
ステイシー・ナジさん(72)の夫、デイビッドさん(79)が7月に新型コロナで亡くなったとき、ステイシーさんは悲しみだけではなく、怒りも覚えていた。地元テキサスのジェファーソン・ジンプルキュート(Jefferson Jimplecute)紙に7月30日付けで出した訃報記事に、ステイシーさんはその理由を書いている。
「デイビッドが死ぬ必要はなかった。家族はそう信じています」
「彼の死、そして他の罪のない人たちの死は、トランプ、テキサス州知事グレッグ・アボット、この大流行を真に受けず、命よりも自分の人気や票の方に関心があるすべての政治家のせいだと、家族は責めています」
「デイビッドは、できることを全てやっていました。でも、政治家たちは違いました」とステイシーさんは続けている。
「恥を知りなさい。報いを受けますように」
デイビッドさんが亡くなってから3カ月経過したが、ステイシーさんの痛みは弱まらない。犬数匹と暮らしているが、寂しくてしかたがないと辛い胸の内を明かした。
死亡記事が拡散してから届く嫌がらせのメールとも、戦わなければならない。身の安全を考慮すると庭にジョー・バイデンのサインは出せないが、トランプ氏を失職に追い込みたい気持ちに押され、テキサス州マリオン郡事務所に投票用紙を手渡してきた。
「トランプは思いやりがないし、他者に共感もしません。(新型コロナウイルスで)亡くなった人、残された家族のことなども、まったく気にしていません」とステイシーさんはBuzzFeed Newsに話す。
「トランプは本当にうんざりする人です。再選されないことを祈ります」
「この国には愛する人を(新型コロナウイルスで)失って悲しんでいる人が大勢いるのに、トランプは気にしないのです」
新型コロナウイルスの大流行により、アメリカのみならず世界中の人々が困難で不安定な時期を過ごしているが、愛する人を失った人にとっては、なおさらのことだった。
パートナーを失う痛みは、とりわけ熾烈だ。配偶者の死は、世界が砕けるような孤立する経験だ。
特に、他の人と安全に嘆き悲しめず、自分や他の大切な人たちが感染する心配もしなければならない現状ではなおのことだ。
アメリカでは、22万3000人以上が新型コロナウイルス感染症で死亡している(10月23日時点)。トランプ政権の新型コロナ策に対する住民投票とも言える選挙が近づいてきているが、その死を悼む多くの遺族もまた有権者だ。
ソーシャル・ディスタンシングなどのルールをすべて守っても、配偶者を失ってしまった人たちは、大統領とその側近が臆面もなく感染予防策を軽視する場面を目撃した。
悲しみをさらに深めさせているのは、パートナーの死は防げたのではないかという思いだ。
もっと政府が強硬な行動を取っていれば、閉鎖命令やマスク着用の義務化、移動の禁止がもっと早くに適用されていたら、大切だった人はまだ生きていたかもしれない。
「ティムの死は防げたと思います」とアンドレア・マルケイさん(53)は話す。7月に、52歳の夫を新型コロナウイルス感染症で亡くした。
「中央政府、州政府がもっと早くに行動を取っていたら、夫は死ななくて済みました」
ソーシャル・ディスタンシングのガイドラインを露骨に無視して発生した大統領官邸での集団感染で、トランプ氏自身も陽性となった。フロリダ州オカラ市在住のマルケイさんは、相次ぐ感染が報道された1週間を驚きながら見守った。
「大統領が感染し、感染しているのに無頓着な行動を取っていて、ものすごく頭にきています」とマルケイさんは話す。
「新型コロナ感染に対する大統領の態度を見て、(配偶者を失った)喪失感と戦っている私たちは、顔を叩かれたような気持ちになりました」
怒りに背中を押され、マルケイさんはCOVID Survivors for Change(変化を求める新型コロナサバイバー)と繋がった。新型コロナで身内を失った遺族が、この大流行を終息させるために政治家にもっと望ましい行動を要求している組織だ。トランプ氏が再選されないよう、どんな方法でもできることには関わるつもりだ。
「(トランプ氏は、新型コロナウイルスが)高齢者だけに影響があると信じさせました。でも私の夫は、53歳でした」とニューオーリンズ在住のソーニャ・ポーク・ホールさん(49)は話す。
ホールさんは、Survivors for Changeのメンバーが始めたフェイスブック上の支援グループに入っている。
ホールさんの夫マークさんは、4月に亡くなった。ニューオーリンズ警察に30年勤めたベテランだったが、ホームレスの人をホテルへ移すのを手伝ったあと、新型コロナウイルスに感染した。
「心臓も悪くなかったし、病的に太ってもいませんでした」とホールさんは話す。
「3月18日に健康診断を受けたばかりで、健康そのものでした」
ホールさんは、バイデン氏とトランプ氏のどちらも支持していたわけではなかった。夫が亡くなるまで、11月にどちらに票を入れるべきか分からなかったという。
「あまりにも多くの人がトランプを支持し、信じているため、トランプがもっと真剣に新型コロナのことを考えていたら、みんなも真剣に考えたと思います」とホールさんは話す。
「死者数も抑えられたでしょう」
