暗躍している。

8月中旬までに、警察と自警団は1500人以上を殺している。法的手続きを経ない「正義の鉄拳」で死んだ人の中には、無実の者も含まれているとの指摘がある。

だが、ドゥテルテ大統領が、麻薬組織への攻撃の手をゆるめる気配はない。批判を気にせず、犯罪組織との血なまぐさい戦いを続ける意向だ。

過激な方針に対して、国連や人権団体などから批判の声が上がっているが、フィリピンでは今でも高い支持率を保っている。

フィリピン国民は、なぜ強権的なドゥテルテ大統領に魅力を感じているのか。

自警団による殺害急増、国連の警告にも耳貸さず

ドゥテルテ大統領は、選挙期間中から一貫して、当選したら「麻薬組織や汚職した役人を一掃する」と公言してきた。過去に私刑団を率いて犯罪組織と対峙した「武勇伝」を明かしたこともあった。

一方、捜査段階で警官が容疑者を射殺することを容認するなど、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチなどから非難されてきた。米国から「法の支配」を尊重するよう求められたこともある。

警官や自警団による容疑者射殺が急増したことを受け、国連は8月18日、法に基づかない殺人を容認しないよう警告した。人権理事会が任命した特別報告者は、麻薬組織との戦いを理由に違法な殺人を正当化してはならない、と自制を促した。

しかし、こういった周囲の言葉にドゥテルテ大統領が耳を貸す様子はない。

大統領は国連の警告に対して、「クソみたいな声明を発表するな」と反発。また、声明は正式に調査団を派遣した後に出すべきと国連批判を繰り返した。

地元紙インクワイアラーなどの報道によると、自身の政策を国連が非難し続けるならば、脱退も辞さないとの強硬姿勢を示しているという。

警察幹部らを「麻薬密売の黒幕」と名指しで批判

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ドゥテルテ大統領は就任直後の7月初旬、麻薬取引を秘密裏に擁護しているとして、国家警察幹部5人を名指しで批判。刑事訴追はおろか行政処分すらされていない警察幹部を、大統領が「麻薬密売の黒幕」として暴露するのは異例だ。

さらに8月には、麻薬組織をかくまっているとされる公務員リストの公開に踏み切った。リストには全国各地の政治家、裁判官、自治体の首長、警官など計150人以上の実名が記載されており、地元メディアで大きく報じられた。

捜査段階で警察に殺された麻薬容疑者の人数は、ドゥテルテ大統領の就任以降に急増し、8月15日までに計1564人に達した。警察に自首する密売人や薬物常習者が殺到しているという。

さらに深刻なのは「自警団」の暗躍だ。容疑者殺害の急増は、麻薬組織や悪徳警官が密売の事情をよく知る人物を殺し、証拠隠滅を図っているからだとの指摘もある。

大統領を暗殺する計画の噂も流れたが、ドゥテルテ大統領は強硬姿勢を崩していない。今後、警察の取り締まりはさらに強化される見通しだ。


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人気の背景に「国民の不満」と「行政手腕」

ドゥテルテ大統領の地元はフィリピン南部のダバオ市。元検事のドゥテルテ大統領は1980年代にダバオ市長に就任。以降、ダバオ市は大統領の一家が首長の座を堅持し、今では「ドゥテルテ王国」とも呼ばれている。

ダバオ市は犯罪率の高いマニラに比べ治安が良く、夜に街を出歩いても犯罪に巻き込まれる心配はない、といわれている。

また、犯罪対策だけでなく、警察に女性被害者専用の捜査課を設置したり、深夜のアルコール飲料販売を禁止するなど、住民生活の改善につながる政策を実施してきた実績がある。

ダバオ市は19世紀末から戦前にかけて、多くの日本人が移住した地域であり、今でも日系人コミュニティーが残っている。

フィリピン日系人連合会会長で日系3世のイネス・マリャリさん(45)もドゥテルテ大統領の支持者だ。

マリャリさんはBuzzFeed Japanの取材に「ドゥテルテ大統領は、混乱した社会の要因となる犯罪と麻薬を一掃してくれた」と話す。

大統領戦の序盤、ドゥテルテ政権誕生の可能性は低いとみられていた。フィリピン国内では名物市長だったが、国際的には無名で外交経験も乏しい。女性軽視発言を批判されたこともあった。

それでも、下馬評を覆して地滑り的な勝利を収めた背景には、従来のエリート層が先導してきた政府に対する国民の不満があった、といわれている。

フィリピンの民衆が立ち上がり、20年続いたマルコス元大統領による独裁政権が打倒されたのは、1986年。暴力に頼らず独裁者を追放した無血革命は当時、世界中の注目を集めた。

あれから30年が経過したが、違法麻薬は蔓延し続け、貧富の格差はなくならない。人口増に伴い、交通渋滞は悪化の一途をたどっている。

フィリピンで、何人ものドゥテルテ支持者に「なぜ彼を選んだのか」と聞いたことがある。

返って来る答えのパターンはいつも決まっていた。

「彼のような指導者でないと、この国は変わらない」

「犯罪集団と全面戦争する覚悟がなければ不正はなくならない」

人権軽視、過激発言の危うさや外交の経験不足を問題視する人は、少数だった。

ドゥテルテ大統領の任期は6年。抵抗勢力の妨害・反撃を排除し、麻薬撲滅を実現できるのか。フィリピンのドラッグ戦争は始まったばかりだ。

バズフィード・ジャパン ニュース記者

Kantaro Suzukiに連絡する メールアドレス:kantaro.suzuki@buzzfeed.com.

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