日本人男性ならば、一度は「包茎手術」の宣伝広告を見たことがあるのではないか。インターネットや雑誌の広告をみて、「手術を受けるべきか」と本気で悩む思春期の青少年は多いだろう。
そんな「包茎手術」をめぐって、国民生活センターが6月、消費者トラブルが相次いでいると注意を呼びかけた。センターに相談を寄せる被害者の大半は20代。不安を煽り、即日手術を迫った上で高額な治療費を請求するなど詐欺まがいの行為が横行しているという。

組織が壊死する被害も
国民生活センターの発表によると、美容医療サービスに関して男性から寄せられた相談件数は過去5年度分で計2131件。そのうち、包茎手術に関する相談は1092件と半数以上を占めている。
中には、術後も出血が続いたり、組織が壊死する危害報告も計74件あった。排尿障害など機能的な問題が生じているケースも見られたという。
発表資料に掲載された相談事例を読むと、手口の悪質さと被害の深刻さが見て取れる。
広告では、7万円~10万円とのことだった。クリニックで10万円くらいの手術を受けたい旨を伝えたところ、安い手術だと汚い仕上がりになると言われ、高い手術方法を勧められ総額約80万円の契約で、即日手術となった。2週間経つが術後の傷口がぱっくり割れてしまい、また、引きつれ感があり、陰茎部分が何も感じなくなってしまった。
ネット広告を見て出向いた。医師とは思えない男性から説明を受け、手術台に上がらされ、医師から手術費用が65万円と言われた。また、「ヒアルロン酸を注射しないと包茎に戻る。15万円のものは一生残る」と言われ、約200万円の契約となった。痛みが引かず、泌尿器科を受診したら、一部が壊死していると言われた。
被害金額はもちろん、「一部が壊死」なんて、男性にとってみれば、想像したくもない悲劇だ。
高額の手術を断るとローン会社を紹介すると言われ、勝手に審査を通されてしまい180万円を契約したという、信じられない悪徳手口も報告されている。
被害事例の約8割で、手術を即日契約していたことも特徴の一つだ。
手術を受けようと思った理由を見ると、「衛生上の問題があり、病気になると思った」との回答が最も多かった。
一方、普段は包皮が亀頭を覆うが勃起時に手で簡単に剥けたり自然と亀頭が露出する「仮性包茎」の手術だけを見ると、「包茎のままだと自信が持てないと思った(29.3%)」「異性に包茎だと思われるのが恥ずかしい(28.0%)」など、健康上の問題ではなく、コンプレックスと思われる理由が上位となった。
仮性包茎、清潔ならば問題なし
そもそも、包茎は手術をしなければいけない「病気」なのか。
西山美容・形成外科医院の西山真一郎院長は、国民センターの発表文で、医学的なアドバイスをしている。
包茎には真性包茎と仮性包茎があり、真性包茎にはカントン包茎を含みます。真性包茎では 亀頭炎を起こしやすく、仮性包茎では、多くの場合、清潔にしていれば問題はありません。
西山院長によれば、痛みなど日常生活に支障をきたすような自覚症状がある場合も医学的な診断が必要という。さらに、医学的に手術の必要性がある場合は「保険診療で手術を受けられる可能性がある」としている。
また、手術に際しては医師から十分な説明を受け、受診した当日に施術を受けるのは止めるよう注意を呼びかけている。
包茎は恥か?

包茎を恥じる風潮があるのは日本だけではない。また、ユダヤ教やイスラム教など宗教的な理由から割礼(性器の包皮切除)する国もある。
カトリック教徒が国民の大半を占めるフィリピンも割礼の習慣があり、包茎を恥とする国の一つだ。
フィリピンに4年半在住した経験のある筆者は、地元の報道機関に「割礼文化のない国に生まれた日本人」として取材を受けた経験がある。
筆者を取材したフィリピン人記者によると、カトリック文化のあるフィリピンですら、宗教的な意味合いは薄れているという。
むしろ、日本と同じように、コンプレックスを感じて割礼する男性が増えているのだという。思春期の少年にとっては、いじめの原因になることもある。
だが、包茎手術をしたからといって、女性にモテるわけではないということも、日本と変わらない。これは世界共通だ。