「強いて言うなら、ましな方を選ばざるを得ません」とホールさんは続ける。
「それで最終的に(バイデンに)決めました」

パートナーを失った人の中には、失ったものが大きすぎて、単に自分の人生を立て直すことで疲れ果て、国を立て直すことに心を傾けられない人もいる。そんな人々の痛みを理解できるのは、同じように新型コロナウイルスで配偶者を失った人々だ。
インディアナ北部在住のルー・ベリーさん(37)が新型コロナで亡くなった後、妻のブリアンナ・ベリーさん(31)は、フェイスブック上でグループを作った。
COVID-19 Widows and Widowers Support Group(新型コロナで配偶者を亡くした人の支援グループ)のメンバーは10月10日時点で24名、その殆どが女性だ。
比較的小さいグループだが、この半年でメンバーは徐々に増えている。新型コロナウイルス感染症で亡くなるアメリカ人が増え、残された配偶者が支援を求めているからだ。
フェイスブック上で検索して、自然とグループを見つけてメンバーになる人もいれば、ベリーさんが他の支援グループで知り合った人や、ニュースの死亡記事を通じて知り合った人もいる。
このグループは、新型コロナで配偶者を亡くした人にとって、避難場所の役目をしている、とニューヨーク州ハンティントン在住のトゥルシー・パテルワークオフさん(28)は話す。4月初旬に、夫ルークさん(33)を新型コロナで亡くしている。
「慰めになります。慰め。そう呼ぶのが一番しっくりきます」とパテルワークオフさんは語る。
「みんな、私と同じことを経験しています。同じ経験をしている人たちからの支援が必要なのです」
「つらいとき、互いに電話しあいます」。そう明かすのは、ニュージャージー州ウィーホーケン在住のナターシャ・ギボンズホドキンソンさん(37)だ。彼女も夫グレゴリーさん(47)を4月に亡くしている。
「同じ経験をしている人と話すのは、助けになります」
このグループでは、政治の話題は頻繁には挙がらない。しかし、ソーシャル・ディスタンシングのガイドラインを無視する人や、多くの命を救えたかも知れない措置を取らなかった政府を見る辛さは、定期的に話し合われるそうだ。
公然と新型コロナ陰謀説を唱える人の対応に追われることもある。ベリーさんが夫の死亡記事を出した後に、無慈悲なメッセージを送りつけてくる人もいた。
「新型コロナは存在しないと言ってくる人が、何人もいました」とベリーさんは話す。
「ある未亡人の方と話したのですが、『みんな大きな陰謀説で、病院が死に至る注射をしている』という話を聞いたと言っていました。馬鹿げています。誰がそんな話をしているのでしょうか」
配偶者の死を経験した人々が互いに繋がる支援をしている、ソアリング・スピリッツ・インターナショナル(Soaring Spirits International)。同団体は、セミナーや座談会などのプログラムを提供している。
創設者のミッシェル・ネフ・エルナンデスさんは、新型コロナのニュースが出回っている現状が、配偶者を失った人々の状況をさらに困難にしていると話す。
「本当につらいのは、もっと上手くできたんじゃないか、というニュースだと思います」
「例えば、他の方法でこの大流行に対処していたら、もっと早くに閉鎖していたら、何人の命が救えただろうかと。受け止めるのが本当に難しいことです」
2005年に自転車事故で夫を亡くしているエルナンデスさんは、「たられば」は自分も含めて配偶者を亡くした人がよく悩むことだと言う。
もし他の道を走っていたら、もし20分遅く出かけていたら。
「でも今回の場合は、世界中がこの『たられば』の話をしています」

新型コロナウイルスのニュースが雪崩のように押し寄せる中で、パートナーを亡くした人々の悲しみは、一向に癒やされない。
フェイスブックグループを始めたベリーさんにとって、ホワイトハウスでの感染拡大のニュースが相次いだ週は、特に辛かった。
「ニュースで報じられるあらゆることをきっかけに、記憶が呼び起こされるようでした」
病院の外にいる支援者に手を振るため、トランプ氏が大統領警護隊員らと一緒に大型SUVに乗って姿を現したのを見て、ベリーさんはぞっとしたという。
新型コロナウイルスの脅威をベリーさんは身をもって知っていたが、トランプ氏は他の人を危険にさらすことに無頓着に見えた。それでも夫のように悪化するのではなく、トランプ氏の病状の改善を願った。
「(トランプ氏は)死んで当然だという人もいます。私も好きではないし、同意もしませんが、最悪の敵でも死ぬことは望みません」とベリーさんは話す。
新型コロナウイルスに関するトランプ氏のコメントは、自身が感染した後も、配偶者を亡くした人を全米中で苛立たせている。
10月5日、トランプは退院に際し、「新型コロナウイルスを恐れるな。新型コロナウイルスに人生を支配されるな」とツイートした。これを受け、7月に新型コロナウイルスの合併症により夫で俳優のニック・コルデロさんを亡くしたアマンダ・クルーツさんは、大統領に対して公然と異を唱えた。
「残念ながら、新型コロナウイルスは私たちの人生を支配しましたよね?」クルーツさんは自身のInstagramへの投稿で訴えている。
