ネット上で多くの共感の声を集めた、「恋愛をしない人」を描いたマンガがあります。
宇宙野悠さん(@soranoharuka)は、オンラインで発表したマンガ『恋愛感情を持たない私の話』『恋しない小石内さん』で、恋愛をしない主人公を描きました。
描いたきっかけは、宇宙野さん自身が、他者に恋愛感情を抱かない「アロマンティック」、他者に性的に惹かれない「アセクシュアル」ということ。
読む人に「普通って何だろう…?」と問いかけながらも、クスッと笑えるマンガを描き続ける宇宙野さんに、話を聞きました。

マンガ『恋愛感情を持たない私の話』への大反響
宇宙野さんは、子どもの頃からマンガ家になることを夢見ており、社会人になってから、親友の応援などをきっかけにマンガを再び描きはじめました。
現在は、会社員のお仕事と両立しながらマンガやイラストを描いています。
「基本ギャグ、でもたまにシリアスでちょっと泣ける話を描くのが好きです」と話します。
2021年3月に「恋愛感情を持たない私の話」を投稿し始めた宇宙野さん。同年4月にTwitterにもアップしたところ、1千回以上リツイートされ、4千を越える「いいね」を獲得しました。
作中では、恋愛感情を持たない主人公が、幼少期のバレンタインデーや初めての「彼氏」との付き合いの中で、モヤモヤを抱く様子を描き、読者から多くの共感の声が集まりました。
恋愛感情を持たない私の話 普通って何だろう… #コルクラボマンガ専科 #アセクシャル (1/9)
宇宙野さんは、この作品を「自分のことを描く」というテーマで執筆を始めたといいます。
性自認が「女」や「男」にあてはまらない「Xジェンダー」であると話す宇宙野さん。この作品は、自身が「アロマンティック」(恋愛的指向の一つで他者に恋愛感情を抱かないこと)であり、「アセクシュアル」(性的指向の一つで他者に性的に惹かれないこと)である経験を描いたものだったのです。

宇宙野さんは、この作品に寄せられた多くの共感の声に「救われた」と明かします。
「『共感した』『私だけじゃなかったんだ』という声を多くいただき、私自身が『私だけじゃなかったんだ』と思うことができ、救われました」
「漫画を通して、こういったセクシャリティを持つ人がいることを知ってくださった方もいたようで、関心を持ってもらえるきっかけになって良かったと思います」

ただ、『恋愛感情を持たない私の話』では「アロマンティック・アセクシャル」という言葉は出していなかったと話します。
実際、Twitterに投稿する際につけられた「#アセクシャル」というハッシュタグ以外で具体的な言葉は用いられませんでした。
「言葉で単純に分類してしまうことに、少しモヤモヤを感じている時期だったのかもしれません」と、当時のことを振り返ります。
「『アロマンティック・アセクシャルだからこう』じゃなくて、最終的にはいろんなあり方が認められた上で、『私だからこう』『この人だからこう』というふうにその人自身を見てもらえるようになればいいな、と今は思います」
マンガ『恋しない小石内さん』
実は、宇宙野さんが「恋愛感情を持たない主人公」を描いたのは、『恋愛感情を持たない私の話』が初めてではありません。
『私の話』の投稿から約1年前の2020年4月からオンライン上で連載が始まったマンガ『恋しない小石内さん』でも、恋愛感情を持たないキャラクターが主人公でした。
『恋しない小石内さん』の主人公は、30歳の小石内あろま。作中で、「アロマンティック・アセクシャル」だと紹介されています。

周りの友達がどんどん結婚していく時期に、自身のセクシャリティや生き方について特に悩んだと話す宇宙野さん。
「私はずっと1人なのかな。これからどう生きていこう、とモヤモヤしていました」
そのような中でふと、「そういえば、アロマンティック・アセクシャルを題材にしたマンガって、あまりないな」と思った宇宙野さん。
「自分のモヤモヤを形にしつつも、だからって不幸なわけでもなく、楽しく生きてるんだってことも知ってもらいたくて、コミカルなギャグ漫画として描いてみました」
最近になり、ドラマなどでも取り上げられるようになった「アロマンティック・アセクシャル」。存在が広く認識され始めて、嬉しいと思っているといいます。
ドラマの登場人物に共感できる部分が多く、泣いてしまった場面もあったと明かします。ただ、その一方で、「自分に当てはまらないな」という部分もあったと振り返ります。
「ひとえに『アロマンティック・アセクシャル』といっても様々な人がいるので、『この人はこうなんだな』という目で登場人物を見ていました」
「私は基本的にひとりで生きていこうと思っていたのですが、ドラマの中の登場人物が選んでいたような選択肢など、さまざまな道があるんだなと考えさせられました」
『恋しない小石内さん』のキャラクターたち。
『恋しない小石内さん』では、小石内さんと同じ会社で働く、レズビアンの「勝日さん」やゲイの「四雲くん」が登場します。

彼らを描こうと思ったきっかけや、描く際に心がけている点については、こう語ります。
「なんというか、アロマンティック・アセクシャルも他のセクシャリティも、『特別な存在』『珍しい』と思われがちな気がします。ですが、実際は本人達が言わないだけなんだと思います。当たり前に近くにいたりして、普通に日常を送っているんですよね」
「多様なセクシャリティを登場させたのは、彼らは別に特別な存在ではなくて、当たり前に日常にいるんだよ、というのを知ってほしい気持ちが大きかったです」
「『特別な存在』ではないと思っているので、心がけていることは、他のキャラクターを描くときと特に変わりません」
「ただ、自分が生み出したキャラクターなので、どこか自分自身が投影されている部分があると思います。勝日さんの『女の子らしい』と言われることに対するモヤモヤや、四雲くんの友達の結婚報告を受けた時の複雑な感情などは、少し自分の感情が投影されているかもしれません」
『恋しない小石内さん』のこれから。
『恋しない小石内さん』は、2021年3月の投稿を最後に更新が止まっています。
今後について尋ねました。
「更新したいです。ずっとそう思いながら止まっているのですが…」
「今、小石内さんの過去編を描いています。描き出してはみたものの、私にとって、わりと重たい内容になってしまって、ちょっとつまずいています」
「ただ、小石内さんのストーリー自体は結構先まで考えていて、他のキャラクターがメインになる話やまだ出せていないキャラクターもいるので、ちゃんと最後まで描きたいと思っている作品です」
「今は、本業が忙しくてなかなか活動できていません。しかし、落ち着いたらまた活動再開したいと思っております。描きたいもの、描きかけのものがたくさんありすぎてどこまでできるか分かりませんが、『恋しない小石内さん』はその中でも特に完成させたいと思っています」
「『性別感をぶち壊す』が当初掲げたテーマなので、それは大事にしつつ、私らしくコミカルな作品を描いていければいいなと思います」
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