「ニックの家族の人生、そして私の家族の人生を支配しました」
「新型コロナが私の愛する人に何をしたのかを見ながら、95日間、夫の隣で泣き続けました。新型コロナウイルスを恐れるべきです」

愛する人を新型コロナウイルスで失った人の中には、悲しみを政治行動へ向ける人もいる。目立っているのは、新型コロナウイルスで親を失った子どもたちだ。
6月に新型コロナで父親を亡くした、クリスティン・ウルキザさんもそのひとりだ。
ウルキザさんは、Marked by COVIDという組織を立ち上げた。同組織は、10月4日から11日までの1週間、全米規模で喪に服すNational Week of Mourningを開催した。
8月、ウルキザさんは、オンラインで開催された民主党の全国大会で演説をした。ビデオメッセージの中でウルキザさんは、父親はトランプ氏の支持者で、新型コロナウイルスを軽視する大統領を信じて、友人とバーに行ったと話している。
「我々は安全だ、(営業活動を)再開できると大統領が言った時点で、父はいつも通りの活動を再開しても安全だと思っていました」とウルキザさんはBuzzFeed Newsに話している。
「だから父は感染し、残念ながら命を落としてしまいました」
ウルキザさんにとって、政治活動は悲しみを消化する過程の大部分を占めている。
「新型コロナ関連の互助会では、政治的な話題を禁止している団体がいくつかあります。理解できますが、私はそこには入れませんでした」とウルキザさんは話す。
「政策の失敗、指導力の失敗、度重なる嘘に対する怒り。私はその怒りを抑えられません。だから、痛みを目的(を達成する動力)に変える準備ができている人たちのために、別の場所を作っています」
テキサス出身で、現在はニューヨークのブルックリンに住んでいるフィアナ・チューリップさん(40)は、7月に母親のイザベル・パパディミトリウさん(64)を新型コロナで亡くした。その直後、Marked by COVIDに参加した。
母親を亡くした直後に行動できたことに驚いた、とチューリップさんは話している。
「私にしたら早かったです」
「母が亡くなった日は泣いて過ごしましたが、同時に母を取り戻そうとしました。実際に取り戻せるわけではありませんが、心が向かったのはそこでした。考え得るのは、指導者の交代でした」
チューリップさんは、バイデン氏が選挙に勝つことを心の底から願っている。バイデン氏が勝つことで、平安と終結を実感できるという。
「母のために、活動をしているのです」とチューリップさんは言った。
民主党全国委員会の広報担当クリス・メーガー氏は、BuzzFeed Newsの取材に答えた。新型コロナウイルスで愛する人を亡くした人々が重要な投票者集団になると、期待しているそうだ。
「クリスティン・ウルキザさんなど、全米で家族を失った人たちが、自らの体験を共有し、今回の選挙で危機にさらされていることを伝えようとしています」とメーガー氏は話す。
トランプ陣営は、新型コロナ大流行における大統領の手腕を訴え、選挙戦を戦ってきた。
「これまでに幾度となくトランプ大統領が話しているように、アメリカ人の命ひとつが失われることは、悲劇です」トランプ陣営の広報担当コートニー・パレラ氏は話す。
「新型コロナウイルスは、私たち、そして私たちの愛する人を脅かしてきた敵ですが、主要メディアや民主党がなんと言おうと、トランプ大統領とその陣営は、この大流行に真っ向から取り組んできました」
エルナンデスさんは、新型コロナウイルスに配偶者を奪われた人々が、まだ目立って政治論争に関わっていない現状には驚かないという。彼ら・彼女らにとっては、毎日をなんとか生きるので精一杯なのだというのが、エルナンデスさんの考えだ。
「飲酒運転防止母の会(MADD)や銃による暴力を経験した人たちのように、(亡くなった後に)怒りが込み上げる場合もあります」エルナンデスさんは話す。
「時として、怒りを向ける準備ができていると、さらに悲しみが行動へと駆り立てます。しかし、新型コロナウイルスで配偶者を亡くした人の場合、うんざりするほど絶え間なく動き続ける乗り物に乗っているようなものです。降りることもできず、自分自身も病気になる可能性があります」
ベリーさんも、選挙のニュースには疲れ切っている。トランプ氏が違う行動を取っていたら夫はまだここにいたのではないかと、自宅でひとり、考えずにはいられない。
「(トランプ氏は)2月には(新型コロナウイルスの脅威を)知っていたことが分かっています。大統領は認めました。マスク着用を義務化していたら、恐らく多くの人の命を救えたでしょう。そう考えると、気が動転します」とベリーさんは話す。
「そうしていたら、たぶん夫はまだ生きていたでしょう。これは、私が戦わないといけない気持ちです」
ベリーさんは、これまで政治的には中道で、民主党と共和党のどちらにも投票したことがあるそうだ。しかしトランプ氏の新型コロナ対応を見て、断固として左派に傾いた、と明かす。
「夫の死に対して責任がある相手に、投票はできません」
この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan